クラスのマドンナに告られた

有原優

第1話 告白

「はあ」


 今日も長い一日が終わった。やはり学校は疲れる。しんどい勉強に人付き合い、しんどいことばっかりだ。


「帰ろ」


 小声で言った。他人には聞こえていないだろう。その方がいい。情けない言葉だからな。


「ちょっといいですか?」


 教室の外に出る直前に声をかけられた。クラスのマドンナである斉木未来さんだ。俺に何の用だろう。


「好きです」

「え?」


 聞き間違いか? 


「だから好きです」


 と、言われた。いや……


「俺を?」


 冗談だろ?


「そうに決まってるじゃないですか」

「いやいやおかしいだろ。なんで俺なんだ?」

「前々から好きだったんですよ。その立ち振る舞いとか」

「いやそうだとしても。結構告白を断ってたんじゃなかったのか?」


 彼女は実際に高嶺の花として有名なのだ。そんな彼女なのに。


「あれは、私に合わないと思ったから断っただけです。貴方は私に合うと思ったから告白したんです。それに貴方の事が好きですし……」

「……」


 俺にはこれになんと返したら良いのか全く分からない。少なくとも女性経験のない俺には……

 それにそもそも彼女に好かれているということを知らなかったし、そもそも、その可能性を全く考えていなかった。だって考えてみろ、俺みたいな根暗な奴がクラスのマドンナに好かれてると思うか? 少なくともそんな可能性考えるだけ無駄だ。


 別に俺が彼女に魅力を感じないとかそんなわけが無い。クラスのマドンナに告白されて断る人間なんて変人が彼女持ちしかいない。それに彼女はめちゃくちゃかわいい。美人だ、少なくとも俺となんて釣り合わないぐらいには。


 ただ告白を受ける勇気が無い。それは俺なんかがこの人と付き合える権利? があるのか分からないし、そもそも失礼な話だが、ドッキリの可能性もある。そりゃあそんな人間じゃ無いと信じているが、俺と付き合うメリットなんてそんぐらいしか思いつかない。


 あ、やばいめっちゃ斉木さんが不安そうな顔で見ている。そりゃあそうか、もう一分くらい考え込んでいるんだもん。さてとそろそろ答えを出すしかないか。

 この不安そうな顔、ドッキリが失敗するのが怖いのかもしれない、ただ俺は彼女を信じたい。


「はい。お願いします」

「え? それって」

「付き合いましょう」

「やったー! みんな出てきて。成功したよ」

「え?」


 ちょっと待て、やっぱりドッキリでしたパターン? やめてほしいんだけど。


「おめでとう! 未来!」

「やったね!」


 と、二名の女子が出てきて言った。クラスメイトの上島千鶴さんと、三森花枝さんだろう。


「見てたんですか?」


 まだドッキリの可能性は捨てきれない。


「ええ、応援してたの」

「そうか。あのさあ」

「何?」

「これドッキリだったりしないよね」


 失礼かもしれないが、一応聞いてみる。


「やだなあ疑っちゃって。そんな酷いことしないし、私本当に好きよ。疑うんだったらキスしちゃおっか」

「ええ?」

「だってそうするしかないじゃん。疑うんだったら」

「そんなん。恥ずかしすぎるわ。じゃあハグで」

「お! ハグ行っちゃう?」

「ああ」


 そして抱き合った。


「これで信用してくれる? ドッキリじゃないって」

「ああ、信用するわ」


 ハグまでされると、もう疑うわけには行かない。その光景を見て女子二人は微笑んでいた。


「じゃあまずはデートしようか」

「どこにだ?」

「うーんまず行きたいところはね。カラオケかな。いい?」

「もちろんかまわないぞ」


 カラオケは元から好きだしな。


「じゃあレッツゴー!」


 と、出発した。


「あの」

「ん?」

「まだ信じられないんだが」


 頬をつねってほしいくらいだ。夢じゃなかったらこんなのおかしすぎる。男子の妄想第一位だろ、こんなの。漫画によくありそうなシチュエーションだし。


「もう、ハグしたじゃない」

「でもさ、なぜ俺なんだ?」

「さっきも言ったじゃない。立ち振る舞いが好きだったって」

「だけど、やっぱりまだ実感がわかないんだよ」

「もう、自己肯定感低いなあ。理由をもっと説明してあげよう。まず立ち振る舞いが好き、姿勢とか、歩き方とかね。他にも、休み時間の過ごし方が好き、いっつも勉強してるじゃない? あと、声が好き。たまにしゃべる時は結構声がいいし。あと、性格ね。いつも掃除とか真面目にやってるじゃない。他には……」

