第12話 リアル世界では食事にお金が掛かるって知ってる?




 俺が〈プレモン〉の世界に来て2日目の朝。


「あ、そっか。ここは〈プレモン〉の世界なんだった」


 起き上がって自分の家じゃなかったことで徐々に昨日の記憶を鮮明に思い出していく。

 結局これは現実で、夢から覚めて家に居た、なんてことは起こらなかったようだ。

 ゲームしてて寝落ちした可能性もちょっとあっただけに、思わずグッと手を握る。


「イッし! 今日は何をしようかなぁ」


 戻れなくてもいいのか? と聞かれれば、まだよく分からんと答えるが、少なくともゴールデンウィークはあと8日あるんだ。

 戻る方法があったとしても急いで戻る必要はない。このリアル〈プレモン〉という現実を楽しむ方が遥かに有意義だ!


 ということで出かける準備をして部屋から出ると、大部屋にいるマルスを見つけた。


「よう、マルスおはよう」


「あ、ヒイロ、おはよう。もう朝ご飯に行くの?」


「ああ。今日からは自分で食事もやりくりしなくちゃいけないんだろ? ちょっと食堂に興味があってさ」


「実は僕も。じゃあ、ご一緒していいかな?」


「ならタケやんも呼ぶか」


 まだ早朝とも呼べる時間だったが、タケやんの部屋をノックすれば寝ぼけながらも「俺も行く~」と返事があったので、起きてくる間にマルスへオススメの狩り場や戦闘方法、武器の購入などをちょっとアドバイスしておいた。


 少しして寝ぼけ顔のタケやんが部屋から出てきたので食堂へと向かう。


「食堂っていうか、まんまキャンプ場だな」


「雨の日とかちょっと大変そうだよね」


 俺の言葉にマルスが苦笑して相槌を打つ。

 コテージからすぐの場所に食堂があった。食堂と言っても屋外だ。屋根だけが設置されたスペースで壁は無し。テーブルと椅子は木製のものが置かれている。

 カウンターの向こうの調理場はちゃんと室内なのはちょっとホッとする。


「ヒイロ、タケやん、何頼む?」


「その前に俺はまず昨日のカードを換金だな。そういえばお金無かった」


「あ、そういや俺もだわ」


「え、ええ? もうお金無いの?」


「装備が高すぎてさ」


 俺とタケやんは顔を見合わせて困った顔をする。

 俺は〈カヤの木刀〉を、タケやんは文字通り〈竹槍〉を購入していたので所持金が限りなくゼロに近かった。


「えー。もう早くしてよ。お腹ペコペコなんだから」


「悪いな」


「すぐ戻ってくるから」


 そう言って2人で少し席を外す。

 ここに来るまでうっかり忘れてた。実はゲーム〈プレモン〉ではホルダーの方に満腹度などは設定されていなかったため、モンスはともかく、ホルダーの食事にお金を掛けるという考えが無かったのだ。

 ここはリアルなんだし、そりゃホルダーもお腹は減るし、なら食事にお金も掛かるよな。


 急いで食堂のカウンター、隣の買い取りコーナーへと向かう。

 聞いた話では、初日は俺やタケやんのように換金忘れで料金が払えないということが多いためこうして数日はここに買い取りコーナーを設置しているのだとか。正直ありがたい。まあ、食事ができないくらいお金がないのは装備カードを購入した俺たちくらいしかいないっぽいが。


