第4話 パートナーは新コンテンツ登場――〈カァニャ〉!




「ヒイロ候補生、すまんが召喚をしてもらえるか?」


「はい!」


 おっとそうだった。ここで召喚しないと契約が出来ない。


「モンスター召喚――〈カァニャ〉」


 カードを向けて宣言するとホルダーの紋章とカードが光り出し、一瞬のうちに目の前にはカードに画かれていた〈カァニャ〉が実体化していた。


「――にゃぁ?」


「おお!」


 動いた! こいつ、動くぞ!

 ぬいぐるみでも映像でもない、リアリティ! 現実!

 やべぇ、なんか感動する!

〈カァニャ〉が周囲をキョロキョロ見渡し、続いて俺に視線を合わせてきた。


〈カァニャ〉は〈ゼロ進〉モンスター。

〈ゼロ進〉というのは未進化の意味だ。進化が売りの〈プレモン〉でも最初の位置、全てはここから始まるという最弱モンスター。それが〈ゼロ進〉。


 そして目の前の〈カァニャ〉の見た目は、さすがは〈ゼロ進〉ということもあって見た目はむちゃくちゃ弱そう。丸い胴体に大きなネコミミと猫尻尾がついていて、ちょっともふもふしている毛玉の姿だった。足は、毛に覆われすぎて見えにくいがしっかりある。もふもふの中に。

 体はグレー、大きな赤い瞳、おでこには特徴的なダイヤ型の模様がある。

 全体的にデフォルメ化されていてとても可愛い姿だった。


 これが俺の、リアル〈プレモン〉のパートナー!


「ホルダーのヒイロだ。よろしくな」


「にゃあ」


 そう言って俺が手を差し伸べるとそれに答えてくれるように手に尻尾を差し出してくれる〈カァニャ〉。

 握ってみると、これ、凄くもふもふしてる!

 驚愕の感触に感動していると、なんとなく〈カァニャ〉と繋がりのようなものを感じた。

 おそらく、召喚し触れ合ったことでパスが生まれたのだろう。

 右手の甲を見れば、そこにあるホルダーの紋章が明るくなっていた。


 契約が成った証である。


「わぁ! かわいい~!!」


「猫系モンスターだよ!」


「おお!?」


 気が付けばなんか女子が集まって来ていた。

〈カァニャ〉は猫系モンスター。猫はやはり人気ということなのだろう。

 この可愛さであれば仕方ない。


 ここからふれあいタイムが始まるかと思いきや、クレア先生が手を叩いてそれを遮った。


「こらこら、まだ授業は続いてるぞ。次はモンスターのステータスを見るんだ。カードと契約したことでホルダーとしての能力が開花しているはずだ。自分の紋章に意識を集中し、モンスターのステータスが見たいと念じて見ろ」


「おっとそうだった。〈カァニャ〉、今からステータスを見させてもらうからな」


「にゃぁ」


〈カァニャ〉が「仕方ないにゃ。でも他言は無用に願うにゃ」とでも言うリアクションと表情で許可してくれる。

 意外に感情表現が豊だな!?


 えっとどれどれ?

〈カァニャ〉のステータスを見たいと念じると右手の甲、ホルダーの紋章からそれは現れた。

 それは半透明のホログラムのようなウィンドウだった。


――――――――

名 前:???

種族名:カァニャ

 LV:0

進化数:ゼロ進

契約者:ヒイロ


【HP 20/20】

【MP 15/15】

【攻魔力 4】

【防魔力 2】

【素早さ 2】

【器用さ 4】

【バリア 2】

【SP 0】


〈スキル〉

『招き運』『ニャー』

――――――――


 ウィンドウに〈カァニャ〉のステータスが羅列される。

 上から順番に説明するな。


 まず【名前】だが、これはまだつけていないので【未登録】となってい……あれ?

 なんだこれ【???】になってる? リアル特有の表記かな?

 まあ、いいか。とりあえず名前は後で決めよう。モンスの名前はホルダーが名付ける。名前を付けてあげると〈仲良し度〉というステータスに記載されていないパラメーターが上がる。良い名前を付けてあげないとな。


【種族名】は〈カァニャ〉。次に【LV】だが、これはRPGに良く出てくるあれだ。戦闘などで経験値を得ればLVが上がり、ステータス値がアップしていく。規定値に到達すれば進化も出来るぞ。


 続いて【進化数】。

 進化数は〈プレシャスモンスター〉のキモであり売りだ。

 最初の形態を〈ゼロ進〉状態と言い、1度進化すると〈1進化〉、次を〈2進化〉と呼称して最大〈16進化〉まで進化が存在する。

 進化させていけば姿形はもちろん、強さも上がり、スキルもパワーアップしていく。

〈16進化〉まではかなり長い道のりだ。しかし、その果ては最高のモンスターが待っている。これほどやり込み度が高いゲームはそうそうないと言っていいだろう。


 次に【契約者】。

 うん。ちゃんと俺になってるな。

 この契約者というのが結構重要なんだ。

 ホルダーと契約しているモンスターのことをモンスなんて言って表現するが、ホルダーが召喚できるのは自分と契約しているモンスだけなんだ。他の人と契約しているモンスは召喚することは出来ない。ここ、重要なところな。


 そして続いては――能力値だ。


【HP 20/20】

【MP 15/15】

【攻魔力 4】

【防魔力 2】

【素早さ 2】

【器用さ 4】

【バリア 2】

【SP 0】


 HP=ヒットポイント。0になったらレストカードになり、復活させるまで召喚は出来ない。

 MP=マジックポイント。スキルを発動するときなどに使用する。

 攻魔力=物理攻撃力、魔法攻撃力に関係する。

 防魔力=物理防御力、魔法防御力に関係する。

 素早さ=瞬間的速度・移動速度に関係する。

 器用さ=サポート系・バフ・デバフ・回復・索敵・生産etcに関係する。

 バリア=ホルダーを防御するHPバリアの強さに関係する。


 こんな感じだな。

 最後にSPだが、これはLVが上がると貯まり、好きにステータスへ振ることが出来る。

 ステータスは基本的にLVが上がると自動で振られるのだが、LV1上がるとSP1ポイント貯まり、そのポイントだけは自由に振ることが出来るんだ。


 1ポイントというと低い気もする。

 しかし〈プレモン〉は、進化する度にLVがリセットされ、SPは引き継がれる仕様だった。と言えばその価値がどれほどのものかお分かりいただけるだろう。

 自分で伸ばしたいステータスを延ばすことが出来るのもこのゲームの大きな魅力だったのだ。


 最後に【スキル】。

〈カァニャ〉の初期スキルは2つ。『招き運』と『ニャー』だ。

 いや最初のはともかく『ニャー』って。全力で可愛さを確保しに来るなぁ。

 ちなみに『ニャー』の効果は物理防御力を下げるデバフだ。「なかなか良いスキルだな!?」と初めて見たときは驚愕したのを覚えている。


 そして『招き運』だが、こちらは俺が知らない新コンテンツで導入されたスキルのようで俺はその存在を知らなかった。初めて見る。

 名前からすると運が良くなる類いのようだが、デバフが入りやすくなる効果でもあるのかな? 


 また、このスキルというのはステータスの数値が規定値に達したときや進化したときなんかに覚えたり、スキルが進化したりする。

 例えば〈カァニャ〉の【攻魔力】は4だが、これが10になった時『ドンテイル』という尻尾攻撃を覚える。

 LVの数値でスキルを覚えるのではなく、あくまでステータスの数値が規定値に届いたときに覚えるのがミソだ。


 SPをどこに何ポイント振るのか、その采配が試されるな。


 確かここに来る前に攻略サイトで予習した限りでは、〈カァニャ〉はデバフ系の物理アタッカーだったはずだ。〈プレシャスモンスター16進化〉の追加コンテンツ、そのメイン系統を張っていたモンスターだったため進化する方向性は非常に多く枝分かれし、とても強いモンスターというのが売りだった。

「この強さと可愛さを体験してみたかったら追加コンテンツを買ってね」そんな印象がヒシヒシ伝わってきたのを覚えている。


 まあ端的に言えばだ。〈カァニャ〉を引いたのは大当たりだったという話だな!

 予習はしっかりしたからな。どの方向に進化させるかもすでにあの時思いつき、しっかり覚えている。まあ、時間的には1時間も経っていないからな、後で忘れないうちにどこかにメモっておこう。


 しっかりステータスを確認して辺りを見渡すと、学生はそれぞれステータスと睨めっこしたり相棒とコミュニケーションを取っていたりした。

 俺も、〈カァニャ〉とコミュニケーションを取ってみることにする。


「なかなか強いじゃんか〈カァニャ〉。これからよろしくな。後でちゃんと名前つけるからな」


 そう言って抱き上げる。体の大きさは、尻尾を入れないと30センチも無いのでかなり小さいのだ。肩に乗せてみる。落ちない? 大丈夫そうだ。


「にゃぁ」


 おお~、なんか壮絶に癒されている感覚がする! この首に当たる毛並みが凄く気持ちいい。あ、尻尾が首に巻き付いてもふる! もふがもふもふだ!


 そんなことを堪能していると、再びクレア先生からお声が掛かった。


「よし、各自ステータスを見ることが出来たな? 次は戦闘、ドロップ、カードの使い方を説明する。その後は各自実際にしてもらうつもりだ。しかし、すでに知っている者も居るだろう。故にこれは希望者のみとする。希望しない者は自分なりにモンスの育成から始めるように」


 あ、これはチュートリアルだな。

 歴代の〈プレモン〉を知っているなら飛ばしても良いアレだ。

 これにより半分くらいの学生が来た道を戻って行った。


 俺? 俺は残る。せっかくのリアル〈プレモン〉だぜ?

 さすがにリアルで〈プレモン〉をするのが初めて、というのもあるが今は多くのことを吸収したい、見てみたいというワクワク感の方が強かった。


 それに、このチュートリアルを受けると、ある利点があるのだ。




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