第7話 エナジードレイン!
魔王と目が合ったのか、男が体をビクリと跳ねた。
すごく悪い予感がしたのは俺だけではなかったようである。魔王の視線はそのままだが、男の視線はキョロキョロとこちらと魔王を見ているようだ。こっち見んな。
「お前に栄光を授けよう。このわが輩の糧となるのだ。エナジードレイン!」
「へ? ギョワー!」
かざした手のひらから謎の光が発せられると、それを受けた男が身をもだえ始めた。技名からして、相手のエネルギーを吸収するもののようである。
それが生体エネルギーなのか、魔力エネルギーなのか、はたまた、まったく別の何かなのかは分からないが。
だがしかし、分かったこともある。エナジードレインという技が存在するということだ。
エネルギーを吸収し終わったのか、光が消える。残されたのは白髪になった男だけである。
遠目でよく見えないけど、シワシワのおじいちゃんになっているような気がする。でも、どうやら生きているみたいだね。
「そ、そんな……」
擦れた声が聞こえてくる。これは、合掌するしかないな。南無阿弥陀仏。
魔王の顔がこちらを向いた。
「ふむ、まったく足らんな。完全に力を取り戻すためには、まだまだ魔力を集めねばならぬらしい」
「へー、さっきのエナジードレインは魔力を吸収する技だったんだ。それならなんでその人がおじいちゃんみたいになっているの?」
こちらを向いた魔王の顔が真顔になっている。俺が普通に話しかけたので、不意をつかれたらしい。だが、親切にも魔王は俺の質問に答えてくれた。
「魔力は生命力と密接に関わりがあるからな。魔力がなくなれば、当然、生命力も失われる。お前たちの場合は若さだな」
「それは知らなかった。どうりで魔力を枯渇させたら死にかけたわけだね」
納得してうなずいていると、隣からため息が聞こえてきた。
「レオニール様は一体、何をやっておられるのですか。いや、それよりも、そんな話をしている暇があるのなら、今すぐに逃げて下さい。なんとか私が時間を稼ぎますから」
「うーん、でもニーナがヨボヨボのおばあちゃんになるのは嫌かな?」
「私だって、ヨボヨボのおばあちゃんになんてなりたくないですよ!」
ニーナとワイワイ話していると、「オッホン!」とわざとらしいせきが聞こえてきた。
魔王だ。完全に俺たちが無視していたことに、危機感を覚えたようである。もしかすると、さみしがり屋なのかもしれない。
「わが輩が言うのもなんだが、ずいぶんと余裕があるな、二人とも」
「まあ、そうかもしれないね」
「私は今すぐにでもレオニール様に逃げていただきたいのですが」
「わが輩が逃がすと思うか?」
「それじゃ、早い者勝ちだね。エナジードレイン!」
スキを見せたな。その油断が命取りなのだよ。格下だと思って油断したな、魔王!
これが転生特典として俺がもらった規格外の力。その名も転写の瞳。見たものをなんでもコピーできるという能力である。
それが剣術だろうが、魔法だろうが、字のきれいさだろうが、仕草だろうが関係ないのだ。
魔王へとかざした手のひらから、先ほど見たのと同じ光がほとばしる。それは見事に魔王に当たった。
「へ? ギョワー!」
先ほどと同じ悲鳴をあげる魔王。
はやっているのかな? それとも、エナジードレインを受けると、あの叫び声になってしまうのだろうか。それはそれで恐ろしい。
「ちょ、待った、待った! 待ったって言ってるであろうが! ギョワー!」
「待てと言われて待つやつはいないと思うよ。それに、俺たちの魔力を吸収するつもりだったんだろう? まだ七歳なのに、ヨボヨボのおじいちゃんになるのは御免だね!」
「ちょ、魔力が、わが輩が長年かけて蓄えた魔力がー!」
その蓄えた魔力が俺の中へと入っていく。魔力を吸収するのにも限界があるかなと思ったけど、そんなことはなかった。
どんどん魔力を吸収しちゃおうね~。そして二度と悪いことができないようにしてあげようではないか。
お、魔王の体がどんどん小さくなっているな。どうやら魔王の体は魔力で形作られていたようだ。
「ヒィィ! このままでは消えてしまう! お許し下さい、レオニール様!」
「どうしよう、ニーナ。ちょっとかわいそうになってきたんだけど」
「気を許してはダメです。パワーをエナジードレインに!」
「お、鬼! ギョワー!」
なんだかなぁ。楽しそうだよね、ニーナと魔王。もしかすると、なかなかいいコンビなのかもしれない。そんな思いが沸々と湧き起こり始めたころ、魔王が白旗をあげた。
「ギ、ギブ、ギブ! ギブアップ! 配下になる。レオニールの配下になるから!」
まさかの魔王からの「配下になる」宣言。つまり俺は今日から魔王の上、大魔王になるということだ。ワハハハハ!
……笑えないな。でも、そろそろ本当にかわいそうになってきたし、もうずいぶんと小さくなっちゃったし、あのカルト信者も生きているし、許してあげることにしよう。
エナジードレインを中断すると、魔王の縮小も止まった。
「お、おお、生きてる。生きてるって素晴らしい!」
「レオニール様」
「まあまあ、いいじゃない。あそこまで小さくなったら、もう何もできないはずだよ。もし何かしたら、今度こそ、跡形もなく消滅させるからさ」
「言っていることがなかなか残酷だぞ」
「何か文句があるのかな?」
「ありません!」
ビシッと敬礼した小さな魔王。出会ったころの威厳は皆無である。これでよかったのだろうか? うん、よかったと思うことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。