サキュバスハンターエース ~ムッツリハンターはシスター相手にスケベ心を隠したい~
@asuhako
第1話 エース、その名の意味は
俺の名はエース。
サキュバスハンターをやっている、28歳独身の男だ。
今ウチの事務所に、とある村のシスターがサキュバス事件の依頼に来ていた。
「……私は街まで買い物に行っていて、それで、村に帰ったら、男性の方々が暴徒と化していて……」
黒いシスター服に身を包む彼女の名は……確か、リティアという名だったか。
「おそらく男性を自分の兵に仕立て、貴方の村を自らの城にでもしているつもりなのでしょう」
彼女に対応しているのは俺じゃない。この事務所の所長であるクインだ。
俺は会話は得意じゃない……なんてことはないんだが、なるべく口数を少なくするよう意識はしている。
理由はまぁ、ボロを出さないようにするため……とでも言っておこうか。
「サキュバスのテンプレ行動の一つですね。 女王気分を味わっているとでも言いましょうか……。
この場合、自身以外の女性がうろついていると気分を損なうため、女性の皆様は軟禁されてしまうパターンが多いです。
サキュバスは殺人は好みませんので現時点では無事でしょうが、食事の世話をするかどうかは気分次第といったところです。
ですので、早く助けるに越したことはありません」
そうしてクインとシスターリティアの情報交換は進み、俺とリティアがその村に向かうのは明日の朝という結論に至ったようだ。
流石クインはこなれているだけあって会話がスムーズで頼りになる。
ちなみに所長は俺より年上で、娘が一人いる。 夫は…………いや、この話は今はいいか。
「今夜は宿に泊まっていってください。 既に部屋はこちらで手配してありますので。
エース、悪いんだけどリティアさんを宿までご案内してさしあげて」
「……はいよ」
「すみません、ご迷惑をおかけしてしまって……」
気にするな、と一言伝え彼女と共に事務所を出る。
その際所長に「しっかりやれ」と目で訴えられたような気がするのは、多分気のせいではないだろう。
「それにしても凄いんですねエースさんって。サキュバスの催淫が効かないだなんて」
宿に向かう途中、彼女は上目遣いで俺に話しかけてきた。
俺が無言だから何かしらの話題を……と気を利かせたのだろうか。
「先ほどクインさんに詳しくご説明いただいたんですけど、サキュバスの催淫は自身に少しでも興味を抱いた男性を意のままに操れてしまうって」
そう。ほんの少しでもアウトなのだ。
だから男のサキュバスハンターなんて滅多にいない。女性が中心の仕事となっている。
当然だろう。一ミリも異性に興味を持たない男なんてほとんどいないのだから。
ましてや相手はサキュバスで、男を煽るのに特化した種族。ミイラ取りがミイラになるのは必至だ。
……ただまぁ俺の知ってる中には自分より身長の低い女性には一ミリも惹かれないとか言って
160㎝以下限定のサキュバスハンターをやっているような男もいるにはいるが。
「男性のハンターさんの場合だと『催淫できると思ってサキュバスは油断するから』有利だともおっしゃっていました。
……偉そうな言い方になってしまいすみませんが、明日は頼りにしておりますので何卒、よろしくお願いいたします」
そう言って綺麗なお辞儀をしてくれる彼女に、おう、とだけ返す。
……女性に一ミリも興味がないということは、単純に考えれば俺の恋愛対象は同姓……ということになる。
明日は男の俺と二人旅な訳だが、彼女がその点について特に問題視していなさそうなのはそう解釈したからだろうか。
「送っていただきありがとうございました! 部屋の番号はクインさんに伺っておりますので、ここで大丈夫です」
宿屋の前に着いたところで、彼女は元気な様子で俺に別れの挨拶をした。
自分の村……つまりは家族や友人が心配だろうに、そんな表情は一度も見せなかった。強い子だな。
「明日は私が案内をする番ですね! ふつつかものですがよろし―――っ!?」
しかしそんな空元気のせいなのか、再びお辞儀をしようとしたところ彼女は足を滑らせてしまい
「……っと。 ……平気か?」
俺の胸に倒れこんでしまった。
「あっ……ああっ!? ご……ごめんなさい!! 私、こんな……!!」
慌てて離れるリティア。
……なのだが、少し様子がおかしい。
異性に抱えられた恥ずかしさ、というよりかは申し訳なさを感じている声色だ。
「……どうした?」
「…………い、いえ、その……。
………………エースさんは女性に興味がないのですから、私なんかがくっついたせいで嫌な気持ちにしてしまったのでは……と」
……そういうことか。
シスターだからなのか、はたまた生まれ持った性格かは知らないが、なんともまあ実直な子だ。
とりあえず何とも思ってはいないと言っておく。
