第二話:アウレールの能力
「ありましたわっ!ねこたんですの〜っ!ええ習ったわっ、ふふ、いつか本物のねこたんも見るんですのん。んぅーっ、ぅ〜!」
意気揚々と空を泳ぐシュネーが風見鶏を目印に到達したのはアウレールの家。シュネーは空中でぽんっと白煙を
黒リボンでとまった三つ編みカチューシャは幼い顔を華やかに飾り、肩から一部編み下ろしになった白銀の絹髪は、
「ぐらきえーすっ!来てくれたんですのんっ?ふふっ大好きよ、しゅねーの天使ですのん〜。──あっ!人間ちゃまっ!にーんげーん、…ちゃ、まぁっ!!!」
「!!!!女の子!?!?え!ここ二階、え、どっから来…!」
シュネーは窓辺に居るアウレールを見るなり興奮に頬を紅潮させ、袖のレースをひらりと揺らしながら窓の縁から身を乗り出すように顔を覗き込む、と同時に響く慌てふためくアウレールの声。そして有り得ぬ状況であるのに友達の笑う声が聞こえる。
「なぁに言ってんだよアウレール、まだ寝惚けてんじゃねーのか?」
「お前、見えないのか!?女の子!!」
「しゅねーですのん!!あうれーる?ちゃま!やっぱり、おじいちゃまの言ってた通り、しゅねーの事が見える人間ちゃまなんですの〜ん!!わあーーっ。」
「…!?寒ッ。…あっ、ンわりぃ!!!雪合戦行けそうにねーわ!今、オレ深刻な熱出てるかもしんねえ!今度な今度!」
シュネーが自己主張激しくふふんと胸を張りながら悪戯にアウレールの視界を占領しにかかる中、アウレールは友達とシュネーの返答に更に困惑した。──そうなのである。普通、シュネーの姿は人間には見えない。ただの雪が舞っているようにしか見えないのだ。故に友達にとっては、アウレールは独り言を言ってるように見えるのである。
歓喜の声をあげながら吹き荒ぶ雪を連れてビュオーッと部屋内へと転がり込むシュネーに軽い目眩を起こすアウレール。早口で友達に予定の断りを入れてはバタンッと窓を閉め、肩で息をしながらシュネーへと振り返り、懸命に理解しようと頭を抱えながら目紛しく情報処理を。そして掘り出した夢の記憶と照らし合わせながら。
「シュネー、だっけか、…、爺さんがどうとか言ってたな?…もしかしてお前、雪??え、オレお前の世話すんの??」
「そーですのん!あうれーるちゃまのあんな事やそんな事を教えるですのん〜。でも、あちち〜は溶けちゃうから、ノンノンですのん!あっ、これが人間ちゃまの食べ物ですのん?いただきますのん〜。」
超自由人。まるで猫舌の人のようにシュネーがフーフーと机上に吹くなり、朝食の焼き立ての温かいパンが一瞬で氷漬けになった──しかしガリガリと、聞いてるだけで知覚過敏を起こしそうな音を立てながら夢中に氷パンを頬張るシュネーは、クネクネと美味そうにうまうまダンスをしている。憎めない…。
加えてグラキエースがアウレールの頭にモフンと乗ったり、目の前を慰めるように愛らしく飛び回って来るものだから、パニックを通り越し一周回って現状を受け入れるようにアウレールは猫背に脱力した。そして、完全にあの爺さんに巻き込まれた、と目を据わらせていた。
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