第11話
青い空を見上げていた。
一瞬の浮遊感、そして落下する。
「フゲッブゥ!!」
変な声を上げながら地面に落ちる俺。
ダメージが尻にダイレクトアタック! 俺の尻は死ぬ。借り物なので取扱いに注意して下さい。いや、自分に言ってんだけどさ。
「いででで…、たまんねえな本当に」
けつを擦りながら起き上がる。
街中だった。
薄暗い地下ではない。ちゃんと青空の下だ。
住宅街らしき場所の、家と家の間にある路地とも呼べない狭い隙間に俺は居た。
すげえ、本当に地下から転移…っつかワープしたのか? 現実味がない、けど本当なんだ。だって、今自分で体験したんだから間違いない。
おっと、驚くのは後にしよう。あっちの常識が通じないなんて、いい加減理解してるだろ?
城が見えるって事はここは、多分ルディエのどっかだよな? だとすれば、イリスがどこかに居るだろうから1度合流しよう。
心配してる…ってか、おそらく泣いてるだろうからな。
探す当ては無いので、とりあえず俺の落下した場所に行ってみよう。いや、行ってみようって場所分かんないけどさ。こういう場合は、なんか適当に歩いてれば辿り着くもんだ。
世間的にはそういうのを行き当たりばったりというのだが、俺には関係ないのだ、うん。
通りに出て歩き出す。
すれ違う人達の顔が青ざめていたり、怒りに赤くなっていたり、無気力な白になっていたり。
街全体がピリピリしている。まあ、街のど真ん中であんなテロ騒ぎ起こされたらそりゃそうか。
あっ、そう言えばあのテロ犯の赤い鎧はどうなったんだろう? 爆発音は聞こえないし、煙もあがっていないので、多分倒されたか逃げたか…それとも勇者を倒して満足して帰って行ったか。
いずれにしても、もうここには居ないだろう。
あんな酷い事をする奴だ。出来れば倒されていてくれるのを願いたい。
今思い出しても吐き気がする程、あの光景は俺には耐えがたいものだった。鮮明に思い出せる。
夕焼けで赤く染まった街が、より赤く塗り替えられるあの光景を……。そして、俺に向かって放たれた巨大な炎…。
……やめやめ、沈んでもしょうがない。
ってか、あれ? 夕焼け? 今、陽はほぼ真上にある、って事は結構時間が経過してるんじゃないか? 少なくても一晩は経過してる。自分の知らぬ間に時間が流れていたという事実が、気持ちを焦らせ無意識に早足にさせる。
あっちこっちウロウロしていると、ようやく大通りらしき場所に出た。住宅街が迷路になってるのはどこの世界も変わんねえな。
えーと、城の正面がコッチだから、俺の落ちた場所はアッチだな。
無残な姿になった家屋の横を通り過ぎる。瓦礫の前で、女の人が声も出さずに泣いていた。住む家を無くした涙なのか、あの瓦礫の下に大切な人が眠っているのか…。
炭になった家を片づける人、簡単な治療だけをされた痛々しい姿の人がそこら中に居た。
あの騒ぎでこの世界の病院のような場所も、人が溢れてしまっているんだろう。
治療の手も足りなくて、最低限の事しかできないのかも。
元の世界の被災地のニュースを思い出す。
あっちの世界の常識が通じなかろうと、傷付けば痛いし、失えば泣く。そんなの当たり前の事じゃねえか。
ここに居る人達は俺にとっては異世界人だ。けど、そうだ、人なんだよ。エイリアンや怪物じゃない。当たり前の日常の中で生きてる、ありふれた人間だ。俺と同じような…。
だから、それが理不尽に壊される事に無性に腹が立った。
天災であれば納得できる。いや、納得するしかない。でも、同じ人間にそれを奪われるのはどういう事だ?
他人の日常をどうしてあんな理不尽に奪える?
腹のそこから沸々と熱い何かが吹き出そうとしているのが分かった。
俺の中の何かが「“それ”に身を任せろ」と囁いている。同時に別の何かがそれを拒んでいるのハッキリと分かった。
心の中の天使と悪魔かな?
