第3話 〈始原の泉〉自分だけの最初のモンスターを引け!




「ではこれより、契約の儀式を始める。呼ばれた者から前に出るように。まず、候補生番号1番――マルス!」


「は、はい!」


 最初に呼ばれたのは13歳の男子だった。泉の前に出て、両手を重ねてお祈りする。

 そうだった、最初はお祈りするんだよな。説明とか無いんだ。それほどこの世界ではこのお祈りは常識ということなのだろう。俺が最初に呼ばれなくて良かった。


 男子君が祈ると水面がカッと光り出し、水の中から1枚のカードが飛び出した。それは風に揺れるようにして男子君の前まで落ちてくる。


「こ、これが僕のカード」


「お、〈コボルド〉か。攻撃力に優れるモンスターだ。幸先良いなぁ」


「「「おお!」」」


 クレア先生がそのカードを見て言うと、先ほどまでよりも大きな声が辺りに響いた。

 びっくりしたぁ。

 え、なにごと? 〈コボルド〉でなんで騒いでんだ?


「次、候補生番号2番――ミオリ!」


「はい!」


 今度はツインテールの女の子だ。同じように祈りを捧げ、1枚のカードが泉から飛び出て彼女の前に現れる。

 瞬間女の子がピシリと固まった。先生がカードを覗き込む。


「ああ。〈森のポポ〉だね」


「ええ~そ、そんな~」


 ツインテールの活発そうな女子が項垂れる。

 あれぇ? 〈森のポポ〉は植物系モンスターの中でもかなり良い進化を遂げるりょうモンスだ。主に回復系が強くて人気のモンスターだった。

 こんなガッカリするようなカードじゃないぞ?

 なんだかよく分からないリアクション。


 それはともかく、だ。

 こんな感じで泉に祈るとカードを1枚くれるのだ。

 なにが当たるかは祈った内容による。例えば「攻撃力が欲しい」ならアタッカータイプのモンスターからランダムに選ばれるし、「回復が欲しい」と願えば回復が得意なモンスターのカードが送られてくるのだ。〈コボルド〉や〈森のポポ〉みたいにな。ミオリと呼ばれた子が何をお祈りしたのか、ちょっと気になるな。


 ちなみに、ここで貰ったカードだけは契約の場でのみ召喚ができるため、すぐに召喚し、契約を結ぶことが常識。別の場所に行くとカードが消えるほか、契約不履行になってホルダーの紋章が消えるらしい。それってバッドエンドやん!?


「「モンスター召喚!」」


 早速ウキウキの男子君とちょっとテンションの低めな女子が隅に寄って召喚し、契約を果たしていた。

 契約のやり方は単純で、そのカードを使用するだけ。モンスターカードなら召喚すると自動で契約が果たされるのだ。

 ミッション「モンスターを初めて召喚する」――クリア。

 クリア報酬は「ホルダーの能力開放」。

 みたいな感じだ。


 しかし、なるほどあんな感じなんだな。

 男子は〈コボルド〉とすぐ意気投合したのかなんか抱き合っている。むしろ〈コボルド〉に強烈に顔をペロペロ舐められまくってる。ヤベぇな。

 女子の方はメロンサイズのサクランボみたいな姿の〈森のポポ〉が意外と可愛かったのか、複雑だけどまあいいかみたいな表情で抱っこしていた。ちなみに〈コボルド〉の方は全長40センチのデフォルメされた可愛らしい感じの二足歩行の子犬、〈森のポポ〉の方は全長で50センチのサクランボである。なお、50センチ中ヘタが30センチだ。


 こうしてみるとコボルドの方が断然強そうだが、この〈プレシャスモンスター〉では進化が鍵を握る。

 確かに〈コボルド〉の方が攻撃力は高く現段階では強い。だが、進化させていくと途中から使い勝手という意味で完全に〈森のポポ〉の方に軍配が上がるのだ。

 とはいえ〈コボルド〉も弱いというわけではない。進化させればどんなモンスターでも強くなる。


 また、〈プレシャスモンスター〉は見た目にとても拘っていたゲームでもある。

 プレシャスとはつまり可愛いの意味。

 故に、デフォルメ化した可愛い系のモンスターが多いのだ。人相悪そうなオーガなどでもなんか憎めない系の顔をしていたりする。


 なので完全に好みでデッキを組んでも良いわけだ。

 ちなみにデッキと言うのは〈プレモン〉で手持ちカードという意味だ。契約カードで固めた手持ちの使えるカードを纏めたものをデッキという。これは取得物などとは明確に区分されている。


