第4話

 そんなこんなで丸め込まれた俺は、まずはサーシャと婚姻の儀とやらをすることとなった。


「リツ様。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ……ただ、お互いのことをよく知らないのに、手を出すつもりはないから」


「リツ様のお心のままに」



 キュルルルルル


 そう言って礼をしたサーシャのお腹が鳴った。


「な、り、リツ様。何も聞いていらっしゃいませんよね?」


「腹減ってるのか? なんか食えば?」


「し、しかし、婚姻の儀は絶食で挑むのが原則です」


「そんなヘンテコなルール、破ってもバレないだろ。そこにキッチンあるし。簡単なものならすぐ作ってやるよ」



 そう言って俺はキッチンを探る。うどんっぽいものなら、作れそうだな。醤油とか出汁も揃っているし。


「り、リツ様!? 殿方にそのようなことをさせるわけには!」


「じゃあ、サーシャは作れんの?」


「わ、妾は……できませぬ……」


「じゃあ、適材適所でいいじゃん」


「リツ様は、お料理までおできになるのですか!? お強くて、できないことはあられませぬね……」


「そんな大したもんは作れねーけどな。それに、ルールなんて問題ないものなら破ったっていいじゃん? 少しなら」


「リツ様はとてもすごいお方ですね」


「ルールを破ると言う考えを持つリツ様がすごいです。普通の者は、ルールを破ることなどできませぬから」


「そう? 俺なんて、そんなすげぇやつじゃねーよ。……俺が学級委員長をやらされていたとき、いうことを聞くさ奴なんて一人もいなくてさ」


「その者たちはリツ様のすごさがわかっておらぬ愚か者なのですね」


「そういうの、いいからさ」


「妾にとって、リツ様は素晴らしいお方です。リツ様が、今妾と出会って少しでも幸せと思っていただければ、それでよいのです」


「……ありがとうな、サーシャ」










「リツ様、実は……」


「サーシャ様とは、我が婚姻を結ぶはずであった! 横から掻っ攫うとは何事じゃ!?」


「……婚約者とか?」


「いや、我が国の臣下でありますが、妾に付き纏っていた者でございます。実力を理解させてやってくださいませ」


「いいの?」




 イケメン風の男は、俺を見つけると突然名乗り始めた。


「我こそは、ルタタルガ国の一の臣下ワタルトと申す。サーシャ様を巡って戦いを挑みに参った!」


「……リツ。一応、サーシャは俺の嫁? らしい」


「くっ! 許すまじ! サーシャ様を嫁とは……!」


 そう言って、刀に魔力を纏わせ、こちらに向かって突っ込んできた。


「んー……邪魔」


 そう言って、片手を横にスライドさせると、ワタルトは吹っ飛んでいった。


「ほぅ……これほどの実力とは」


「妾の婿殿に相応しい実力じゃろ? 父上」


「そうじゃな。疑っていたが、すごい男だ」



「……ワイバーンもどきより手応えがない」


 そう言って去っていく俺を、睨みつけるワタルトには気が付かなかった。

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