第2話 〈プレシャスモンスター〉の主人公になってる!?
「おわぁ!? あ、あ――ああ?」
気が付けば森の中にいた。
今の状況を端的に言えばこうなる。
俺は周囲が森という環境の中、尻餅をついて居たのだ。
混乱していて
え、なんで森? だって今まで家に居て、ゲームしようとして、そしたら銀色の渦が画面に現れて――吸い込まれた!?
「え、うそ、ここテレビの中!?」
そんな思春期男子なら一度は妄想したことのあるシチュエーション、テレビの中に入ったってマジ?
信じられない。でもそうとしか考えられない。
「あれ?」
立ち上がろうとして違和感に気が付く。
なんか、体つきが違う?
パパッと体を触って、なんか俺の持っていない服を着ているのにも気が付いた。
あと、気のせいか目線も少し低くなっているような。あと疲れていたはずの体がむっちゃ元気になってる。
髪を触ってみるとハッキリ違いが分かった。感触全然違う!
これってまさか、アレか?
「異世界、転移? しかも憑依系か?」
これはやばいぞ。テレビの中の住人に憑依した可能性が浮上してきた。
これ、絶対俺の体じゃねぇ!
ちなみにちゃんと男だった。性転換してなくてよかったぜ。
そこで思い至る。この体は誰だと。
そして思い至る。俺は直前までなんのゲームをしていたのかと。テレビに映っていたのはなんだったかと。
そこまで考えて、1つの結論にたどり着き、俺は自分が興奮していることを自覚した。
「まさか、ここは〈プレモン〉の中なのか?」
思わずほっぺをギュー。普通に痛かった。
夢じゃない、現実だ。あの〈プレモン〉の世界の中に、俺は来ちゃったかもしれない!?
「あの、大丈夫?」
「え?」
気が付いたら側に女子がいた。
興奮していて気が付かなかったみたいですぐ近くまで寄ってきていてようやく気が付いた。
そしてその顔を見て俺は雷に打たれたような衝撃が体を駆け巡った。
「え、エメリア?」
「あれ? 私名乗ったかな? あ、そうそう、向こうで先生が呼んでるから集まってだって」
「マジか?」
本物のエメリア?
〈プレシャスモンスター16進化〉に出てくる女の子キャラの?
「? どうかした?」
下から覗き込んで右手で目の前をふりふりするエメリア。
思わず目がパチパチ。
ほ、本物っぽい。本物のエメリアが動いてる。目の前に居る。声かけられてる。
ヤバい、ヤバい、どうしよう。なにも考えられん!
タンマ! ちょっとタンマだ! 許容量をオーバーしてる!
ちょっと1回落ち着きたいぞ!?
とりあえず、とりあえず俺はエメリアに話を合わせて頷いた。
「ああ。了解、だ」
「うん。それじゃあね」
了解すると、エメリアはそのまま去って行った。そっちを見れば何人もの子どもや引率の先生らしき人がいて、集合を掛けているところだった。
エメリアはその手伝いをしているっぽい。
「マジ、か~」
思わず天を仰いだ。
俺、このシーン見たことある。というかエメリアを見間違えるはずがない。
ということはここってあそこか? 〈プレモン〉を「
ここ――〈始原の森〉か!!
マジ初期の初期じゃん!
えっ、てことは今からプレイ開始? リアルプレイ? 最初から?
……。
…………。
………………。
「カードオープン」
シーン、反応無し。
「ステータス! メニュー! ライブラリ!」
シーン、反応無し。
何を叫んでも本来のゲームでいつも使っていたカードや画面は出てこない。
ふぅ。これってあれだわ。つまりゲームを始めるところ、モンスターと契約すらしていない本当に「
すぅぅぅぅ(深呼吸)。
俺の4年弱かけて集めた大学生活の結晶たちどこに消えたーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!?
俺の〈16進化〉モンスたちーーーーーー!? カムバァァァックゥッ!?!?
でもリアル〈プレモン〉やべぇぇぇぇぇぇぇ!!
「
ぜぇぜぇ。
心の中で大絶叫したらなんか息切れした。
はあ、マジか。俺のモンスたちよ。大学生活で集めて育てたモンスたちよ。
まさか久しぶりにプレイしたらデータが飛んで「
いや、あのゲーム会社マジでなんてもんを開発したし。
まあ、冗談だ。さすがにまだゲームの中にご招待とか今の科学力じゃ無理だろう。原因は分からんが、とりあえず来てしまったものは仕方ない。
帰り方は――わからん!
周囲、あの銀色の渦確認出来ず。
――切り替えよう。あまり深く考えちゃダメだ。
とりあえずやろう。リアル〈プレシャスモンスター〉を!
後のことは後で考える。もしくは忘れたままにする!
