第11話 マルスとタケやん登場。寮生活1日目の終わり。
「あ、帰って来たよ」
「よう。遅かったな」
「お」
コテージに帰ると、大部屋でくつろぐ2人の男子がいた。
もちろん俺は彼らを見たことがある。もちろんゲームでだ。
「マルス、タケやん」
「おい、タケやんってなんだ!?」
思わず出ちゃった俺の言葉に1人長身の男子が反応する。
竹使いのタケやんと言えばゲームで面白キャラとして知名度が高く、本当の名前は知らないのにタケやんという名前は知っている、そんな愛されしキャラだった。
年齢は17歳。黒髪黒目で、髪は短め目はやや細め。武器はタケやんの代名詞、竹製の槍だ。モンスはニワトリ型の〈コッコー〉である。
続いてマルスは例の〈コボルド〉を引き当てた少年だ。
年齢は13歳。ブラウンの髪をほどよい長さに整えていて、未熟な少年という顔つき。
高等部を卒業するとき16歳になって青年に近くなった姿は割と人気で、女性ユーザーからは子犬キャラとも呼ばれ、逆光源氏計画なる青田買いでこの頃から好感度を稼いで楽しむらしいと聞いたことがある。
「ヒイロだよね? 一緒のコテージで生活するし、これからよろしくね」
「こちらこそよろしくマルス。タケやんもよろしくな」
「マジでタケやんで決定なの? まあ良いけどよ……。いや良いのか? とりあえずよろしく」
ニコニコ笑顔のマルスとは反対に難しい顔で首を捻るタケやん。
すまん。俺はタケやんの名前思い出せない組なんだ。
そのまま駄弁る。
今日の夕食は教員の方々が用意してくれるらしいので、今はコテージの住人で仲を深めろというのがここの方針らしい。
その代わり、明日からは自分で朝食から用意しなくちゃならない。寮のキッチンは誰でも使えるそうだ。
もしくは有料で食堂という手もある。
俺は大学から1人暮らしだったので料理はそれなりに出来るが、正直有料で出るここの料理の方が興味がある。しばらくは食堂にお世話になる予定だ。
「ちなみに2人ともLVはどこまで上がったんだ? 俺ホルダーLV2になったぜ」
「え!? もうLV2なの!? タケやんはすごいなぁ。僕まだLV1になったばかりだよ」
「マルスもタケやん呼びかい! まあ良いけど、俺の装備カードはなかなか強くてな。3連戦、4連戦も余裕だったぜ」
そう自慢するタケやんに驚くマルス。ホルダーLV1と言えば2体のモンスターが倒せれば届くレベルだが、ゼスが1戦であんなダメージを受けたことからも分かるように、最初1対1で戦わせると苦戦し、連戦出来ないことが多いのだ。
だからマルスがLV1というのも別に低くはない。むしろなかなかのレベルだろう。
何しろ今日が終わった時点でLV0という子は割と多いからだ。
それに比べLV2のタケやんはやはり強い。その強みはなんと言っても竹槍だ。
タケやんはホルダーが竹槍を装備しているためレベルアップが早く、初期は結構強キャラだった。
まあ、その後はなぜか竹製の武器に
おっとタケやんが少しドヤ顔気味にこっちを向いたな。
悪いがその伸びた鼻、ちょっとへし折ってしまうぜ。
「俺はLV4だ」
「…………ん? ――悪い、今なんて?」
よく聞こえなかったらしい。仕方ないな、俺は少し声を張って、ちょっとドヤりながらもう一度言う。
「俺のホルダーLVは――4だ!!」
「な、なんだってーー!?」
「え? え? もうLV4なの!?」
ふっふっふ、形勢は逆転した。
さっきまでドヤ顔だったタケやんは今はもう若干の放心状態だった。
許せタケやん。マルスの尊敬の眼差しは俺が貰っていく。
「ヒイロはどうやってそんな強くなったの!? あ、やっぱりあの時の〈エース〉の子がかなり強力だったとか?」
マルスが興味津々で聞いてくる。
そういえば〈カァニャ〉ってここでも新キャラ扱いなんだっけ?
あの時は騒がれまくっていたからな、それについても気になる様子だ。
俺は若干先輩風を吹かしながらちょっとしたアドバイスを送る。
「まあ〈カァニャ〉も強かったんだが、基本的に最初はモンスとホルダー、一緒に戦った方が連戦出来るぜ? タケやんもそうだが、やっぱり武器を持ったり、複数で戦えるというのはデカい」
「ええ!? ヒイロも戦うんだ。危なくないかな?」
これもちょっとした縁ということでアドバイスすると、そのショタ顔を小動物のようにしながら見上げてくるマルス。うむ、〈プレモン〉のお姉さんユーザーたちが悶えるのも分かる破壊力だ。俺は男なので効かないが。
「まずダメージを食らわないことが大事だな。ダメージを受ければ回復しないととてもじゃないがレベル上げはできないが、ならダメージを食らわないよう注意すればいい。その最も有効な手段が多対1だ。要は2体で素早く倒しちまえばその分受けるダメージが減るだろう?」
「そ、そんな力業でいいの??」
とりあえず2体で襲えば勝てると説明すると目を白黒させたマルスが目をパチクリさせた。そこへタケやんも加わる。
「後はリーチを活かして離れて突く、とかだな。俺は距離を取って竹で突く戦法で安全第一に倒したぜ」
「タケやんなのに割りとまともな戦法で驚いた!」
「どういう意味だし!?」
いやだってタケやんだし。竹しか使わないタケやんだし。タケやん、ユーザーから何度も「タケやん、竹じゃなければ強いのに」「なぜ竹を使う。横にミスリルの槍があるぞ?」「いや、タケやんが竹使わなくなったらただのやんだから」「むしろ竹が本体なんだよ」と散々言われてきたのだ。
そりゃあ、そんなまともなことを言われては驚くというものだ。武器もまともなもの使おうぜ?
え? なら直接竹をやめさせるよう言えばって?
そこはタケやんだしなぁ。さすがにキャラのアイデンティティに関することは言いにくい。むしろ竹使いのまま強くなっていくタケやんが見たいまであるのでこのままで。
「うーん、でもそうか。モンスと一緒に戦うのか。でも、やっぱりちょっと怖いなぁ」
まあ、もし【バリア】が無くなってホルダーに
どうやらマルスの考え方がここでは普通のようだ。タケやんが異常なだけだ。
俺とタケやんがそれぞれアドバイスを送りながら実演してみたりして立ち回りも教えていく。
途中までビビっていたマルスも次第に「僕、頑張るよー」と目を輝かせながら気合いを入れていた。
なるほど、これが少年を育てる感覚か。さすが子犬キャラ。
マルスが女性ユーザーになぜ人気だったのか、ちょっとだけ分かったような気がした。
あとタケやんがいつの間にかマルスの横で聞く側になっているんだがどういうわけだ?
「ヒイロっていろんなことを知ってるんだね」
「情報はなにより大切だからな。あとその日何があったかとか、どういう対処法が役に立ったとか、メモして纏めておいたりするのもいいぞ」
「な、なるほどなぁ。な、なあヒイロ、こういうことまた聞いてもいいか?」
「おう。じゃあ夜はその日あったことの情報交換をするっていうのはどうだ?」
「あ、それ凄くいいかも! 僕も参加していい?」
「もちろんだ。みんなで強くなろうな」
そうやって話しているともういい時間になっていた。
さて、夕食、風呂、その他が済めば消灯だ。
こうして〈プレモン〉の世界に来て1日目は過ぎていったのだった。
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