第21話顔と体だけと私を罵りましたね。

 私は、独裁国家エウレパに密書にバルトネの内部事情と、隠し通路の位置、城内の構造を送った。


 そして、エウレパ国王に自分を救い出して欲しいと伝えた。

 エウレパ王国はシャリレーン王国のように閉鎖された国だ。


 それゆえ、パレーシア帝国との国交もない。

 しかし、かなり強い騎士団を持っているという噂を聞いていた。


 私はクリス皇子殿下に会うのが怖かった。

 バルトネ王国にいては、また彼に献上されてしまう。


 彼を思い出すだけで、口に幼虫を突っ込まれたような感触を思い出して吐き気が止まらなかった。


 バルトネ王国は王家が急速に求心力を失っていた。

 側室が全員死亡するという異例の事態に混乱していたのに、国王は新たな側室をすぐに迎え入れた。


 レイラの素性はすぐに露見し、そんな彼女を側室とし寵愛する陛下に批判が集まった。

 要職についていた貴族たちは次々と引退した。


 バルトネ王国が混乱し傾いたところに、お迎えが来た。

 私の次の嫁ぎ先になるエウレパ王国だ。

 クリス皇子から逃げたくて、エウレパ王国を安易に選んだことを後悔した。


「噂以上の美しさだ⋯⋯アリアドネ⋯⋯聖女のそなたが余に永遠の命を与えてくれ」

 舐め回すように見つめてくるエウレパ国王は、私の体も神聖力も求めているようだった。しかも、聖女が万能な存在だと勘違いしている。


「エウレパ国王陛下、お待ちしておりましたわ」

「声もすごく良いな。早速、今晩から可愛がってやろう」


 エウレパ国王は私の父よりずっと年上だ。


 それに、男が苦手な私でなくても、ほとんどの女が吐き気がしそうな汚い顔をしていた。

 彼の生き方がまるで表に出ているように醜い。

 そして、彼の人をモノのように見る目はルドナ国王に似ていて私は身震いした。


 閉鎖された国家エウレパに入った途端、私は想像以上に発展していて驚いてしまった。

(学べることが沢山ありそうね⋯⋯)

 

 私は16歳になった。

 隣国のカルパシーノ王国に妹がいると思うだけで、強くなれる気がした。


 城内に入るなり、エウレパ国王に腰に手を回され今にも吐いてしまいそうになった。

(この男に口づけでもされたら、即死してしまうかも⋯⋯) 


「国王陛下⋯⋯実は、バルトネ王国で怖いことがあったのです。クレアラ王妃に嫉妬され毒を盛られました。私は、陛下のお気持ちさえあれば十分ですわ。陛下は王妃殿下を大切にしてくださいませ」


「心配するな。カタリーナは若い男が好きでな、カルパシーノから拾ってきた奴隷で毎晩のように遊んでる。カタリーナも余に興味などないから、アリアドネはただ余に愛されていれば良い」

 

 エウレパ国王の手が腰から下の方におりてくる。

「カタリーナ王妃殿下にご挨拶させてください。この国で1番尊重されるべき女性です。まずは、ご挨拶に伺うのが礼儀かと」

 

 エウレパ国王に案内された部屋は王妃の寝室だった。

 ノックをして開けたら、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 カタリーナ王妃は想像と違って、妖艶な毒婦のような方だった。

 はだけたドレスで、ほとんど服を着ていないような少年たちと戯れていた。

(若いって、まだ子供じゃない)


 私は女にも性欲があることだけでも驚いたのに、これ程に偏った欲望を持ちそれを隠しもしない女が存在することに言葉を失った。


「カタリーナ・エウレパ王妃殿下に、アリアドネ・シャリレーンがお目にかかります」

「あら、本当に綺麗な子ね。陛下があなたの事を楽しみにしていたのも分かるわ」

 舐め回すように私を見つめている彼女の目がいやらしい。


「カタリーナ様、お水をください⋯⋯」

 少年の1人がいうと、カタリーナ王妃は口移しでお水を飲ませた。


 少年は本当に水もろくに与えられてないのか、必死に彼女の口から水を飲んでいた。

 しかし、その表情は苦痛で歪んでいた。

(気持ち悪くて見てられないわ⋯⋯こんなこと幼い時にされたら女性恐怖症になるのではないかしら⋯⋯)


 私はある可能性に気がついた。

「隣国のセルシオ・カルパシーノ国王陛下もエウレパ王国の奴隷だったのですよね」

 セルシオ・カルパシーノは国王になり、当然、妃をとるべきなのに妻を取らない。

 彼はエウレパ王国での経験で、女性恐怖症になっているのではないだろうか。


「アレは、本当に美しい子だったな。カタリーナに独り占めされてしまい、余はアレでは遊べていないのだ」


「ふふっ、あの子が今は国王だなんて笑ってしまうわね。入浴のお手伝いが上手な器用な子だったわ」


 私は自分がシャリレーン王国に戻る道筋を見つけた。


 セルシオ・カルパシーノにエウレパ王国を滅ぼさせれば、私は解放される。

 私がカタリーナ王妃のような淫猥な女だと彼に思わせれば、彼は私を娶らないだろう。

 それは、私がクリス皇子を必死に避けようとしているのと同じだ。


 「陛下、私は本当に陛下をずっとお慕いしておりました。陛下のこと満足させられるか不安で仕方がないですが私なりの準備をして今晩お待ちしておりますね」

 エウレパ国王が期待に満ちた目で、私を見た。


 誰もが一目で愛おしく思う聖女とは何なんだろう。

 私はいつだって欲望の捌け口としか見られない。


 私の幸せを唯一願っていた両親はもういない。

 妹のカリンの存在だけが私の心の拠り所だ。


 目の前のエウレパ国王も、私で自分で欲を満たすことしか考えていない。

だから、私も同じように自分の欲を満たす為に彼を利用することにした。




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