第3話 MOF(国家最優秀職人章)のトリコロール
前話から続けるなら3月、4月のイベントと菓子なんですが、また宗教行事が来るんです。まあ、クリスマスからずっとだよね、ってことなんですけど。
この辺で少し違うのを書いてみようかな、と。
私の勤めたパティスリーは、国家最優秀職人章(
MOFはフランス文化の継承者としてふさわしい、最も優れた技術を持つ職人に授与される章。
有名なのは料理人で、トリコロールカラーの襟を付けたコックコートを着用している料理人を目にしたことがあるかもしれません。
このトリコロールの襟はMOFの被授章者にだけ許されています。パティシェも同じコックコートですね。
他の分野の職人は、首から下げるメダルのリボン部分がトリコロールになっています。
180以上の職種でMOFが選ばれるんですが、ソムリエ、パティシェ、パン職人、フローリスト、ガーデナー、宝石職人、宝石彫刻師、ダイヤモンド職人、大工、 技工士、理容師、自動車塗装、革製品職人、靴職人、眼鏡職人、時計修理人と言った具合で、けっこう細かく分かれています。
宝石職人とは別にダイヤモンド職人はあるんだ。ダイヤモンドはやっぱり特別だな? とか、宝石職人と宝石彫刻師はどこが違うんだろう、などと思ったものです。
(私の和訳が正確ではなく、イメージできないだけかもしれませんが)
聞いたことのない職業を調べてみれば、
国家資格であり、四年に一度、そして二年に渡って審査されるMOFを得るのはどの分野でも大変厳しく*、料理人でもパティシェでも、長い期間準備をします。
夜間や休日だけでなく、最後の追い込みだと、仕事時間を割いて特別に練習が許されたり、課題の製作にあたることも。(私の知る方々は)
MOFを狙うのがシェフ**だったりすると、その候補者が所属している企業も融通を利かせます。MOFを得られるかどうかは、その後の経営戦略的に(売り上げ的に)大事ですからね。
そしてその練習には、大抵、先にMOFを得た先輩がコーチに来て、アドバイスをもらいながら仕上げていきます。
MOFを授与されたパティシェの店で働いて、気づいたことがあります。
『MOFの友達はMOF。MOFの仲間はMOF』
店の工房におじさまがやってきて「私の先生だ」とシェフ**に紹介され、当然のようにMOFだったり。***
「今度仲間のショコラティエとコラボしようと」と、やってきたのがやっぱりMOFだったり。
厳しい資格ですからそんなに被授章者は多くいないはずなのですが、いるところにはゴロゴロいます。
緊張するのですよ。そんな方々が側にいて、手元を見られたりしていると。
販売員の私でさえそうですから、パティシェたちはどれほど緊張するか。
MOFはなんというかスターというか、憧れだったりしますし。
シェフが店にいる時といない時で、パティシェチームの空気がピリッと変わって、ああ、締まったなと感じることは多いです。
増してや追加でMOFがウロウロしていたら……。
そんなMOFの店でした。
MOFがいる店にはそのシェフのオリジナルケーキが必ずあって、店の一押しになっていると思います。
MOFの店を巡って、自分の好みを探すのも楽しいものです。
最後に、店とは関係のない話ですが、トリコロール襟のコックコートで思い出したことが。
国家最優秀パパ章(
* 該当者がいればMOFが授与されます。技術が基準に達していないと判断されると、その年は該当者なしで終わり。現在MOFの被授章者がいない分野もあります。
**日本では料理人のことをシェフと言ったりしますが、フランスだと「シェフ」とはそのチームを率いるトップを表します。シェフ・キュイジニエは料理人のトップですし、シェフ・パティシェ、シェフ・ソムリエはパティシェ、ソムリエのトップです。
日本で仏人の料理人が「料理人です」とあいさつをして、「まあ、シェフさんなの?」と答えが返ってくると「いえいえ、シェフではありません」「?」といったすれ違いが起こったりします。
ここではトップの意味でシェフを使っています。
*** ペーペーの私にシェフが紹介されるというのは、特別なことではありません。シェフが別の知り合いの店に行き、裏の工房まで訪れるような仲の場合、大抵そこの従業員皆に紹介され、挨拶をしながら進みます。
たまに日本から大きなホテルのトップシェフがこちらのレストランを訪れたりした時、日本とは文化が違いますから、上には挨拶しても下っ端まで挨拶しないことがあるんですよ。そうすると大抵その従業員たちは「けっ。お高くとまりやがって」みたいな雰囲気で怒っています。(笑)
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