亜人同士の喧嘩はタダじゃ済まない
ルイも随分魔法がうまくなった。
そして僕にべったりくっつくようになった、以前にも増して…
これはとある日のこと
「ねぇ、リリィは
なんで翼をいつも隠してるの?」
ついに聞かれた。
この子は僕が
それに女神様にも言われた通り、僕が天使ってことは秘密にしておいた方がいい。
「実はね、隠してるんだよ。
その方が何かと都合がいいからね。」
今はまだ翼が服の中にしまえるくらいだからいいけど
もっと大きくなって隠しきれなくなったら
別の言い訳考えないとな…
「そ、それはそうとルイはこれからどうするの?
教えられる魔法は全部できるようになったでしょ?」
若干、疑いの目を向けながらも
ルイは考え込む。
これまで魔法だけやってきたんだ。無理もない。
むしろそれ以外の選択肢が思い浮かばないのが自然だ。
その時だった。
孤児院の扉が開く。
「やぁやぁ君たち何年ぶりかな、元気にしてたかい?」
この高らかに響き渡る凛とした声、
まさか…
「久しぶりに顔を出してみれば
忘れられていたなんて、そんなことはないよな!?」
間違いなかった。
王都騎士団長、ルーナさんがいた。
騎士団長ともなれば暇じゃないはずなんだけど…
「なんでここにいるんですか!?」
「そ、それは…
そうだ、君たちが元気にしてるか気になったんだ。
決してウソじゃないぞ。」
ではその泳いだような目は何でしょうか?
是非ともご説明いただきたく。
「そうだ、君たち鍛錬はしているか?
よければ私が君たちの稽古をつけよう。」
それに喰いついたのはルイ、
真っ先に手を挙げて立候補した。
「いいじゃないか少女、
さぁどこからでもかかってくるがいい。」
「了解しましたっ」
獣人特有の身体能力の高さで駆けまわり、立ち回り。
傍から見れば
いい感じに攻めているように見えた。
ルイが地面に転がされるまでは…
当の本人もポカンとした顔してるし、
僕だってびっくりした。
そしてルーナ様は得意げに胸を張っている。
「さぁ次は誰だ。
どこからでもかかってくるといい。」
「私がやるわ。」
聞いたことのない声が聞こえる。
背後から感じる圧倒的な存在感、
そこにいたのは竜のしっぽを生やした
「あんたらのお遊びみたいな模擬戦なんて見てても欠伸が出るわ。
私がお手本を見せてあげる、そこで黙ってみてなさい。」
ビシッと指をこちらにさして
高らかに宣言する少女。
…競ってるわけじゃないんだけどなぁ
「元気のいい少女じゃないか。
さぁ早く始めよう。」
その圧倒的は力に
踏み込まれた地面が軽く割れた。
(聞いたことはあったけど…
やっぱり
龍に似た爪や尻尾を使って攻撃しようとするも
ルーナ様は涼しい顔でそれを避け続ける。
隙を見て腕を取られた
ルイと同じく地面に転がされた。
しかも今回は彼女の怒涛の攻めの勢い余って
地面に半身埋められた。
「いやぁすごかったぞ、さすが
つい私も勢い余ってしまった。」
そう言って
引っこ抜かれた子は
僕とルイの2人を指さして叫ぶ。
「い、今のが本気だと思わないことね。
次はあんたよ、あんたも同じ目に遭いなさいよ!!」
ホンネが隠し切れてませんよ。
「おっ!?次は君かな?」
「いやいやいや僕はそんなことやりませんよ。」
まるでやれやれとも言いたげに
「なによあんた、臆病にも程があるわよ。
それとも何かしら?見せられないほど弱いのかしら?」
まぁそうだしな…
天使として生まれ変わって1回の実戦なんかしたことないし
使える魔法といえば戦えるようなものでもない。
身体能力はおそらく人並みかそれ以下、
天使の力を使うのはNG
うん、弱い。
っていうか、僕が与えられた仕事は
戦うことじゃないし、見せるための実力なんて必要ないんだよなぁ。
(何言ってるのかしら?
あなたもいざとなったら戦わなきゃいけないのよ。
天使とはすなわち、神の率いる戦力のことでもあるんだから。)
MA・JIですか…
てっきり戦わなくてもいいと思ってた。
で、で、で、でも天使が戦うような大事、
そうそう
起こるわけでもなし、まだいいんじゃないですか?
向こうもこっちが返してくるとは思わなかったようだ。
わずかにたじろぐもとどまる。
僕が女神様との脳内会議の内容を
伝えようとしたその時だった。
「リリィが弱いはずないでしょ!?
リリィは私の先生なんだから、君なんかより強いよ!!」
「へぇ、そんな大口叩くならあんたから地面に埋めてあげるわよ。」
ルイが乱入したことで
その場を余計にカオスな雰囲気になった。
僕に向いていた矛先がルイに向いたというわけだ。
獣人と
まだ子供とはいえ、さっきのを見れば分かる。
“この2人が喧嘩でも始めたら
ここら一帯が大変なことになる”
肝心のルーナ様はほほえましそうに眺めている。
止めてくださいよ…
そうする間にも2人の間には
火花が散り、険悪な感じになっていく。
「覚悟はいいかしら?」
「そっちこそ大丈夫なの?泣いて謝る準備はできてるのかな?」
2人の間に静寂が流れた次の途端、
両者同時に踏み込んだ。
はっきり申し上げますと…
僕の目では追えないようなレベルの戦闘が繰り広げられている。
僕はさ、今は天使といえど力はないも同然だし、
それに元人間だからなんのこっちゃ分かんない。
ましてや目の前でよく分からないレベルで
戦ってる2人は亜人族、
人間とは比べ物にならないほど強力な種族。
分かるわけないんだが…
僕の横で「ふむふむ」なんて言いながら
顎に手をやって考え事してるこの人だけは別だ。
ひときわ大きな音が響いたかと思いきや
2人が互いに後ろに飛びのく。
「あんた、獣人のくせになかなかやるわね。」
「君の方こそ」
再び2人が踏み込んだ、踏み込んだのだが…
なにかマズい予感がした。
根拠はない。
でもここで止めなければいけないような予感がした
「
反射的にだった。
いつもは天術目録を保管してる魔法ならもしかしてと思った。
僕は一度、あの魔法陣な中に手を突っ込んだことがある。
その時の感覚はなんというか不思議な感じだった。
まるでその中の空間が無限に続いているような…
僕が叫ぶと同時に2人の間に
魔法陣が展開した。
本来ぶつかるはずだった
2人の拳がその中に吸い込まれる。
「あっぶなかったぁぁぁぁ…」
こうしてなんとか最悪の事態は免れた。
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