第29話 死刑
「さてと、ただいま」
と、三人に会いにいく。
「聞いてください」
帰るや否やミルに言われた。
「この子がまたいじめてくるんです。魔王様がいないから」
「あら、仲良くしててよ」
もうっと軽くため息をつく。まあ、いじめさせているのは私だが。
やっぱりルーズには私の後継者になってほしいからね。
「今日はね、処刑があるから見せてあげる。人の死ぬ様を」
「え?」
「いい経験になると思うわ。でも、このまま連れていくのは目立つから、えい! エレンとミルとルーズ三人全員この箱の中に入っててね」
「はい……」
エレンは元気がなさそうに返事した。まあ三時間前に人の眼球をくりぬくざまを見せたところだから仕方ないけどね。
「じゃあ行くよ!」
そして箱を空に浮かし、処刑場への階段を上る。一つの箱にはあの三人が入っている。その箱は、空中の特等席に浮かばせるつもりだ。そして私が今手に持っているこの二つの箱、これらは……そう、勇者と勇者の母親が入っている、
そこで、残酷な問いをするつもりだ。ああ、今からもう楽しみだ。
私は城の外に出て叫ぶ。
「今日は集まってくれてありがとう。これから処刑を開始する。よく見てくれ!」
そして私は箱から勇者を出す。その手は後ろ手で拘束されている。
「こいつはわが国に侵略した勇者だ。私は魔王としてこいつを許すつもりはない。よって処刑とする」
「うおおおおおおおお!」
会場は沸く。
「だが、その前にこの大罪人を生んだ大罪人を紹介する。彼女は、アンナ ハールス、勇者マクリスを生み出した、大罪人だ!」
マクリスの隣にアンナを置いた。
「……母さん」
「……マクリス……」
「会話はいいから、さっさと決めて。あなたが今死ぬか、お前の母親が死ぬか」
「何を馬鹿なことを!」
「馬鹿なこと? そんなんじゃないわ。ただ、貴方の覚悟が知りたいだけなの。さあ、母親を見捨てるの?」
「っ」
迷ってる迷ってる。まあ、難しい問題だよね。
「もしも、母親を殺したらあなたは、死刑処分から追放処分に罰を格下げします。さあ、どうする? 勇者よ」
お! 魔王っぽいこと言えた。もちろんそんなことをするつもりなどないけど。だって私に逆らったんだから。
「……俺は……どちらを…………」
「さっさと決めて。あまりにも遅いと、イライラしてどちらも殺しそう」
「じゃあ、俺の命を助けてくれ」
「……クズね」
そして私は勇者の母の指を一本ずつ切り落とす。そのたびに「「うわあああああああ」」と、母親と息子の悲鳴が会場中に響き渡る。
ビバ悲鳴。最高だ!
そして悲鳴を聞き飽きたタイミングで、母親を殺した。
「……母さん」
マクリスは泣き出した。
「お前が殺したんだろ!! 何をめそめそしているんだ。お前が自分の命を犠牲にしてたら、お前の母親は死ななかったんだ。全てはお前のせいだ」
「……俺のせい?」
「そうだ。お前は誰も救えないまま死んでいくんだ。無能な勇者としてな」
「……」
マクリスは何も言えなくなった。この、私の完璧理論の前に。
「さあ最期の言葉はあるか? 勇者よ」
「え?」
「え? って、お前の最期の言葉を楽しみにしているんだ」
「俺は追放処分になるんじゃ……」
「あれは嘘。もちろん君の母親を殺したのは私だよ、君のせいじゃない。だって君も死ぬんだから」
「ならなぜあんなニ択を問うたんだ?」
「ただ単純に、シンプルに殺すのが、惜しいと思ったからだよ」
「……」
「さあ、最後の言葉をお願いします」
楽しみだ。精神がズタボロにされた男の最期の言葉が。
「頼む……殺さないでくれ」
「がっかりだ。もっと大物らしいことを言うのかと思ったよ。お前が殺した魔王とやらはなんて言っていた?」
「私を殺しても次の魔王が出てくるって」
「そうだよ! そんなさあ、アニメのラスボス感のあることを言ってほしいのよ。これじゃああなた小物よ」
「死ぬのが怖いんだ」
