地下ドルマスター李牧 ~天才軍師李牧、2016年アイドル戦国時代ど真ん中の地下アイドルに転生する。なお4年以内にアイドル界を天下統一できなかった場合、趙が滅亡する模様~

めで汰

第1章 李牧、転生する

第1話 李牧、地下アイドルをクビになる

「て め ぇ は ク ビ だ !」


(……はて?)


 おかしいですね。

 私は今、我が趙国へと攻め入ってきた秦国の将軍「桓騎」を討ち取った戦果で、趙王よりほまれある「武安君」の称号を授かっていた最中。


 だったはずなのですが……。


 顔をあげると──私の目の前にいるのは、見知らぬ男。

 いえ、見知らぬだけならまだいいんです。

 なんでしょう……? この男の珍妙な格好は。


 長髪なのに髪を結ってもいない。

 かの昌文君かのように縮れた毛先が揃って外に向かって跳ねている。

 しかもこの髪色。

 金色こんじきです。

 上半身も下半身も体に張り付くようなピタピタの衣服。

 優雅さや威厳いげん欠片かけらもありません。

 ざんばら髪で珍妙な服装……。

 察するに野党のような人物なのでしょうが、その体つきはヒョロヒョロ。

 う~ん……。

 この男の正体がつかめません……。


 それに、この場所は……?

 さっきまで私が居たのは邯鄲かんたんの玉座の間。

 この奇妙な真四角な部屋とは、なにもかもが違います。


(これはもしや『鬼谷子きこくし』の妖術のたぐいか?)


 秦国軍に妖術の使い手が?

 妖術、幻術のたぐいであるとすれば、目の前の男を打ち倒せば解ける可能性は高いですが……。


「クビ……? そなた、クビと言ったか?」


 とりあえず目の前の男から情報収集することにしましょうか。

 って……え? あれ?

 なんか声の調子がおかしいですね。


「あぁん!? 『そなた』だぁ!? てめぇ! 誰に向かって口聞いてると思ってんだぁ!? 俺様は『電ゲキ少女』のプロデューサー様だぞ、あぁん!? クビっつったらクビなんだよ! さっさと出ていきやがれ、このブスが!」


 ……ブス?

 ブスとは不美人という意味のことでしょうか?

 その言葉を、なぜ私に?

 それに『電撃少女』とは?

 プロデューサー?


 言葉の意味するところを飲み込もうと頭を巡らせていると。


「……ってか、ウチにこんな奴いたか? まぁ、いい。さっさと出ていけ! オラッ、これ、てめぇの荷物だろうが!」


 ガラガラガラ!


「──っと」


 こちらに放り投げられた車輪付きの箱を受け止めます。


(これは……?)


 もしや秦国軍の新兵器?

 そう思って固まっていると。


「あ~、ったく! すっとろいやつだな! さっさと! 出て! 行けって! 言ってる! だ! ろうがっ!」


 ドンッ! ドンッ! ドドンッ!


 男に数度背中を押され、部屋から追い出されました。

 まったく、ここは一体なんなんでしょ──。


「……!?」



 ざわざわざわざわ……!



 部屋の外。

 そこに立ち並んだ町並み。

 そして、行き交う大量の人々を見て私は立ち尽くします。


「こ、これは……?」


 真っ直ぐで平らな石の壁で作られた背の高い建物。


「一体どうやってこんな綺麗に石を切り出したというのだ……」


 そして足元に広がる黒い石で覆い尽くされた地面。


「それに、この弾力のある舗装された道は……」


 這いつくばって地面を観察します。


(かの秦国ですらこんな栄華は築けてはいなかった……。これは幻術というよりも、むしろ遥か遠い未来の……)


 すると、道行く男たちが声を投げかけてきました。


「あはは~! あの女パンツ丸出しで何してんのw」

「あれじゃね? チョー横キッズw」

「マジかよ、やっぱ新宿はやべぇとこだな!w」

「てか、ブッサ! あの女ヤバいって!」


 ブッサ?

