第13話 リアルには……リアルゲームオーバー現象がある
この〈プレモン〉世界ではホルダーに覚醒したとき、〈始原〉と呼ばれるエリアで最初のモンスター〈エース〉と契約し、1500ミールを受け取って育成を始めるのが習わしだ。ちなみに主人公は〈始原〉の〈森〉エリアスタート。
そんな習わしある!? 1500ミールとか少なっ!? と思うかもしれないが、家はお金の掛からない寮生活だし。ゲームなので初期金額はこんなものなのだろう。
モンスターを倒せば稼げる世界だ。少なくとも勝ち続けたら生きては行ける。
……え? 負け続けたら?
……。
…………。
………………。
そのときは諦めるしか無い。
さらにそこへリアルになって食事を絶対に取らなければならない非常事態発生!
食事は無料ではない、有料だ。
働かざる者食うべからずを地でいってるな。どうやらこれ、試練らしい。
ホルダーというのは割と危険なこともある。バリアを抜かれてダイレクトアタックを食らえば命に関わるからだ。だからこそ篩いに掛ける意味でもこの方法が採用されているらしい。
ここでなら例え負けても命の危険がほとんどないからな。モンスターも弱い。
そしてここで大問題なのが、最初に与えられた
え? そういうときどうするの? とマルスに聞いてみたところ。返ってきた言葉がこれだった。
―――リアルゲームオーバー。
つまりは試験不合格。
最初に渡された1500ミールの資金を溶かし、食事すらまともに取れなくなった者はホルダーには向いていないということで入学試験を受ける前に不合格になるらしい。
そうなると実家に帰るしか無いわけで、もちろんホルダーを育成する学園には入学できない。実質のゲームオーバーだった。
マジで!? そんなゲームオーバーあるの!?
とはいえ食事さえちゃんと取れるほど稼げればなんの問題も無い。
俺の稼ぎならば問題無いし、タケやんだって大丈夫だ。
最安値25ミールの食事を朝食、昼食、夕食代で使って75ミールに抑えれば20日滞在が可能だ。
〈始原〉での活動は2ヶ月のみなので、2ヶ月分の食事を最低限稼ぐことができればゲームオーバーにはならない。
そう聞くと、そんなに難しいことじゃないように感じるだろう?
で、あるのだが。一定数これが難しい子たちがいるらしい。
それが攻魔力の無いモンスターなどを引き当ててしまった場合だ。
いや、無いことも無いのだが、マルス曰く……ここの野生のモンスターに1対1で負ける性能のモンスターを引き当ててしまうと、下手すりゃ詰むらしい。
それを回避するための【戦闘力】であり、ホルダーが戦闘に加わることなのだが……。
この世界ではバリアが無い状態でのモンスターからの
そしてエメリアと〈森のポポ〉のホルダーミオリはそっち側に位置するようで、稼ぐことが難しいらしい。
ちなみに召喚モンスターがやられるとレストカードと言って、モンスターカードがセピア色に変わり召喚できない戦闘不能状態になってしまう。これはキャンプ場で復活させてもらわないと再召喚出来ない状態だ。そして〈ゼロ進モンス〉の復活には500ミールが掛かる。
スリーアウトでゲームオーバーだ。
「だから2人は組んだんじゃないかな?」
「マジか……。確かにホルダーが組めば少なくとも1対1じゃないし稼ぐことはできるようになるのか?」
「だが、それだと稼ぎがむちゃくちゃ少なくなるよな。ただでさえ少ない報酬を分け合うんだし、必要な経験値だって倍になる」
マルスの言葉に驚愕していると、今度はタケやんがグッと歯を噛みしめて言う。
きっと先ほどの買い取り金額を思い出してしまったのだろう。
確かに、2人なら倍狩れるという意味では無い。ドロップも増えたりしないので、ようやくモンスターを倒せるレベルの2人が手を組んだところで赤字回避できるのか心配なところ。
あれ? だがそうなるとマズくないか?
あの〈森のポポ〉のホルダーはともかく、エメリアは
それがこのままだと退場する可能性がある?
……え、マジで?
確かに時間が経てばLVも上がるだろうから、直に収入もアップしていくだろう。
だが、LVが上がる前にモンスターがうっかりレストカードになってしまったら?