「待て待て分かったよ。お前が俺のことが好きなのはよくわかった。もう疑わないから」


 ここまで言えるってことは本当なのだろう。それならもう疑うほうが失礼だ。


「わかってくれましたか。ならいいです」

「ああ」



「じゃあ歌いましょっか」

「ああ」


 未来に先にカラオケマシーンを触らせようとしたが、触ろうとしない。


「あれ、先に入れてほしいんだが」

「それは無理。先に歌ってほしいの」

「俺もいきなりは怖いんだけど」

 カラオケ自体行ったことほぼないしな。

「そうですか? 私は先に歌ってもいいんですけど、翔太君に先に話してほしいの。だめ?」


 そう上目使いでねだってきた。


「仕方ないなあ。わかったよ」


 こう来られてはもう俺は断るすべを持たない。


「やったー!」

「じゃ入れるわ」


 とはいえ何を入れたらいいのかわからない。流行りの歌を入れたらいいのか? まったくわからねえ。とりあえず、流行りの曲ランキング一位に入ってた曲を歌うか。


 そして『潮が満ちる日』という歌を入れた。


「よし!」


 と、マイクを握り、歌い始める。


「君と話した日、そこは海だったよね。君は覚えているのかな? あの日の話の内容を……」


 いい感じだ。音程もそこそこ取れている。このまま行きたいところだ。と、未来の顔を見る。いい感じの笑顔で乗っていた。なるほど、これが友達とのカラオケってやつか。いいじゃねえか。


「お疲れ」


 歌い終わったらすぐに未来が俺をハグのポーズで迎えてた。


「なんでだよ」

「だって不安ならもっとハグをしないとね」

「もう不安じゃねえよ」

「でもカップルになったんだしね」

「まあそうか」


 と、ハグに応じると……


「イエーイ!」


 と、ぎゅっと抱きしめられた。


「おい」


 ちょっと強く抱きしめすぎな気がする。もうちょっと軽い感じのハグだと思っていたが。


「何?」

「もう少し軽くやってくれ」

「えー。友達ハグじゃなくて、カップルハグなのよ。これぐらい強めでやってくれていいじゃない」


 そんな義理チョコ、本命チョコみたいな感じで言われても。


「そういや歌う時間なくなるぞ。画面広告が始まっているし」


 てか点数見るの忘れてた。


「ああ、そうだね」

「そういや、点数見てた?」

「見てましたよ。八五点ぐらいでした」

「おお、いい感じだな」


 まあカラオケに行ったことがないから相場とかわからないんだが。


「それにいい声でしたよ」

「それはありがたい」


 なんにしろ褒められるのはうれしいことだ。ありがたい。


「じゃあ歌いましょうかな」


 クラスのマドンナの歌声か……楽しみだ。


「今、君と会うたびに思い出すのだろう。君と初めて会った時のことを……」


 そんな感じで歌いだした。イメージ通りのかわいらしい声だと思いきや、意外にも低温のしっかりと芯の通った声だった。女性版イケボと言ったところか。


「いい声だな」


 と、間奏の間に未来に伝えた。


「ありがとうございます!」

「いや、そんな感謝しなくても」


 ただ、感想を言っただけだし。


「やっぱり優しいですね」

「普通のことだよ」


 そして二番が始まり、そのまま未来が歌い終わった。


「お疲れ様」


 と、熱唱し終えた彼女に言葉をかける。


「久しぶりに歌ったわー」

「ん? いつも友達とかと歌ってるんじゃないのか?」

「そんなこと言わないでよ。私そこまでカラオケ行ってないよ」

「へー、陽キャはいつも行ってるもんだと思ったんだけど」

「私陽キャじゃないし」

「男子にモテモテなくせに?」

「だってモテても意味ないし」


 と、軽く悲しそうな顔をした。モテる人にはモテる辛さがあるのかな?


「モテても意味ないってことはないだろ。だってお前がモテてなかったら俺も告白オッケーしてなかったかもしれないし」

「それって、私の彼氏って称号が欲しくてオッケーしたってこと?」

「違う違う、ただ、お前がモテてるっていうのはお前がかわいいからということを伝えたくてだな」

「え? かわいいって言った? 私のことを」

「ああ、言った」


 未来は照れた顔を見せた。


「うれしい。ありがとう」

「足りなかったらいくらでも言うからな」

「ありがとう。じゃあ十回言って」

「お前はかわいい、お前はかわいい、お前はかわいい、お前はかわいい、お前はかわいい、お前はかわいい、お前はかわいい、お前はかわいい、お前はかわいい、お前はかわいい」

「うれしい、愛してる」

「だからそんな強く抱きしめんなよ」


 まあまんざらでもないけどな。


「愛してる……」


 と、ぼそっと言った。


「ありがとう。嬉しい、良い声だし」


 喜んでもらえたようだ。


「てか次の歌うたうぞ。時間がもったいねえ」

「はーい」


 そして俺も次の曲を歌った。


「それで今日は私の家に来てもらえませんか?」

「ん? 急にだな」

「言うの忘れててごめんなさい。でも紹介したくて」

「うちのご飯とか大丈夫かな?」


 さっき来たメールの内容によると、今日はあと三十分程度でご飯ができるらしい。


「それなら大丈夫ですよ。まさか彼女ができたから彼女の家に行くって言って、だめです! 帰ってきなさい……なんて言う親いないと思いますよ」

「そうだといいんだが」


 と、メッセージアプリで母さんに送る。


(え? 本当なの? それは)


 と言う返事がさっそく来た。


(ああ、今日告られた)

(それは良かったわね。帰りは何時くらいになる?)

(たぶん、七時ぐらい?)


 知らんけどそれぐらいかな。


(わかったわ。最悪、向こうでご飯食べてきてもいいわよ)


「よし、大丈夫だって」

「それじゃあ今度こそレッツゴー」


 とい、家に行くことになった。

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