 俺は昨日のドロップのうち、いらないカードは全部売る。


「これを買い取ってください」


 買い取り所では1人の黒いローブを着た若々しい(?)おばあさんがいて、カードを取り出して渡すとすぐ査定してくれた。


「あいよ。う~む。1020ミールってところかね」


「じゃあそれで頼みます」


「おや即決だね。これだけ持ってくるともう少し上げてくれと言う子も多いんだけどね」


「それが適正額というのは分かっていますから」


「ほう。はっはっは。なかなかに優秀じゃないか。サイフカードをだしな」


 おばあさんはケラケラと笑いながらカードを取り出した。

 これが凄くて、お金もカードで取り扱うのがこの〈プレモン〉の良いところだ。

 これをサイフカードといい、黒い画面に白い文字で色々書いてあり、下に現在の保有金額が書かれている。現在の俺の金は僅か20ミール。

 そこにおばあさんが〈財布〉カードを翳して話すと、カードには1040ミールと数字が刻まれていた。これで入金が完了したということだ。

 まさかのキャッシュレスである。


 昨日俺はLV4になるまでモンスターを倒しドロップをたくさん集めた。必要なものは取っておいてあるものの、それだけ戦って1020ミールというのは確かに少ない。

 一番高く売れたのが〈魔石〉というドロップアイテム。これは300ミールと高値で売れるので持っていた3つ全部売却しておく。当面の資金確保だ。


 ちなみにだが、〈カヤの木刀G〉は1200ミールである。お高いなぁ。

 まあ、無理して買っただけの価値はあったが。


「え、ええ!? 360ミール!? え、じゃあこれは?」


「これは100ミールで買い取りだね」


「そんなに安いの!?」


 タケやんは俺よりもずっと少ないはずだからな。どうやら提出したドロップカードの安さに愕然としている様子だった。ちなみにHPを+15する〈ベリー〉が2つで100ミール買い取りである。あとタケやん、〈ベリー〉は売らない方がいいぞ?


 まあ初期も初期のモンスタードロップだし買取金額なんてそんなもんだ。


 ただ、この〈始原の森〉のキャンプ場は最初のステージなだけあって買い物も安い。食事だって学割が効いているので100ミールもあれば腹一杯食べられる。


「僕はサンドイッチかな。70ミールでお手頃だし。ヒイロは?」


「一番安いのはトーストとコーヒーのセットで25ミールか。俺はドロップがそこそこな値段で売れたからそこまで節約しなくてもいいからな。モーニングセットのA、100ミールのやつにするよ」


「俺はトーストとコーヒーでいい……」


 おっと、いつの間にかタケやんが戻ってきていたが、かなり肩を落としている。

 きっと夢を打ち破られてしまったのだろう。

 大丈夫だ、こんな安い買い取りなんて最初だけだ。レベルを上げてもうちょっと先に進めばもうちょっと高く売れる素材をドロップするモンスターも登場する。そうすればタケやんだって毎日モーニングセットが頼めるさ。


 そう激励すれば「俺、頑張る! 美味い飯を食うために!」とやる気を出していた。

 先ほどの買い取りの話を聞く限り、毎食100ミールを使っていたら手元にほとんど残らないだろう。豪華な食事をするには稼がなければならないのだ。頑張れタケやん。


「ん?」


 心の中で激励を送っていると2人の女子が食堂にやって来たのが目に入った。

 1人はエメリア、もう1人は……あ、〈森のポポ〉を手に入れていた女子だ。

 女子部屋はゲーム時代、入室出来なかった関係であまりキャラの名前知らないんだよな。


 2人は買い取り所には寄らずカウンターでタケやんと同じ最安のトーストとコーヒーを注文していた。


「どうしたのヒイロ――あ、あの2人が気になる感じ?」


「あー、あの女子か。攻撃力型じゃないし、残れるかはちょっと厳しいよなぁ」


「ん? どういうことだ?」


 俺が女子の方に目を向けていると、それに気が付いたマルスとタケやんが何か意味深なことを言い始めたので聞いて見る。残れるか厳しいってどういうことだ?


「え? だってあの2人のモンスターじゃ狩りは難しいでしょ? モンスターが狩れなければレベルは上がらないんだし、そしたら入学試験は受けられないし」


「モンスターが倒せなければいずれ資金が尽きてここを去って行くことになるな。やめる的な意味で」


「え…………マジで?」


 資金が尽きたら食事が出来なくなる。つまり、ここを出ていかなくてはいけないということ。ゲームの時のように満腹度が無いからお金をいつまでも使わない、ということは出来ない。


 どうやらリアル〈プレモン〉には、ゲームオーバーが設定されているらしい。




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