いや、なんだろうこの違和感。この天使と悪魔、本当に両方とも俺か? 俺の思考とは別のところで2つの意思が睨みあってるような、そんな変な違和感を感じる。
「ロイド君!?」
呼ばれて振り返ると黒髪の男が、驚いた顔で俺を見ていた。
黒髪黒目。俺にしてみれば見慣れた特徴の勇者だった。
体のあちこちに傷があるが、それでもピンピンしている。どうやら、幽霊やゾンビの類ではなさそうだ。赤い鎧に勇者が負けたって線は消えたな。
「あ、勇者様」
「あ、勇者様。じゃないですよ! 君、無事なんですか!? 怪我は!?」
走り寄ってきて、俺の腕を上げさせたり、後ろ向かせて背中叩いたり、って痛っ痛えよ! どんだけ叩くんだよこの人!?
「大丈夫ッスよ。ちょっと体ダルイですけど」
「そんな訳ないでしょう!! あれだけの火炎魔法を受けて、そのうえ穴に落っこちて―――」
更に口から言葉が出ようとするのを無理やり呑み込む、そして何を思ったのか突然俺に頭を下げた。
「すみませんでした!!」
「なんですか突然…」
「あの時、君を襲った魔法は僕が捌き損ねたものなんです!!」
知ってます。だって、見てたし。
ってか、大げさに頭下げるのは止めて欲しい。周りからの目が痛い。
「勇者様が頭を…」「あの子供は一体?」「おお、勇者様は今日もなんと神々しい!」「こっちの材木運ぶの手伝ってくれー」「まさか、勇者様のお仲間かしら?」「でもあんな小さいのよ?」ほら! もう、なんか微妙に注目集めてる!
「あの、俺はこうして無事ですし、頭上げて下さい」
頭を上げてからも、勇者の目はどこか沈んでいるように見えた。
周りの人からしたら希望の星なんだし、勇者としてその辺りの人の目ってのを少しは気にして欲しい。そしてその注目に俺を巻き込まないで欲しい。
「本当になんと謝ったら良いのか…。まさか地面が崩れて落ちるなんて……いや、これは完全に良い訳ですね」
「それに関しては本当に謝んなくて良いですよ。悪いのはこの街の土台造る時に地盤検査甘かった業者ですし」
「…業者……?」
「?」
俺に顔を寄せて、小さな声で。
「不躾で済みません。もしかしてロイド君は異世界人じゃないですか?」
おお、まさかこの話を相手から切り出されるとは。
でもウダウダ説明すんのも面倒くさいし、いっそ有り難い。けど、そんな重要な話こんな大通りの真ん中でして良いものかと一瞬躊躇う。
……まあ、良いか。問題が有った時はそん時に考えよう。責任の半分は勇者にあるので、その際は協力して貰うって事で。
「はい。勇者様もですよね?」
「ええ、そうです。お互い異世界人というならちゃんと名乗ります、渡部明弘です」
「それじゃあこっちも。阿久津良太です」
「あれ? 日本人、ですか?」
「今はこんな姿ですけど、中身は純正日本人です」
勇者…明弘さんは「中身は?」と首を傾げていたが、多分俺が帰化した外人で心は日本人とかそんな感じで納得したんだと思う。
「そうでしたか。では、君と一緒に居たあの女の子も?」
「いえ、イリスはこっちの人間です」
「あっ、そうでした! あの子も泣きながら心配してましたよ?」
ああ…やっぱ予想通りに泣いてたか。
ごめんロイド君、また泣かしちゃったみたい。
「たしか、西通りの宿に居る筈です。顔を見せてあげたらどうですか?」
「そうですね。元々イリスを探してたので」
「では、案内しがてらもう少し話しましょう」
先に立って歩き出す明弘さんの横に並んで歩く。
改めて並んでみると結構タッパがあるな…180cm近くありそうだ。
「いやー、まさかコッチで同じ世界の人に会えるとは思いませんでしたよ」
「それは俺もですけどね。と言うか、異世界に来て勇者家業とか、アニメやゲームだけだと思ってました」
「あはははは! 僕もですよ。まさか、自分がこの歳になって勇者を名乗るとは夢にも思ってませんでした」
「正直ちょっとだけ羨ましいですよ」
苦笑しながら本音を言ってみる。
まあ、だって憧れるでしょ勇者って! 凶悪な魔物達から皆を護る希望の星。チートなパワーで並み居る敵をバッタバッタと倒す! みたいな。
対して俺はどうよ?