異性に対してこう発言するのは逆に失礼な場合もあるかもしれないが、彼女は俺の言葉に安堵したようで、そのまま宿屋の中へと入っていった。
「おかえり。 な に も なかったでしょうね?」
事務所に帰るなり所長は書類の整理をしながら開口一番、語気強めに語り掛けてきた。 失礼な奴だまったく。
「なんもねぇよ」
そう、と言いながら彼女は俺から書類に目を戻した。
「……なぁ、所長」
「……なに?」
「シスター服って露出ないのになんであんなにエッチなんだろうなッ!!?」
「おだまり」
俺がやっと口にできたパッションワードは、冷たい目をした所長に一蹴されてしまった。 誠に遺憾である。
「……本当にリティアさんにそのテンションで話しかけてないでしょうね」
「してねぇってば」
そう……俺が女性に興味がないなんて嘘。まったくのデタラメである。
なんならそこら辺の一般男性より興味津々の自信がある。彼女いたことないけど。
ただ、なぜか俺にはサキュバスの催淫が全く効かない。
その原因は今日に至るまで誰にも、どころか俺にも皆目見当もついていないのだが。
とにかく所長は俺のこの謎の体質を利用し、世にも珍しい
『どんなサキュバスの催淫も効かない男性サキュバスハンター』としてデビューさせたのだった。
「なぁ、もういいんじゃねぇか真実公表しちゃっても。
口下手気取るのも、このリビドーを抑え込むのもストレス溜まっちまうよ」
「他にその体質の人が一人も見当たらない現状で発表しても誰も信じないし、むしろ怪訝な目で見られるわ。
それにこの触れ込みのおかげでウチの事務所は他よりも依頼件数が格段に多いの。
アンタだってお金が稼げるんだったらどんな肩書でも演じてみせるってOK出したじゃない」
諦めなさい、と告げる悪魔のような女、クイン。 「誰が悪魔よ」 確かに当初はそれでいいと思ったのは事実。
しかし今日まで多くのサキュバスを見てきたが、皆が皆魅力的過ぎるのだ。 正直たまらん。
だか周りに人がいてはその興奮を言葉や顔に表した途端看板に偽りがあるのがバレてしまう。客足が減るのは間違いないだろう。
だからなるべくボロを出しにくいよう口数を少なめにはしているのだが……それがこんなにも辛いことだとは……。
「あーあー……。 ……リティアちゃん、良い匂いしたなぁ……」
「うわキッショ」
ヒドイや。この事務所が唯一煩悩を開放できる場所だというのに。
「キショってなんだよ。彼女が倒れたから抱き抱えたら、その時フワッと良い匂いがしたってだけだよ」
別に自分から嗅ぎにいった訳じゃないし? 手を出してもいないんだから犯罪でもなんでもないし?
「……あの子23歳って言ってたわよ。 年上のお姉さんが好きなんじゃなかったっけアンタ」
「あのなぁ、それはまた別の話なんだよ。 男はおっさんになっても、心の中に少年を飼っているんだ。
……だから30や40になったとしても! 20代の年上お姉さんに甘えたいって思ったりするんだよッ!!」
俺の魂の叫びを「意味わかんね」の一言で片付ける冷酷な所長。
ふ、いいさ。 わかる人だけわかってくれれば。
所長はその後無言で書類のチェックをしていたが、俺は明日のことで頭がいっぱいだった。
実は俺はシスターという存在に今日初めて出会った。勿論存在は知っていたが、実物を見るのは初めてだったのだ。
そして理解した。
どうやら俺はシスター服が『癖』らしい。
困ったことに思春期をとっくに過ぎたこの歳になってもなお、性癖というものはプラスされていく一方だ。
こんな邪な気持ちを抱えたまま、明日の俺は彼女の前で平然としていられるのだろうか。
「…………」
こうして自制心を保てるかどうか考えている時はいつも、ガキの頃の親父との会話が頭に浮かぶ。
『エース、お前の名前は俺がつけた。 その名にどういう意味を込めたと思う?』
『んー……。 一番になってほしいとか、そういう感じ?』
『いんや、違う。 赤ん坊のお前を見て俺は一目で分かったんだ。 …………よく聞けよエース』
『コイツは絶対【エ】ッチで【ス】ケベな男になるとッ!! だから俺はお前を【エース】と名づけたッ!!!』
『す……すげぇぜ親父!! 当たってる!!』
『ガハハハハハハハハハッ!!』
「…………」
うーん。やっぱり明日無理かも。
---------------------------------------------
初めまして。 アスハコと申します。
初作品なので至らない点などあるかもしれませんが、読んでいただけたら嬉しいです。
7話までは出来上がっているので、今日中に全て投稿しようと考えております。
お時間ある方はぜひ、お付き合いいただけましたら幸いです。よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます