第5話 チュートリアルで〈ミズタマ〉ゲット!




 残った人をざっと見渡す。

 エメリアは当然のように居るな。

 あと〈森のポポ〉を得ていた女子と〈コボルド〉の男子も居るようだ。


「ではまず戦闘から見せよう。モンスター召喚!」


「「「おおー」」」


 クレア先生がそう言ってカードを翳すと。モンスターが現れた。

〈3進化〉モンスター――〈スイスイウパ〉という体に水の鎧のようなものを着たウーパールーパー型のモンスターだ。ちなみに二足で立っている。

〈3進化〉というなかなか見られないモンスを見て候補生たちから感嘆の声が上がった。


「ウーパー!」


「やるぜぇ、俺はやるぜぇ」みたいな気合いを感じるポーズで現れる〈スイスイウパ〉を見てクレア先生が頷く。


「君たちはこの森でモンスの育成、そしてホルダーとしての資質を磨いてもらう。その基本となるのがモンスの召喚、そして野生のモンスターの撃破だ」


 RPGの基本、レベル上げですねわかります。

 やっべ早くレベル上げやりたくなってきた。でも、まだ我慢だ。

 俺は内心「うおおお早くやりてぇぇぇぇ!」と叫びながらクレア先生の話を真面目に聞く。


「重要だからよく聞くように。モンスターは召喚しているとHPバリアがホルダーに形成される。HPバリアは他のモンスターのダイレクトアタックからホルダーの身を守ってくれるから怪我をする心配がない。逆にモンスを召喚していないとHPバリアは発生しないため、野生のモンスターがいるフィールドやダンジョンでは常にモンスを召喚しておくことを基本とすること」


 クレア先生の言うとおり、モンスを召喚して冒険へ出歩けられるというのは〈プレモン〉の人気コンテンツの1つだった。

 数多くいる〈プレモン〉の何を召喚して行動するのか、見た目で選ぶ者もいるし能力で選ぶ者もいた。ちなみに俺は見た目優先だが、強さも兼ね備えた両方持ちを好んでいた。


「ちなみにHPバリアの強さはモンスターカードのステータス、【バリア】の数値に比例する。数値が高いカードを召喚することで自身を守ることにもなるため、カードの選別の参考にするように」


〈カァニャ〉のステータスの下の方に書かれていた「バリア【2】」がこのHPバリアの強さに相当する。これが低いと防御力も弱くなりダイレクトアタックでバリアが砕けてゲームオーバーになるのでかなり重要な部分だ。

 たった【2】では〈1進化〉のモンスターから一撃食らえば1キルされるだろう。かなり危ない。さっさとレベルを上げて数値を上げないとな。

 まあ、ここ〈始原の森〉の浅いところでは〈ゼロ進〉しか出てこないので数撃受けても大丈夫だ。


 ちなみに、今は1体しか召喚出来ないが、複数召喚出来ればその召喚モンスター全ての【バリア】数値が加算されるためグッとやられる可能性が少なくなる。

 ここも重要なポイントだな。


「【バリア】はなによりも重要だ。人命を守るために疎かにしないようにな。ここまでで質問がなければ戦闘に移る。――お、ちょうど良いモンスターが現れたぞ。見ているが良い。野生のモンスターとの戦い方を見せよう」


 さすがチュートリアル。敵性モンスターが飛び出してくるタイミングが完璧すぎるぜ。

 相手は〈ゼロ進〉、〈ミズタマ〉という全身水で出来たモンスターだ。上半身が人型で下半身が霊型。指でつつけばぷるんとしそうな魅惑の体、頭には大きな水滴の形がくっついてぷよぷよ揺れ、体もぷよぷよしていた。

 おお~! 〈ミズタマ〉初見!! か、可愛い!


 なにより目を引くのがその性別――なんと女の子である。

 上半身がほぼ人型なのでほとんど幼女だ。大きさは40センチ弱。

 これが〈プレモン〉のモンスターだ。ヤベぇだろ? うーん、素晴らしい!

〈プレモン〉モンスターの中でもとても人気のキャラクターなだけあり、その体は完全にマスコットボディだ。


 凄い。欲しい!


「ウキュー!」


 おおっと先制は〈ミズタマ〉だー! チュートリアルではなかなか見ない展開!

 口から水を噴射する攻撃。文字通り『水鉄砲』スキルで〈スイスイウパ〉を狙うが。


「『ウーパーウェイブ』!」


「ウーパー!」


 水鉄砲の直撃を受けたはずの〈スイスイウパ〉だったが、それに毛ほども構わず、「これが本当の水攻撃だ」と言わんばかりの水の局所的津波を生み出して〈ミズタマ〉にアタックした。


「ウキューーー!?」


 そのまま〈ミズタマ〉が水の奔流に巻き込まれHPがゼロになり、エフェクトを発生させて消えていったのだった。。

 おう。相変わらずのオーバーキル! まったく参考にならねぇ!!