死人なうえに、人の体勝手に借りて普通に生活するだけでもいっぱいいっぱいじゃねえか。なんなのこの格差…神様の嫌がらせ?
「勇者も結構大変ですよ? こうして勇者らしくしてるのも実はキャラ作ってるだけですから」
「えっ!? マジッスか!? それ、素じゃないの!?」
「アイドルみたいでしょ? 本当はもっと雑な口調のが楽なんですけど…っと、今のは皆には内緒ですよ?」
「キャラ作りも勇者の仕事ですか?」
「そう言う事です。皆に羨望の眼差しを向けられるなら、それ相応の人格者でなければね。清廉潔白…清く、正しく、美しくってね」
面倒くせえ…絶対俺には無理だわ。
「大変ですね…」
「そうですね。……でも、まあ、これも神様が僕に与えた罰って奴なんでしょう」
罰?
聞こうと口を開きかけるが、明弘さんの心の殻が閉じる気配…いや、気配と言うより雰囲気かな。
気まずい! 何か話題を変えよう。
「明弘さんって、元は何してた人なんですか?」
「元はトラックの運転手です」
トラックの運ちゃんが勇者にって、どんな転職事情だそりゃ。
「良太君は学生ですか?」
「ええ、花も恥じらう高2です」
「スイマセン、中学生だと思ってました…」
ロイド君の年齢が俺のちょい下だとすれば当たってる。
「お住まいは?」
「東京の八王子です」
「へえ! 偶然ですね、僕がコッチに来る前に居たのも八王子なんですよ」
俺もそうだな。より正確に言うなら八王子の甲州街道だった。
もしかして八王子ってそういうスポットなのか? 人の失踪騒ぎなんてあんま近所じゃ聞いた事ないけど…俺達だけたまたまかな?
「明弘さんは元の世界に戻ろうとは思わないんですか?」
「うーん…。今はこの国を護る事で手一杯で、異世界に戻る方法を探しに行ける様な状態じゃないんですよね。そもそも、コッチに来てまだ10日ですのであまりこの世界の事分かってないですし」
「あれ? じゃあ、俺とあんまり変わらないタイミングだったんですね? 俺がコッチに来たのは8日…いや、あれ? あの襲撃って昨日ですか?」
「いや2日前」
「2日!?」
じゃあ、丸々1日は地下で寝てたって事かよ…。
今まで寝過ぎたって言っても半日が限度だったのに、どんなお寝坊さんだ馬鹿野郎。
「どうしました?」
「いえ…地下でちょっと寝過ぎたな、と」
「そうそう! 君、どうやって助かったんですか、あれ? 魔法のダメージも落下のダメージも両方とも即死級だったでしょ? 何か特別なスキルでも保有してるんですか?」
「スキル? スキルって、あれですよね? 特技とか技能とか、なんか特殊な力っぽいゲームで良くある奴。魔法とは違うんですか?」
「ああ、スキルを知らないんですか。スキルって言うのは…うーん、なんでしょうね説明が難しいですが、自分ルールの上書き行為、でしょうか―――」
スキル。魔法とは別の、この世界に存在する不思議な力。
例えば【炎耐性】というスキルを持っているとする。
本来は炎のダメージを10喰らうが、『自身は熱のダメージを半減する』という勝手なルールを世界にオーバーライドする事で、実際に喰らうダメージを5に減らす。
このように、自分の中に作り出した勝手なルールを世界に影響させる領域まで高めた物が、スキルと呼ばれる能力らしい。
それに、魔法のように誰でも使えるようなお手軽な物ではなく、普通の人間が一生を捧げて1つ2つを手に出来れば恩の字。そんなレベルの凄い能力だそうだ。
「実は僕もコッチに来た時に【フィジカルブースト】って肉体能力を強化するスキルを手に入れたんですけど、勇者をやれているのはこのスキルの力あればこそ。あとは…この剣」
腰の剣を半分程鞘から抜いて見せてくれた。
真っ直ぐな青白い刀身、柄の見事な装飾、そして何より剣を覆う淡い光。素人目でもそこらに転がっているようなレベルの物ではないと分かる。
「スキルって人間だけじゃなく、武器や防具にも宿る物なんですよ。この剣…このアステリア王国の国宝の1つブレイブソードにもね」
「あ、もしかして襲撃の時に魔法を打ち消してたように見えたのって!」
「ああ、なんだアレ見てたんですか? そうです【マジックキャンセル】って凄い希少なスキルらしくて、この剣に触れた魔法…と言うか込められている魔力を散らして無効に出来るんですよ」
魔道皇帝の一派は魔法主力らしいし、この剣マジで最終兵器レベルの一品じゃね?
