第9話 初戦闘! ゼス様の熱き激戦とヒイロの一閃。




「よしっ! こんなもんか? 確かに、凄まじく戦闘力が上がってるなぁ」


「そうなのかにゃ?」


「ああ。やっぱりホルダーっていうのは本人の戦闘力も高めてくれるらしい」


 俺は今人気の無い場所で木刀を振っていた。

 中学の体育で習った剣道を思い出しつつ、上段から振り下ろす基本の面を何回かしていると、中学の時とは比べものにならないほど体が良く動くことにすぐ気が付く。最近はもうどんどん体が動きにくくなってきたと感じていたのに。子どもの体ってすげぇ。


 また力は子どもの時どころか大人時代の自分すら大きく超えている。

 見た目両手で持たなくちゃ無理だろうというサイズの石でさえ片手で持てるからな。

 それに、目も良くなっているっぽい。何これ? 視力2.0どころか3.0を超えてそうなくらいハッキリ明るく見える。視力が上がると世界は明るく見えると聞いたことがあったが、マジっぽいぞ。

 これがホルダーの補正か。


 基本的に〈プレモン〉はモンスター同士が戦うゲームなのだが、10年くらい前にアクションRPGでモンスターを相手にホルダーが戦うというコンセプトで発売された、番外編みたいな〈プレモン〉があった。これがかなりのヒットを決め、通常の〈プレモン〉にもその機能が若干引き継がれてホルダーも戦えるシステムになったんだ。


 だが、〈プレモン〉がモンスターの進化をコンセプトにしているところは変わらないので、アイテムなんかで戦闘力を高めても終盤のモンスターには勝てないんだけどな。

 これは集団戦闘系のゲームなので、主人公1人じゃモンスターに勝てるわけがなかった。しっかりモンスを使いましょう。まあ、それは置いといて。


 体の動きをチェックしたところ、ステータスで【4】、〈カヤの木刀G〉で【8】、計【12】という数字は人外とは言わないまでも、かなりの強さに格上げしてしまうということが分かった。

 さすが、この辺りの超低レベルモンスター相手だとホルダー1人でも勝ててしまう数値なだけある。

 主人公が初期に持っているお金を8割つぎ込んで買っただけはあるぜ。

 ちなみにこの〈プレモン〉のお金の単位はミールという。


「ふ~ん、我にしてみれば強化されても弱っちにしか見えないにゃ」


「そのゼスの方が今は弱いんだけどな」


 何しろゼスは〈ゼロ進〉に加えてLV0だ。

 今の状態だと俺の方がダメージ出るぞ。

 まあすぐに抜かされるだろうけどな。だが今は俺の方が強いのだ。ははは!

 多分ゼスは〈神猫様〉時代の感覚で言っているのだろうが、その感覚で言えばほとんどのモンスターは弱っちになってしまうぞ?


「行くのかにゃ?」


「おう。準備は完了だ。まずは、モンスターの出現エリアへ向かう」


 俺たちが今まで居たところはキャンプ場の端、まだセーフティーエリアだった。

 結界を使用しているらしく野生のモンスターは出入り出来ないらしい。


 これから向かうのは結界の外。野生のモンスターが登場するフィールド。

 その名も〈始原の森・浅層せんそう第1エリア〉だ。

 エリアの境目に立つ教員の1人に挨拶すると、いざ出発。


 森は多少横幅のある踏み固めた道のようなもので出来ており、結構複雑に入り組んでいる。

 森からモンスターが迷い込んでくるのでそれと戦い、撃破するのが目的だ。

 肩にゼスを乗せて歩くと、いきなり分岐点。ここは左だ。


 少し歩くとさらに3方向への分岐点。ゲームではこの内2箇所の方向で学生が戦闘をしているので、誰も進んでいない残りの道へと向かう。すると少しして緑色のモンスターが飛び出してきた。


「お、発見。植物型〈ゼロ進〉モンスター〈シゲムギ〉だ!」


 全身がイネ科のような草。ホームセンターで売っている1平米芝生をボーボーに生やした姿をしているのが〈シゲムギ〉だ。

 ちゃんとクリッとした目を持っているのがワンポイント。芝生の下には足のような根っこが生えている。


「我の出番だにゃ」


「あ」


 すると肩に乗っていたゼスが飛び降りて対峙する。


「ふ、すまんにゃ。だが、我が〈神猫様〉に戻るための糧になってもらうにゃ!」


「ああ~」


 俺が何か言う前に突撃。ぴょんぴょんと跳ねながら進み、体当たり。


「ピコッ!」


 おっと避けも防御もしなかった〈シゲムギ〉にダメージ。HPが2割強削れた。

 うむ。弱い。最初はこんなもんだ。


「ピコピコ!」


 おっと今度は〈シゲムギ〉の攻撃! ゼスと同じ方法で跳びながら進んで、アタック!


「ふっ、そんな攻撃、当たらない――にゃに?」


 そこへ〈シゲムギ〉の茂みから束ねられたイネのようなものが上へ飛び出し、振り下ろされた。これは〈シゲムギ〉のスキル。『イネ叩き』だ。


「おぶほ!?」


 ああーっとこれが直撃したー。余裕の回避を見せていたゼスだったがここで予想外の攻撃を受けたー。ダメージ3割! スキルの直撃で中々のダメージが入ったぞー!