 つまりはとりあえず攻撃してモンスターを倒せということだな。


 そしてその後には〈ミズタマ〉の〈モンスターカード〉が残っていた。


「よくやったダイオー」


「ウーパー!」


 あ、あの〈スイスイウパ〉はダイオー君と言うらしい。大王かな?


「ほう、珍しく〈モンスターカード〉が落ちたな。――みんな見てほしい。今のように野生のモンスターとの戦闘に打ち勝つと非常に低い確率だがこのように倒したモンスターがカードになってドロップすることがある。自分で使っても良し、売っても良しだ。たくさん集めると良い――」


「「「おおー!」」」


「すごい!」


 そう〈モンスターカード〉はドロップで集めなくてはいけない。

 確率はそんな高くないため、どうしても欲しければアイテムなどを使い確率を上げることをオススメする。

 ちなみにこのチュートリアルでは確定ドロップだ。

「きっとクレア先生が何か確定アイテムを使ったに違いない」とネットでは囁かれていたっけ。


「――以上だ。他に聞きたいことがある者は聞きに来い。では、一時解散」


「「「ありがとうございました!」」」


 チュートリアル終了。

 クレア先生の言葉に早速モンスと一緒に出かける学生たち。

 学生は行ってもいい場所フィールドが決まっているが、そのエリア内ならば先生が警戒しているため自由に動くことが可能だ。きっと彼ら彼女たちはそこへ向かったのだろう。

 俺は人が捌けるのを待ち、結局だれからも質問されなかったクレア先生に話しかけた。


「クレア先生」


「ん? どうしたヒイロ候補生。何か質問か?」


「その〈ミズタマ〉なのですが」


「ん? ああこれか。〈ミズタマ〉のLV1、モンスターカードとはいえこれはあまり高く買い取っては貰えないんだよなぁ」


 カードを見てポリポリと頬をかく先生。うん、ゲーム通りのセリフだ。


「そうですか、ならその〈ミズタマ〉、使わせていただいてもよろしいでしょうか?」


「なに? ヒイロ候補生が使うのか? しかし〈ミズタマ〉は弱いぞ? それにまだ召喚枠は1枠しかないだろう?」


 モンスターを召喚するためには【召喚枠】というものがある。

 最初は1枠しか無く、召喚できるモンスターカードは1枚まで。

 しかしホルダーのLVを上げるか、アイテムを使うことでこの【召喚枠】を増やすことが出来る。俺の場合ホルダーLV0なので当然ながらモンスターカードは1体までしか召喚出来ない。


 あと先生は気になることを言っていたな。〈ミズタマ〉が弱いとか。

 え? そんなことないよな? むしろ最強格に進化するんだが。

 ちょっと思考がそれかけたがここで話を変えるわけにはいかない。

 俺は先生の疑問に頷いて答えた。


「はい。ですがモンスターが何かの不運でやられてしまったときのために持っておきたいのです」


「ふむ」


 召喚モンスターにはHPがあり、これがゼロになれば当り前だが戦闘不能になる。

 するとカードに戻ってしまい、復活させてあげなければ永久に召喚はできない。

 そしてさきほどクレア先生が話していたホルダーを守ってくれるバリアも消えてしまい大変危険だ。

 しかし2枚以上モンスターカードを持っていれば、弱ったカードを交換することでゲームオーバーは回避出来るのである。


 ただ、契約できる数には限りがあるんだけどな。

 それを上回るカードは召喚出来ない。


「タダというわけにはいかんが、構わないぞ」


「ありがとうございます! 何をすればいいですか?」


「後でクエストを発行する。それを受注しクリアすること。それを約束するなら渡してもいい」


「了解です! でもクエストの報酬じゃなくていいんですか?」


「かまわないさ。何しろ本来こちらが用意していたクエストの予定に無かったものだからね。権限は私にある。そしてこういうのは早い者勝ちさ」


「ありがとうございます!」


 話は着いた。

 そう、チュートリアルを聞いた上で教員に話しかけると、この〈ミズタマ〉を確定で貰えてしまうのだ。

 確かに〈ミズタマ〉は〈プレモン〉の初期も初期、最弱モンスターの1体と言われている。

〈プレモン〉では、こういう弱いモンスターに限って強い進化を遂げるんだよなぁ。



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