「死ぬのが怖い? お前は魔族をどれだけ殺した? 魔王討伐のために何人の人を殺した? そいつらが死ぬのが怖くなかったとでも思ってるのか?」
「そいつらは俺たちの国の民に恐怖を与えていた!」
「お前たち人間が魔族に恐怖を与えてなかったとでもいうのか。現に私の仲間たちは人間に迫害されたと言っていたぞ。その理論が通ると思っているのか!」
「それは……」
「もう一度問う。最期の言葉……遺言はあるか?」
「……死にたくない」
「飽きたな」
やっぱり責めすぎたのかな……。
これぐらいのことしか言えない小物だとは思っていなかった。作中で勇者が死ぬ作品は私は読んだことがない。だが、味方が死ぬシーン、死ぬキャラはいい感じで死んでた場合が多かった。だからあいつもそんな感じのことを言うかと思ってた。さっき母親と一緒に殺しとけばよかったかな。結果的にあいつの恥ずかしい姿を見せるだけになってしまった。
反省だ。勇者には悪いことをした。おそらく黒歴史になるだろう。
「では死ね!」
「待って」
私は雷の弓で心臓を打ち抜いた。最期まで恥ずかしいやつだったな。そして、下に二人の死体を投げ捨てる。
「それと今日は月の初めだ。もう一人処刑する!」
といい、選ばれた人間を目の前に出した。一六歳ぐらいの少女だ。高校生という感じ……いいじゃない。
「では最期の言葉はあるか?」
「あなただって人間でしょ、なんでこんなひどいことをするのよ」
お、上物来たかな? 少なくともさっきの勇者よりはいいこと言うねえ。
「私は人間だが、勇者という称号を捨てて魔王となったものだ。だから私はもはや人間ではない。今や魔族だ。魔族の仲間だ」
「でも人間のつらさが分かんないの?」
「わからない。それっておいしいの?」
「馬鹿にしてるんですか?」
「いーや馬鹿にはしてないわ。かわいいなと思って。漫画の主人公みたいなことを言うし」
「ならなぜ!」
「私はさ、壊れてんのよそう言う倫理観とかがさ。だから人を殺しても悲しくもつらくもないわけ」
「それって……」
口を耳に近づけて……言う。
「あなたが死ぬのは、ただ私が見たいから」
「っ何なんですか、その理由は!」
「いいね君、私の奴隷にしてもいいわよ。あ、でも公約だから無理か」
「あなたを殺します」
「やってみて! 私は棒立するから」
そして拘束具を外す。
「そんな馬鹿にしないで、殺す殺す殺す殺す」
私の体に数発拳が入る。
「いいねえいいねえ! でも無駄」
そして私は彼女の体に穴をあける。
「なんで?」
そう言って倒れた。
「これで今日の公開処刑は終わりだ! 次の公開処刑を待て!」
「はい!」
「目が覚めたかい?」
私は寝ている彼女に声をかける。
「なんで……なんで私は生きてるの?」
「気に入ったから。それで私は目の前にいるよ。殺す?」
「殺す!」
彼女は私を殴った。
「効かないよ。見て? この拘束具。もし暴れたらこれで縛ることになるから」
「そんな脅し効きません。私の兄はあなたのせいで死にました。軍人じゃなかったのに、あなたに戦争中にたまたま会ってしまっただけで殺されたんです。それももう、死体が残らないくらい残虐に。私たち人間にとってはあなたが恐怖の対象なんです!」
「それが何? 私にとってはそんなことどうでもいい」
「どうでもいいって何ですか?」
「あー言い方が悪かったわね。さっきも言ったでしょ、私は倫理観が壊れているって。ついでに行ってあげるわ。私は異世界人よ」
「そうですか……異世界人は世界を救うと聞いたことあります。なら何故世界を救わないで世界を貶めてるんですか?」
「役割とかどうでも良いのよ。それより気づいてる? 私はこんな問答に興味が無いって」
「?」
不思議そうな顔を向けてくる。
「あなたは私を殺すと言っておけば良いのよ。あなたはこれから未来永劫私のおもちゃだからね」
そう言って部屋から去って行った。拘束具を付けずに。
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