俺はそう脳内完結してちょっとルンルン気分で先生の方へと向かった。
うん。なんか楽しくなってきたんだ。
◇
突然だが〈プレシャスモンスター16進化〉は学園が舞台だ。
しかし「
この〈始原の森〉付近はモンスターも弱く、契約モンスターの育成には持ってこい。だからここにしばらく滞在し、契約モンスターを旅に耐えられる強さまで育成する、という流れになる。
え、森に滞在するの? と思うかもしれないが、キャンプ地があってそこで寝泊まりしながら育成する。
この時の主人公たちはすでに入学テストの試験中だったりするのだ。入学候補生、通称〈候補生〉なんて呼ばれている。
ここでモンスターを育成し入試を優秀な成績で合格すれば晴れて学園の初等部に入学できるのだ。
そう、初等部である。
そして初等部を優秀な成績で卒業すると中等部、中等部を卒業すると高等部へ入学できるシステムとなっている。
環境がガラリと変わる学園進級は新鮮なうえに斬新な発想でユーザーを楽しませた。
学園への入学に年齢は関係無く、ただ1つ、ホルダーとしての紋章が体に表れると門戸が開かれる設定だった。
ホルダーというのはこの〈プレモン〉でモンスターの召喚者の意味。
また、この〈プレシャスモンスター〉の世界は全てカードで出来ている。
モンスターカード、マジックカード、装備カード、アイテムカードなど。
カードの種類は様々あれど、このカードを召喚、実体化出来るのがホルダーだ。
そしてこの世界の人は12歳から18歳までの間に必ずホルダーとしての紋章が手の甲に表れる。
主人公の場合は14歳の時に現れ、それからすぐに学園へ入学する手続きをしてこの〈始原の森〉へ来た。という流れだ。
そしてホルダーの紋章だが、右手の甲に浮かぶ六芒星によく似たこの紋章には見覚えがあった。
これぇ、主人公の紋章だぁ。
つまり俺は主人公に憑依したらしい。
「マジかぁ。いや、ゲーム開始したら主人公を操作するはむしろ普通か? うん、普通だな」
そんなことを考えながら歩いていると集合場所に到着していた。
周りを見渡すとエメリアが駆けてきて先生へと報告していた。
「お待たせしました!」
「いや、助かったぞエメリア。おかげで参加者全員すんなり集められた。ありがとう」
「いえいえ~」
どうやら、例の参加者へ声を掛けて集めるイベントをこなした報告のようだ。
見覚えのある背の高い女性の先生が礼を言うと、エメリアが集まった候補生たちの下へと戻った。
う~ん、あのエメリアが生で喋っている光景、プライスレス。
エメリアはホワイトブロンドの髪をふんわりカーブのボブヘアーにし、水色系の鮮やかな瞳にして、三つ編みカチューシャを黒系のリボンで後ろに止めている。
間違いなく初期のエメリアだ。青系で明るい瞳がグッド。
細身の体でありながら一部がとても豊に育っていて、素直で人懐っこく明るい性格のためゲームではかなりの人気を誇っていたキャラだ。主人公と同じで14歳。
「みんな集まったな。私はクレアチス。君たちの引率担当のリーダーをしている。クレア先生と呼ぶといい。道中の安全は確保できたとの報告が来たためこれから〈契約の場〉へ向かう。いよいよモンスターと契約だ。良いモンスターが来るよう祈っておくといい」
「「「わぁ!」」」
わぁ懐かしい。そうそう、こんな感じだった。
最初は契約モンスターを手に入れるところから始まるんだ。
ホルダーはまだモンスターと契約していない状態だとなんの力も持っておらず非力なただの人なため、教員が5名、護衛も兼任して〈契約の場〉へと向かった。
〈契約の場〉とはホルダーの卵たちがホルダーとなる、最初のモンスターと契約する場所のこと。世界にはこのような場所がいくつも点在し、契約することで本当のホルダーに成ることができるのだ。
ちなみに、この〈契約の場〉を通さずモンスターカードを手に入れてもホルダーとしての力が開放できていない以上召喚も出来ないので、必ずここで契約の儀式をしなければならない。
ホルダーの力を開放しモンスターを手に入れる、大事な儀式だな。
「お、見えてきたぞ」
「「「おお~!」」」
ホルダーの卵たちが感嘆の声を上げる。
そこにあったのは幻想的な大きな泉。森の中なのに水が透き通っていて美しく、水の底まで見えているほどの透明度。ゲーム画面で見るのとリアルで見るのとではかなりインパクトが違うな。すげぇ~。
今の俺は正しく観光気分だった。
それはホルダーの卵たちも一緒のようで、口々にモンスターとの出会いに思いを馳せているのが聞こえてくる。
「いよいよ私だけのモンスターと出会えるのね!」
「俺、絶対攻撃力の強いモンスターがいい!」
「私もだなぁ。でも魔法モンスターも強いって聞くよ?」
「いや、魔法モンスターはダメらしい。最初は物理アタッカー一択なんだって」
「え~、ムキムキより可愛い子がいいなぁ~」
「俺、モンスターと一緒に戦うのが夢だったんだ」
ざわざわ、ざわざわ。
落ち着かない様子で近くの子とおしゃべりするホルダーの卵たち。
俺の隣にいたのは、奇しくもエメリアだった。
ふと目が合う。
するとニコッとエメリアが笑顔で言った。
「お互い、良い子が来てくれるといいね!」
「! だな! 君ならきっと良いモンスターが来るさ」
内心ちょっとびっくりしつつもしっかり受け答えできたと思う。
いや、微妙に危ういこと言っちゃった? エメリアは
そんなことを考えているとクレア先生が振り返りこっちを向く。
「ではこれより、契約の儀式を始める」
そのクレア先生の言葉に、周囲はピタリと静まりかえり、なんだか緊張感のある雰囲気が身を包んでいった。
いよいよ最初のイベントが始まる。
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