「次、候補生番号19番――エメリア」


「はい!」


 20番である俺を含めて、呼ばれてないのは2人になると、まずエメリアが呼ばれた。


 ちなみにエメリアなど、ゲームの固定キャラ主要人物たちはその召喚モンスも固定だ。

 なぜか、どうやっているのかは分からないが、ランダムのはずのこの泉からなんど「はじめからニューゲーム」にしても絶対同じモンスターをドローする。

 いや、ただのゲームの仕様だな。


「あ」


「エメリアのカードは――む」


「ん?」


 エメリアの下に落ちてきたカードを手にしたとき、エメリアが凄く困った顔をし、クレア先生が初めて声を詰まらせた。

 どうしたんだ?

 エメリアのようなメインキャラに与えられるモンスターはそんじょそこらのモンスターとは格が違うが、それがらみだろうか?


「エメリアのモンスターは。〈ライトフェアリー〉だね」


「「うわぁ~」」


「?」


 クレア先生の言葉に他の候補生たちが同情の声を出す。

 なんだ? さっき〈コボルド〉で盛り上がっていたのに〈ライトフェアリー〉で同情? この差はなんだろう?

 エメリアは眉を下げているし、周りは同情的だ。


「ま、時間は掛かるだろうが何とかなる。他の誰かと組んでも良い。まずはやってみることだ」


「……はい。ありがとうございます。クレア先生」


 そう慰め? のような言葉で励ますクレア先生。

 どういうことだろうな。〈ライトフェアリー〉は火力がむちゃくちゃ高い上に進化していくとマジとんでもないものになるんだが、まるでハズレみたいな扱いだ。


「では最後だ。候補生番号20番――ヒイロ」


「! はい!」


 俺の名前判明。実は俺、この時まで自分の名前が分からなかったのだ。

 もちろん本来の名前はあるが、この世界での名前が分からなかった。予想はしていたけどな。

 そして案の定、俺の名はゲーム〈プレモン〉時代のニックネームだったようだ。

 名前を呼んでくれてマジ助かる。ちなみに由来は、俺の名前が栄光の「栄」に余裕の「裕」で栄裕えいゆうだったため、えいゆう→英雄→ヒーロー→ヒイロという感じで使っていたネームだ。


 親はなんか栄光へ余裕でたどり着け、みたいな意味で名付けたらしいが、そのせいか割と辛抱強く、何をするにも余裕を持って取り組めてしまう体質というか性格になってしまった。名前の発音はアレだが、親にはこんな有能な名前を付けてもらえて結構感謝していたりする。

 閑話休題。


 呼ばれたので前へ出る。


 泉の前でしゃがみ、手を合わせるポーズで祈る。

 さて、何を祈ろうか? いっそゲームの選択肢になかったことでも祈ってみようか?

 ゲームでは選択肢はいくつかあったが、その選択肢の言葉以外選べなかった。

 ふと先ほどゲームを始めた時の〈神猫様〉の姿が脳裏を過ぎる。

 新しく導入された猫系のモンスターだ。仲間にしたことがないから凄く育ててみたいと思う。


 ―――♪――♪――。


 自分の中で、何かが反応した気がした。

 瞬間、泉が光ったかと思うと1枚のカードが飛び上がり、その後スッと俺の方へとやってくる。あれ? まだ祈ってないぞ?


「これは……」


 思わずカードを受け取るとそこに描かれている絵柄に見覚えがあることに気が付いた。

 だが、これはいままでの〈プレモン〉に出てきたカードじゃない。こいつは。


「ん? 〈カァニャ〉? 初めて見るモンスターだな」


 クレア先生がカードを覗き込むようにして言うと、控えていた学生たちが「わぁ」と声を上げた。


「〈始原の森〉の教員が初見のカード!?」


「新種なの!?」


「え、マジ!? 新しいカード!?」


「〈始原の森〉で新種なんて何年ぶりだ!?」


 学生たちがそれを聞いて騒ぎ出す。

 それもそのはずだ。だってこれはマジもんの新種。

 あの新ダウンロードコンテンツで新しく仲間になるはずのモンスター。

 猫系のモンスターの進化初期のキャラ。〈カァニャ〉だったのだから。




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