「で、良太君はどんなスキルを?」
「いや、そう言った物は持ってないです」
実はロイド君はスキル持ってるけど、俺が気付いてないってんなら別だが。多分、それはないな…。
「じゃあ、どうやって? もしかして魔法ですか?」
「いや、俺魔法の才能ゼロらしいんで」
「ああ、やっぱりですか。実は僕もなんですよね…。異世界人は魔素への適応力が無いから体内で魔力を作れず魔法が使えないって…」
俺が魔法使えないのは異世界人だからじゃないけどね。
「だとすると、あの状況でどうやって…?」
「えー…運?」
「運って君。何故に疑問符を……」
呆れたような顔されても困る。俺自身なんで助かったのか分かってないし。
「はぁ…。君が地下に落ちたのは知ってましたけど、地下が未知の空間過ぎて容易に助けに行けなかったんですよ」
「あぁ、そうなんですか? 完全に見捨てられたと思ってましたよ」
「あの子、えーとイリスさん? が、穴の傍で泣きながら君の名前叫んでたら、そりゃあ放って置けないでしょ? 僕の責任でもありますから。とは言っても、地下が魔素の無い空間だったらしくて、魔法使いさん達が飛行魔法使って降りるにも調査が足りないってニの足踏んでましたけどね」
見捨てられてなかったのは良かったけど、結局下で待ってても助けが来るのは何時になった事やら…自力の脱出は英断だったな。脱出できたのは偶然味が強いけど…ま、結果的に脱出出来たからヨシ。
「そう言えば、俺に炎かましてくれた、あの赤い鎧の濃い顔の人ってどうなったんですか?」
「ああ、たしか豪炎のナントカさんですね? 結局倒すまではいけませんでしたよ。コッチに来たばかりの時に幹部の1人を倒した事があったので、アイツも何とかなるだろうと油断がありました。完全に僕の失敗です」
明弘さんが居なかった時の状況を想像すれば、むしろ追い払えただけでも戦果としては十分な気がするけど。
「「ロイド君!?」」
通り沿いの建物から出て来た2人組に声をかけられた。
一瞬誰かと思ったが、冒険者の夫婦漫才コンビだった。
「アルトさん、レイアさん! 2人とも無事だったんですね?」
「ロイド君こそ、無事だったの!? イリスちゃんが泣いてたからてっきり死んじゃったのかと……」
「そうそう! 魔道皇帝の側近の1人に魔法撃たれて、そのうえ地下に落ちたって聞いたからさ。イリスちゃんの手前、口にはしなかったけど絶望的だなって、さっきもレイアと話してたんだぜ?」
「なんか、悪運だけは強いみたいで無事です」
「はっはっはっは! そりゃ凄いな、虹の女神様に見初められてるんじゃないか?」
何だ虹の女神って…。神様の親類縁者ならむしろ嫌われてると思いますけど。
「ところでさあ、ロイド君? そっちの闇色の髪の人…いや、御方ってもしかして~…」
ああ、そう言えばこの2人、勇者に会う為にルディエに来たんだっけか。
「噂の勇者様ですよ」
「やっぱりー!?」「すげええっ!! 噂通りの闇色の髪と瞳なんだー!?」
興奮し過ぎだ。正直ちょっと引くわ…。
テレビでよく観る、芸能人を前にした一般人の反応を忠実にやってくれた2人。どこの世界も変わらんなあ…。
「えーと、明弘さん。この2人はルディエに来る道中護衛して貰った冒険者さん達です」
「ああ、冒険者の方でしたか。若輩ではありますが勇者を名乗らせて貰っていますアキヒロです」
「は、初めまして勇者様! 冒険者ギルド所属のレイアです! こっちのボケっとした顔のがアルトです!」
「ちょっ、おい! 俺の事ちゃんと紹介しろよ!?」
「うっさい! 勇者様の前で恥かかさないでよ!」
おおう、レイアさんでもこの反応なのか。
アイドル職業恐るべし。勇者の肩書がモテオーラでも放ってるんじゃねーのか?
