第6話
勇者。
その単語は誰しも1度は耳にした事があるだろう。
漫画で、ゲームで、映画で、あるいは―――目の前の冒険者から。
「ユーシャ? 勇気ある者の勇者ですよね?」
それ以外のユウシャの言葉の意味なんぞ知らんが、一応確認の為に聞いておく。
「そう。その勇者様がちょっと前に魔道皇帝の側近の1人を潰したらしくてさ。1度くらいその顔拝んでおこうかと思ってルディエに向かってるって訳」
現在森の中、イリスの案内で暗いうちから森を進み、多分4分の3くらいは来てるんじゃないかなあ…。そろそろ陽が傾いて来てますし。
道中は至って安全で……いや、まあ勿論魔物とのエンカウントはあったが、俺とイリスが悲鳴を上げる間もなく、冒険者コンビがバッサバッサとシバき殺してしまう。この2人、夫婦漫才のお笑い担当かと思いきや、戦闘に関しては結構やり手っぽい。
安全なのはとっても有り難いが、やっぱり疲れの方はどうしようもない。
足手纏いになるわけにもいかんので、疲れを少しでも紛らわせる為にと冒険者コンビに旅の目的を聞いたのがついさっきの話。
「魔道皇帝?」
「そう、このアステリア王国を現在進行形で脅かしている魔皇様の事」
「神出鬼没の魔法軍団を率いる自称皇帝。軍団の規模も相当だけど、本人も化物みたいな強さの魔法使いで、噂じゃクイーン級に届くって言われてるの」
ええとクイーン級って、上から二つ目の強さか…。それがどの程度のヤバさかは分からんが、国を脅かすって事は核弾頭位のヤバさはありそうだ。
しっかし、自称皇帝って…ヤバいって言うより痛いな。痛いって言うか、痛々しいって言うか…うん…まあ、触らないでおこう。
「いやー、聞くだけでも恐ろしい魔道皇帝に立ち向かうとは、勇者様には頭が上がりませんなあ!」
「そうね。正直、うちの国はクイーン級以上の冒険者が出張って来てくれなきゃ詰みだと思ってたし、本当勇者様様だわ」
「大陸東側で活躍してるって噂のクイーン級、結局来てくれなかったしなー、っと!」
会話しながら、木の陰から飛び出して来た大型犬サイズの鼠のような黒い影に向かってナイフを投げる。
体に当たりはしなかったが、近くの木にナイフが刺さって動きが止まる。その間にレイアさんが弓で脳天を撃つ。ヘッドショットの一撃で絶命した魔物は黒いモヤとなって辺りに四散した。
素人目に見ても凄いのが分かる。今の魔物が飛び出してくるのだって、全然俺は気付かなかったし…。
「レイアー、どうだったー?」
魔物が居た辺りに何かを探しに行ったレイアさんにアルトさんが声をかける。
矢を再利用に拾いに行ったのかと思ったが、そうではなかったらしく戻って来たレイアさんの手には、小さな黒い石がのっていた。
「あったわよ」
「うーん、やっぱり小さいな…」
「魔物のランクを考えれば仕方ないでしょ?」
話しながら、レイアさんの手から黒い石を受けとって腰の袋の中に入れている。そう言えば魔物を倒すたびに何か拾ってたけど、もしかしてあの黒い石だったのかな?
「ねえ、あの黒い石って?」
「あれは魔石よ…って、覚えてないか……。魔石の説明をするには魔物が何なのかをまず説明しなきゃなんだけど―――」
イリスの説明された事を俺が理解できた範囲でまとめると、まず魔物ってもんは普通の動物ではなく空気中の魔素が集まって物質的な肉体を得たモノらしい。
魔物が倒されると黒いモヤになって消えてしまうのはこのせいか。今まで倒したら消えるなんてゲームみたいな仕様だな、とは思ってたけどそういう事だったのね。
で、魔素の塊を魔物の肉体として維持しているのが、さっきの黒い石…魔石なんだとさ。
魔素が集まって魔物になる途中で結晶化して出来るらしいんだが、この魔石が大きければ大きい程強い魔物になり、魔素の濃い場所程大きな魔石が生まれやすい。
この辺りの魔素は薄いらしく、生まれる魔物も大した事はないので冒険者2人としては危険度の低い安全圏だと教えてくれた。
あ、そうそう、魔素が魔物の元だと言うなら、村の中で突然魔物が生まれる事もあるんじゃないかと不安に思い率直に聞いてみたら軽く笑い飛ばされた。複数の人間が住んでいる場所に魔物が生まれる事はほぼ無いんだと。
理由を問うと、人間は魔法を使う為に絶えず空気中の魔素を吸収しているので、人間の生活圏の魔素は魔物を生める程濃くなる事は無いらしい。
以上、イリスからの説明を頭の中でまとめてみたが、なんか…つくづく元の世界の常識が通用しねえなあ……知ってたけどさ……。
「―――で、魔石って言うのは人間の生活の為にも利用されてる物なのよ。ちょっと、聞いてる?」
「……聞いてる、よ」
アッチの常識が通用しなくて頭パンクしそうだけど。
「イリスちゃん、魔石の説明をするなら重要な事を話忘れてるぜ」
「そうね。魔石の活性化の話はしといた方がいいんじゃない?」
「あ、そっか。あのねロイド、魔物から取り出された魔石は絶対に自分で持ってたらダメなの」
「え? なんで? アルトさん達は持ってるじゃん?」
「アルトさん達は冒険者だからね。なんでダメかって言うと、魔物から取り出されたばかりの魔石は、そのままだとまたそれを核にして魔物が生まれてしまうの」
「え゛?」
思わず変な声が出てしまった。
いや、だって魔石がまた魔物になるって事は、アルトさん達の持っている魔石も魔物化して襲ってくるって事でしょ?
冒険者2人からジリジリと距離をとる。
「大丈夫よ、ロイド君。また魔物化するって言っても10日以上はかかる話だから」
口元を隠して上品にクスクス笑われた。
「魔石を無害化する為には冒険者ギルドに持って行ってクリアランスって魔法をかけて貰わないといけないの」
「そ、んでその時に魔石の数や大きさに応じて報酬が支払われるってわけよ。あ、ちなみに一般人が活性化状態の魔石を持って行ってもタダ働きにされるから注意な」
「タダ働きでも冒険者ギルド以外じゃ魔石の浄化できないから持ってくしかないんだけどね。クリアランスは冒険者ギルドの秘術だもの」
うーん、なるほど。報酬云々の事は置いとくとしても、魔物を倒したら魔石は速やかに冒険者ギルドとやらに持って行こう。
そもそもの話として魔物を倒す機会なんてあるのか知らんけど。
……多分無いな。怖いし。ええ、そうですよ、ビビってますけど何か?
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