魔法使いシリーズ/番外記録
九夏 ナナ
カルト・オカルト・フェイス/From 呪詛返し
第1話 色彩心理(?)≠
思えば、今回の事件は師匠にとって、かつてのおさらいだったと言える。
二十年も前、あの人がまだ高校生だった頃、そんな頃に起こった大事件が今になってぶり返した話であり、記憶の片隅にあった物語を振り返るきっかけになったお話。
俺が巴さんの人格をよく知ることのできた話でもあった。
語り手が俺では、少々分が悪いと思うような話だけれど、始まりは俺だったわけだし、まぁ問題なかろう。
「カルト宗教?」
「そうなの、どうにかならないかな。七楽くん」
平日午後のティータイム。珍しい人から近隣のレストランで呼び出しを食らった。
俺より一歳上の先輩で、小学生からの腐れ縁である。
とはいえ、彼女は姉貴と同じく天才肌。中学、高校は姉と歩調を合わせるように名門へ進学し、同じように学がある。大学こそ別になってしまったが、スペック的には姉貴と同等か。
唯一の相違点は、俺を大事にしてくれた事――だろうか。
春風秋冬は、姉弟を持たない。弟妹がいない。兄姉がいない。
だからこそ、姉から嫌悪されていた俺にも気を遣ってくれていた。妹モノを書く作家に、妹はあらず。みたいなのと一緒だろう。姉弟がいないからこそ、秋冬は俺に興味を持ち、関心を持ち、同情をした。
そんな彼女の呼び出しがあればすかさず飛んでくるのがこの俺、天河七楽である。姉以上に姉らしく、俺に尽くしてくれた彼女に、俺は感謝している。
そのスペック差から、惚れる事すら罪に感じるので、俺は彼女を崇めている。それこそ聖女のように。
そんな聖女様から、如何にも怪しい言葉が投げられた。
カルト宗教。
犯罪行為を犯すような、反社会的な宗教団体を指して使用される、その言葉を秋冬は口にした。奢りだからと言われ、二枚に重なったハンバーグに食らいついていたフォークが止まる。
「どうにかって言われましてもね。そういうのは専門外ですよ。いや、専門の場合もあるか?」
カルト宗教が崇めている神様が、怪異として実在していたら――――なんてケースなら俺たち専門家の出番ではある。だが、話を聞いている限りそんな雰囲気ではなさそうだ。
何故なら、教祖は人であり、そいつは今も元気にやっているらしい。
秋冬から手渡された週刊誌を片手に再び食事を続けるが、真っ当な新興宗教だ。胡散臭いが、我々の領分である、「ホンモノ」ではなさそう。
「彩色心裡教会――――聞いたコトもない」
どうでもいいが、色彩心理と言葉が似ているね。
「でもね、二十年前の地下街天井崩落事件の被害者家族ばかりが入信しているの。これって不気味じゃない?」
二十年前の二〇二〇年。地下街天井崩落事故。死者二百余名。負傷者ゼロの、全員がもれなく死んだ事故。否、あれは事故ではない。我々の界隈において、解体殺人と呼ばれる殺戮事件であり、それを連中が隠蔽した結果が、天井崩落事故である。
その真実を知っているのはごく僅か。この地域では数えるほどしかいない。警察などの行政機関も事実を知らないまま、真相は闇に葬られた。
ある魔術師によって引き起こされた実験。
精神超越を人為的に引き起こし、その結果を観察するという計画。魔術師によってばら撒かれたおかしな薬物は、一般人の手に渡る。その効能こそが精神超越。第六感の拡張だったらしい。全員が才能開花するわけではなかったが、結果として一部の人間が精神超越し、その境地へと至った。
そして、ある男は殺人に魅了された。
第六感を拡張された結果、殺人鬼になった。以前相まみえたカマキリ男みたく、そうしなければ生きられないような体になった。
結果、発生したのが解体殺人。マスコミには鋼戸地下街天井崩落事故と呼ばれる大事故である。
そして、今になって、その被害者家族がこぞって彩色心裡教会への入信を初めている――――確かにきな臭いけれど、怪異が入り込む余地はないような。巴さんが聞けば、別の返事が返ってくるかもしれないが。
「確かに不気味かも…………まさか、ご家族が入信したとか?」
一つ、訂正をすれば、春風秋冬には兄がいた。かなり歳の離れた兄がいた。春風家族で唯一事件に巻き込まれてしまった被害者だ。今も生きていれば、巴さんと同じくらいの年齢だろうか。
だから、彼女の話の流れからすれば、両親が宗教に飲めり込んでいてもおかしくない。彼女も、その両親も被害者家族と呼べるし、春風秋冬らしからぬ話題を振ってきたことにも頷ける。
「ビンゴだよ…………七楽っち」
平然を装ってはいるが、焦りが顔に出ている。
「被害と呼べるものはなにかあるんですか?」
「今の所はなにも――――ただ、お兄ちゃんの話をよく喋るようになったのと、最近やたら行動的」
「お金をぶんどられたとか、そういうのは?」
「それが全くなんだ。でも不気味でさ、ちょっと相談したくて」
「俺より姉貴に連絡した方がいいのでは? あの人なら一呼吸の間に組織壊滅できるでしょうに」
「あはは。随分信頼しているね。でも今はダメだよ。二人目がいるから」
「二人目?」
しまった。と秋冬は苦笑する。
「やっぱり聞いてなかったんだね」
「勿論ですとも」
満面の冷笑を、してやりましたぜ。
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