 女?

 パンツ?

 新宿?

 チョー横キッズ?

 一体なにを……。


 鏡面。


 立ち上がった私の全身が、建物の壁にハメ込まれた巨大な鏡面に映し出されます。


 ガリガリに痩せています。

 背は中頃。

 茶色の髪。

 眉毛だけは元の私のまま。

 キリッとした目元も、まぁ面影はあります。

 そして、周囲の民の服装と比べても明らかにセンスの感じられない上着と腰履き。

 足元は粗末なつっかけです。


 これは……。


 私……。


 もしかして……。



 女、になっちゃってますかぁぁぁ!?



 ビュゥゥゥゥ!

 パシッ!



 一枚の紙が飛んできて私の顔に貼り付きました。 


「うぶっ!」


 手に取って紙面を眺めます。

 そこには、こう書かれていました。



『李牧,統一戰國偶像。

(李牧よ、アイドル戦国時代を統一せよ)


 如果你做不到,你就會死。

(出来なければ貴殿は死に申す)


 赵国也随之灭亡。

(そして趙国も滅亡する)


 截止日期是四年後。

(期限は今より四年間である)』



 ビュゥゥゥゥ!

 ピュ~!



 再び風が吹いて、紙は空高く飛ばされていきました。


(ふふっ、なるほど……)


 ようやくに落ちました。


「これは幻術や妖術にあらず!」


 この奇怪な建築物。

 珍妙な格好の人々。

 そして──。


 鏡に写った私の姿。


 女。


「ふふふ……いいでしょう……」


 どういうことかは、まだわかりません。

 が、もし神とやらがいたのであれば。

 きっとこれは、その試練のようなものなのでしょう。

 あまつさえ『戦国時代』という共通点。

 戦国時代というからには、元の私とやる事もさほど変わらないはず。


 見知らぬ土地で。

 女性の姿になった私、李牧が。

 この国を統一して。

 趙へと戻り。

 我が国へと襲いかかってきていた秦国軍を──。

 ひとり残らず蹴散らしてあげようじゃありませんか!


「おい、あんた! 荷物盗まれてるぞ!」


 ガラガラガラガラッ!


 振り向くと、私の引いてきていた車輪付きの箱が見知らぬ男に持ち去られている最中でした。


(おやおや……あれは『荷』を入れる箱だったのですね。しかも、その荷もスラれてしまって一文無しですか。この今の私の女性の体で、男に追いつくことは不可能でしょうね……)


「ふふふ……! あ~はっはっはっ!」


「おい……あんた、大丈夫か? 荷物盗られて、どうかしちゃったのか?」


 心配そうに声をかけてきた中年に答えます。


「いえいえ、心配をおかけして申し訳ありません。あまりに可笑おかしすぎて笑ってしまいました」


 ええ、わかりました。

 どん底からのスタート、というわけですね?

 いいでしょう!

 この李牧!

 たとえ宿なし一文無しからでも必ずのし上がってみせましょう!

 そして!

 必ず趙国へと戻り!

 秦国軍を打ち破ってみせようじゃありませんか!



 バッ!



 新宿──とやらの広場に向かって手をかざします。


「さぁ──アイドル戦国時代とやら! この新たな戦国の世に……」


 民たちが私の方に振り向きます。



「李牧が到着しましたよ!」



 さぁ!

 天下統一のお時間です!



────────────


 【あとがき】


 新作です!

 読んでいただいてありがとうございます!

 少しでも「設定おもしろいかも」「続きが気になるかも」と思われた方は☆やハートで応援お願いします!


『電撃の新文芸5周年記念コンテスト』参加作品なので、今から1ヶ月で10万字書けるように頑張ります!

 みなさまの応援こそがほんとにほんとに力になるんで、なにとぞよろしくお願いいたします~~~~~!

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