それも連続で。その可能性は大いにあり得た。それは、ヒロインが消えると同義。
それはマズい。
「どうしたのヒイロ?」
「ああ。ちょっとヤバいことが頭を過ぎってな……。2人はこの後どうするんだ?」
「俺は稼ぐぞ! 稼いでもっといいメシを食べる! あともっと良い竹槍が欲しい!」
「ぶ、ぶれねぇ」
タケやんが意気込むが、その後半のこだわりよ~。さすがはタケやん。タケやんはさすがだぜ。
「僕もレベル上げかな。ヒイロにアドバイスして貰ったし、色々出来る気がするんだ」
「おう。マルスも頑張れ」
金稼ぎやレベル上げは、当り前だがソロの方が効率が良い。
モンスターを倒せる実力があるのならソロの方が稼げるからだ。
「ヒイロは?」
「ああ。俺もレベル上げ。後は、モンスターカードも欲しいからクエストを受けてみるつもりだ」
エメリアたちのことは気になるが、まずは自分を鍛えなければ。エメリアたちだってそんなすぐにミールが底を突くということはないだろう。
自分たちで持ち直す可能性もある。まずは様子を見て、マズそうなら手助けしようと決める。
そしてそれには、手助けできるだけの戦力アップが必要だ。
「クエストか」
「モンスターカード……、さすがヒイロだね」
俺の言葉に考え込む2人。
モンスターカードは落ちにくい。
そのため、購入か、クエスト報酬でモンスターカードを狙うのは普通のことだった。むしろ確実に狙うならそっちのほうが良いのだが、普通は【召喚枠2】するためにホルダーLV10になる必要があるため後回しにする人が多いらしいのだ。
うーむ、一応モンスターカードとなるとそこそこの金額になるわけで、むしろクエストで手に入れたモンスターカードを売って資金を貯めるという手もある。
俺はそう言ってオススメしておいた。良い報酬のクエストというのは早い者勝ちなのだ。
朝食を終えると、俺は一狩りしに出かける。
クエストはホルダーLVが5以上になってから受けるつもりだ。
昨日とは別の道へ進み、それなりの奥に進むと、行き止まりに差し掛かる。そしてそこには特徴的な大きな木があった。
「おお~。大きいな~」
「立派な木だにゃ」
「ウキュ~」
クスノキだな。さすがにあのト◯ロに出てくるような大きさでは無いが、それでもかなりの巨樹だ。
実はこのクスノキの裏手には落とし物が落ちている。それがここに来た理由だった。
「多分この辺に……お、あったあった」
「今度はどうしたにゃ?」
「ウキュ?」
すでにゼスとスイリンは召喚してあり、肩に乗せていた。野生のモンスターが登場するフィールドに入るときの鉄則だな。
どうやらこの位置がゼスとスイリンは気に入ったらしい。バランスを取るために俺の首に巻き付いている尻尾がもふもふだ。スイリンは肩に小さななお手々で掴まっている。大変素晴らしい。
俺はゼスとスイリンが落ちないよう気遣いながら屈み、落ちていた1枚のカードを拾い上げて見せる。
「これ、モンスターカードが落ちてた」
「む。そうか……。よく拾ってくれたにゃ」
モンスターカードはホルダーに敗れた時しか
ホルダーが落としたのか、それとも拾えるような状態じゃなかったのか、いずれにせよゲームではモンスターカードがそこら辺に落ちていることがあった。
そういうモンスターカードは、ゼス曰く迷子なのだそうだ。拾ってくれたということは保護したに等しく、ゼスは自分のことでもないのにお礼を言ってきたのだ。
「これが神のあり方にゃ。見習うと良いにゃ」
「俺は別に神になる気は無いんだが」
「それで、どんなカードにゃ?」
「これだ。〈キューサ〉のメスだな」
〈キューサ〉はウサギ型モンスター。ウサギなのにアタッカー系のステータスを持っている。
見た目はウサギをさらにデフォルメ化し、可愛さをマシマシにした姿。体色は淡いピンクで小首を傾げながらこっちを見つめるイラストが尊いのだ。
これは【器用さ】を上げて進化させるととある特殊進化を果たす。俺はそれが欲しい。
カードをそのまま支給されたカードホルダーへと収納する。
「……ヒイロはこれがここに落ちていたことを知っていたのかにゃ? 『召喚枠チップ』のカードを拾った時から思っていたがにゃ、ヒイロはなんでそんなことを知ってるにゃ?」
すると、俺の発言に迷うような素振りを見せていたゼスだったが、結局言葉の意味を聞いてきた。
まあ、そう思うよな。俺もゼスには話しておきたかったし。わざとそういう流れにした部分はある。
今後こうやって一緒に行動するんだから誤魔化すなんて出来はしないのだ。軽く説明しておかなければなるまい。
「ああ、俺はこれがここにあると知っていた。俺はそれなりに知っていることが多いんだ。ゼスを〈神猫様〉にするルートも知っている」
「……なるほどにゃ。我がヒイロの
「あれ? そんな簡単に信じるのか?」
「〈神猫様〉だった我の運命操作をあまく見るにゃよ? むしろなんで我がヒイロのモンスターカードにならなければいけなかったのか分かって謎が解消されたくらいだにゃ」
ちょっとびっくり。本当に軽く説明しただけで納得されてしまった。
それほどゼスは自分の能力に自信があったんだろうな。
運命操作?
なんかすげぇ心引かれる言葉だな! さすがは神様だぜ。
そんなスキルは聞いたことは無いので新コンテンツで新しく導入された、〈神猫様〉の固有スキルの可能性もある。
いずれにせよ。ゼスを〈神猫様〉にしたときが楽しみだ!
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