「やったにゃー!? これでも食らうにゃ――『ニャー』!」


「ピコ!?」


 おおと防御力デバフが入ったー! ここからはゼスの方がダメージが出るぞー。


「今だにゃー!」


「ピコー!」


 飛び掛かるゼスと「やったるわー」と反撃する〈シゲムギ〉の対決が幕を開けた。


 ええーここからはなかなかの白熱した試合になりました、お互い引かないぶつかり合いで手に汗握る様子でしたが、都合により割愛させていただきます。(泥仕合)


「ぜぇ、ぜぇ、勝ったにゃ。どうだにゃ」


「…………」


 そこには残りのHPが2割しか残っていないゼスがいた。

 なかなかの強敵だった模様だ。


 なんだかその戦いがとてもほっこりする光景だったのは内緒にしておこう。


 ドロップカードは〈米〉だった。なんと1キロである。

 ほう、料理素材だな。加工すればごはんが作れるぞ。


 俺は優しい笑顔でゼスをいたわった。


「お疲れ様ゼス。見事な戦いだった。良く勝ったな」


「ふ、我はいずれ〈神猫様〉になる猫にゃ。これくらい余裕にゃ」


 余裕と答えるゼスのHPが2割しか残っていない件。

 うん。これが単体での運用が難しい点だ。

 最初ってモンスがLV0からスタートなので、単体で戦うとどうしてもダメージを受けすぎてしまうのだ。これでは連戦ができない。というか下手すりゃ負ける。

 まあホルダーがしっかり指示を出して回避させたりすれば受けるダメージは少なく出来るんだけどな。


 とはいえそれは昔の話で、今は主人公も戦える時代。

 本来なら2対1で戦闘することが出来るので初期でも楽に勝てる。

 ゲームはどんどん進化しているのだ。

 まあ、今回はちょっとリアルの戦闘というものを見させてもらうために俺は敢えて参加しなかったんだけどさ。なんかゼス頑張ってたし、邪魔しちゃ悪いかなと思って。うん。ゼス頑張ってたよ。


 そうゼスを褒めていたら、近くの草むらがガサガサ揺れた。


「あ、〈シゲムギ〉」


「―――!!」


 おっとここで2体目のシゲムギ登場です。

 するとゼスは凍り付いたように動きを止めたー!

 きっとあの強敵との戦いを再びやるのかと戦慄しているのだろう。


「大丈夫だゼス。俺が戦闘ってものを見せてやる」


「にゃに?」


「モンスター召喚――〈ミズタマ〉!」


 ここで俺が呼び出したのは召喚モンス、先ほどクレア先生にいただいた〈ミズタマ〉のカードだ。


――――――――

名 前:未登録

種族名:ミズタマ

 LV:1

進化数:ゼロ進

契約者:未登録→ヒイロnew


【HP:24/24】

【MP:12/12】

【攻魔力 2】

【防魔力 4】

【素早さ 1】

【器用さ 3】

【バリア 2】

【SP 0】


〈スキル〉

『水鉄砲』

――――――――


 これが〈ミズタマ〉のステータスだ。防御とサポートの数値がやや高く、素早さが遅い。

 そして『水鉄砲』は攻撃スキルだ。つまりこの〈ミズタマ〉1枚で攻撃、防御、サポートをこなせる中々のモンスターなのだ。まだサポート系のスキルは覚えていないものの、もう進化先には期待しかない。


 ちなみにLV1でゼスよりレベルが高いのに〈ミズタマ〉の方がちょっと数値が弱いのは、ゼスが〈エース〉だからだ。

〈エース〉とは最初に契約したモンスターのこと。〈エース〉は通常のモンスターよりもステータスに補正が掛かって強くなるのである。

 なので本来〈ゼロ進〉のLV1だとこのくらいのステータスが普通だな。


「ウキュー!」


〈ミズタマ〉が良い声を出してぴょんぴょん跳ねる。

 元気があってよろしい! そして可愛い!

 ちょっと抱っこしてみる。女の子モンスターだ。

 二頭身で全身がぷるぷるの水ボディ。触ってみるとちょっとひんやり、でも低反発で弾力があり、肌っぽい頑丈さがある。おお~、こんな感触だったのか~!

〈プレモン〉のモンスターを触って抱っこしてみたいという夢が叶った瞬間だった。


 しかし、その光景にさらに戦慄する者もいて。


「まさかそなた。我を捨てるのかにゃ!?」


「捨てないよ。というか2体召喚できるって知ってるだろ? 〈プレモン〉では普通に複数体モンスターを召喚して一緒に戦わせるものなんだ」


「なに? ぷれもん、というのはわからんが、つまり我とこの者と一緒に戦うということにゃ?」


「そういうことだな。弱い内は徒党を組むとか聞いたことないか?」


「た、確かに聞いたことがあるにゃ」


 まあ、強くなった方が仲間は増えるんだけどな! それは置いておく。


「つまりはそう言うことだ。今から見本を見せてやるぜ。〈ミズタマ〉――あれに『水鉄砲』発射!」


「ウキュー!」


「ピコー!?」


 それまでノンアクティブの〈シゲムギ〉だったが突然の攻撃にぷんぷんして〈ミズタマ〉の方へ向く。ダメージは1割。さすがは攻撃力【2】だ。スキル攻撃だったのにあまり強くない。

 しかし、気が引ければ十分。

 そこへ俺が木刀を両手に持ち、ダンと踏み込んで振りきった。


「ピッコッ!?」


 ズバンと一閃。そして返す刀のもう一閃。


「ピ、ピコ――」

 

 すると〈シゲムギ〉の体が光り、次の瞬間にはパンとエフェクトが弾けて消えていった。HPがゼロになったのだ。


「に、二撃、にゃと!?」


 ゼスはさらに戦慄していた。



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