「ご丁寧にありがとうございます。レイアさんと、アルトさんですね。よろしくお願いします」
「は、はい! こちらこそ! まさかロイド君が勇者様と知り合いだったのは意外だったわ」
「知り合いって言っても、仲良くなったのは今さっきですけどね?」
明弘さんと、サッカー日本代表ばりのアイコンタクトで「異世界人って事は黙っていよう」「おーけい」とやりとりする。
「それで勇者様、率直に聞きたいんだが魔道皇帝との戦況はどうなっているんでしょう?」
「そうですね…。敵の狙いがルディエだけに絞られているので戦力自体は勝ってますけど、アチラは高位の転移魔法で出たり消えたりのゲリラ戦がメイン。2日前のように突然街中で暴れられるとコチラは後手にならざるをえませんし、国民も兵も疲労が溜まるばかりであまり良い状況とは言えません」
「……ですよねー。冒険者ギルドの方にまでもルディエ防衛の緊急の依頼が入ってたくらいだし。この国マジでそろそろヤバいかも……」
「ちょっとアルト!? 勇者様の前で情けない事言わないでよ!!」
「いえ、アルトさんの言う事ももっともです。いっそコチラから攻められれば状況を変えられるんでしょうけど…」
何か年上3人が揃って暗い顔になってしまった。
うーん、こういう空気は苦手だぜ。
「でも、絶望的って程じゃないんじゃないですか?」
「りょう…じゃない、ロイド君。それはどう言う事だい?」
「だって、魔道皇帝の側近だか幹部だか倒してるんでしょ、明弘さんは? って事は、少なくても相手は勇者の登場でそれなりに強い駒を動かさなきゃならない状況になってて、尚且つそいつ等も退けられてる訳で」
「それもそうね。勇者様を倒そうと思ったらそれなりに策を用意するとか…」
「あとは物量戦術じゃないか?」
「いえ、敵の兵力はもしかしたら乏しいのかも? 襲撃でも百や千も送り込まれる事は今のところないですし。2日前もあの炎使い1人だけでした」
「兵力の温存…は考えられるけど。今のルディエに集められた戦力程じゃないんじゃないかしら? だからコッチの疲弊を待ってる。そして、勇者様と正面切って戦えるのは敵の中でももう幹部クラスの一握りだけ」
「おうおう、なんか少しは希望見えて来てるんじゃないか!?」
「当然でしょ! 勇者様が居るんだから!」
暗い顔をしていた2人に笑顔が戻り、お互いに肩や背中を叩いてじゃれついている。やっぱこの2人は夫婦漫才してる方があってるな。うんうん。
しかし、明弘さんの顔はまだどこか曇っていた。
まあ、冷静に考えれば楽観視できる状況じゃないのは、素人の俺でも分かる。少しくらい光明が見えた所で、こっちの受け身な状況は何も変わってない。
相手は幹部が負けても引くつもりがない戦闘一辺倒のようだし、だとすればコッチの勝利条件は相手の大将である魔道皇帝を討つしかない。だが、討つにしても居場所が分からない。攻めに関しては手詰まってる。
…って、ヤメヤメ、こういう小難しい事考えるのは俺の仕事じゃねえや。頭使うのはこの国のお偉いさん達に任せます。
俺はあっちでもコッチの世界でも、ただの一般ピープルですから。
「その話はともかく、イリスの事が気になるんでそろそろ行きましょうか?」
「ああ、なんだイリスちゃんの所に行くのか? それだったら俺達も一緒ブッフェ!! おいレイア、何で今俺のケツを蹴りやがった!?」
「気を使いなさい無神経!」
「え? どういう意味?」
「ダメだコイツ…本当に分かってない。とにかく、私達はここで失礼します。それじゃロイド君、イリスちゃんによろしく言っておいて」
「了解っス」
「それでは勇者様、機会がありましたらまた御話させて下さい」
「はい、次はこの騒ぎが終わった後だと嬉しいですね?」
「あはは、そうですね。ほらアルト、アンタも挨拶!」
「え? えーと、それじゃあまた?」
アルトさんを引きずって去って行くレイアさん。
明弘さんは律義に通りを曲がるまで手を振り、2人が見えなくなったところでようやく俺に向き直る。
「じゃあ、行きましょうか?」
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