大投票社会 【未来怪談】

Grisly

大投票社会

ある日。

全人類に突如として通知が届いた。


「これより、貴方の大事だと思う者、

 10人を選び、各自送信してください。」


一体何なのだろう。

人々が首を傾げながら、作業を終える。




すると、

スクリーンに各国の首脳が映し出された。

複雑な表情。


「皆さん、今日まで我々は、

 狭く、希少、コストがかかり、

 限られた者にしか扱えなかった物を

 

 広く、安価に

 より多くの人に普及させる事で、

 多くの問題を解決し、発展してきた。



 限定的だったテレビが、

 今やスマートフォンとなった。


 誰もがすぐにたちまち世界中に繋がり、

 個人がテレビ局を持っているような状態。


 古くは、自動車、電話、テレビ

 これらの物だ。

 



 止まらない人口増加。

 それに伴う、環境汚染、食糧危機。

 これらの問題を解決するため、

 

 この昔ながらの手法を適応する。

 すなわち、個人で投票する時代の到来。

 


 さて、今回残念ながら

 10票集められなかった者達は…」




それを聞いていた皆は慌て始めた。

最期を悟り、別れを惜しむ者。


昔の恩があるのに、

何故投票しなかったのかと他者を責める者。


あらかじめこれを予測し、裏金を渡し

工作をして生き残れた者。


様々である。




さて、各国の首脳の

何とも言えない表情の訳は…




人々の嘆きは当然なのだ。


何十人もの、ライターに書かせ、

振付師まで手配し、練りに練り上げた

スピーチをする彼等。


生まれた時から、それに全てを捧げ、

人生を賭けて、勝負している彼等。


それでも、投票で生き残るのは

非常に厳しいのである。


ようやく私達の苦労が

一般に理解される時なのだ。

ようこそ。私達の世界へ。


次回は4年後です。




もっとも、同じような表情をする者達は、

政治家にとどまらないだろう。


視聴率に全てがかかっているテレビ局。


形は変わっても、数字が全てを決める

各種配信サービス。


人生を賭け、日々の時間を削り、

命を削ってでも、選抜総選挙に賭ける

アイドル達。


某恋愛番組の、中間脱落投票に怯える

若者達。


ひいては、YouTuberや、Tik Toker。

インフルエンサー達。




あれ。このような未来は、

もう既に、ゆっくりと、

しかし確実に、近づいているではないか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大投票社会 【未来怪談】 Grisly @grisly

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