チョコレートの魔法
菜月 夕
第1話
「パティシエになったんだって?ねえねえ、チョコレート作り教えてよ」
今日も彼女は綺麗だ。いや、いつもより輝いている。
また恋をしたんだろう。恋の魔法は女の子を輝かせる。
彼女とは小学校でクラスメートになった時からだ。
その時も彼女は恋をしていた。今度のは何度目だろう。
その時から僕は彼女に恋をしていた。
でも告白なんて。なんと言っても彼女はクラスの人気者で、ひいき目でなくても一番の美少女だった。
それでも彼女がお菓子が好きでその時の彼氏にチョコを作るんだと言っているのを聞いて、僕はお菓子作りを始めた。もしかして彼女に食べて貰えるかもしれない。
それだけでも僕は満足だった。
そして今回の恋はいよいよ本命らしい。
がっちり本格的にチョコを贈りたいらしい。
僕はちょっと胸が痛んだけど、それを隠して彼女と一緒に作れる事を楽しむ事にした。
「味がどうしても、深みが出ないって?
うーん。それはね。僕らパティシエが作るときは大量に作るからってのもあるんだよ。
餡子の豆を煮る時もそうなんだけど、大量に煮るとなぜか味に深みが出るんだ」
彼女は早速、大鍋を用意して「美味しくなあれ、美味しくんあれ」とつぶやきながらチョコを湯煎して深めのバットで固めてその上の部分と舌の部分を熱線で切り離して真ん中の一番良い所を使う。
上は大量に作ったせいで固まるのに時間がかかったぶん、ちょっと酸化する。
下は脂肪が少なめ。もちろん、この二つは別の用途に使う。
一番良い真ん中を再び融かして大理石の板の上で何度も練ってテンパリングする。
こうすることで滑らかで空気を含んだ結晶が揃い、口の中でさっと融ける。
汗を流しながら作ったチョコレートはパティシエの僕が見ても可愛くて美味しそうだ。
彼女はこのチョコで魔法をかけるんだろう。
そう言えば大鍋でぶつぶつ言いながらチョコの基を作る彼女はほとんど魔女だ。
僕はその様子を思い出して微笑んでしまう。
そして彼女も完成した喜びを満面に表し、いっそう光り輝く。
「彼はね、とっても鈍感でいくらおまじないでチョコに魔法をかけても気がつかないと思うのよ。
これはもう、間近でおまじないしてるって見せるしかないと思うのよ」
そう言って彼女は頬を赤らめながら僕にできたばかりのチョコを渡してくれた。
「できたばかりが一番美味しいし、きっと鈍感で真面目なあなたは最後まで面倒を見てくれると思うの」
そう言って彼女はまだ大鍋にいっぱい残っているチョコを振り返って見た。
僕はチョコに魔法をかけられた気分だった。
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作中で行っているチョコ作成法は妄想の産物なのであまり本気にしないでください。(笑)
チョコレートの魔法 菜月 夕 @kaicho_oba
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