2 卒業の謝恩会とやっぱり愛しい親友

 謝恩会。

 ということは、第二高等女学校の卒業式が昨日。

 ちょっと待て?

 私は何でこの日に目覚めた?

 今までのことが全部夢?

 いや、それにしては鮮明すぎる!

 それにおかしい。

 だってそうだ。

 今日が謝恩会だっていうなら、昨日が卒業式。

 絶対卒業式だっていうなら、女学校五年間の日々共に過ごした皆との日々がよぎって感動して、皆涙涙だったはず!

 なのにその記憶より、夢? な記憶の方が鮮明ってことある?


「さてさてやっとお嬢様の、制服以外のお召し物~」


 乳母子のローリヤはうきうきとして私の前に内着を差し出し、衣装棚へ向かって行く。

 そしてハンガーに吊された幾つかを腕に下げ。


「どれにします? 私もう、本当にひさっびさで!」


 私はまずその勢いを止めるべく。

「あ~ ローリヤ、あんたそんなに楽しみだったの?」

「そりゃあそうですよ!」

「だって今までそんなこと言わなかったじゃない!」

「え! 忘れちゃったんですかあ? まーったく」


 そうか、言ってたんだな、うん。

 よし、乗ってみよう。


「忘れてた、ごめん!」

「だったらいいですよー」

「けど何でそんなにうきうきしてるのよ」

「だってエーリシャ様、いっつもお友達の方々とお揃い! って制服でお帰りになって! 私としては新調したお服を合わせてみたくていつもうずうずしてたんですよ!」

「そ、そうだったの、何かホント、ごめん」

「わかったらいいんですよ!」


 なる程、確かにそんな記憶がないわけでもない。

 制服は仲の良い二人とのお揃いであることも事実。

 私はそっちの方が、新調した今の新しい流行りの服よりも大事だったとみえる。


「最近では~コルセット派としない派が半々じゃないですか」

「あ、無論私はしない派で!」

「ですよねえ」


 ではどれがいいですか、とローリヤはずらりと並べる。


「会場には暖房が効いているし」


 私は自分に似合いそうな明るい黄色から橙色へのグラデーションの生地を使った、ゆったりとした服を選んだ。



 さて、謝恩会の会場は第二女学校の講堂だった。

 そこでの立食パーティの形式で、皆が勢揃いする。

 昨日までは皆寮生をしていて、同じ第二の制服を着ていたが、今日のこの日は違う。

 遠方からやってきている人達も、大半は両親だの後見人だのが迎えにくることから、この日は帝都内のホテルに宿をとっている。

 第一の場合は、経歴身分関係なしに優秀な生徒ということで、謝恩会も一人で参加、寮にぎりぎりまで残るひとも多いのだけど、第二はそうじゃない。

 ある程度以上余裕のある家庭の少女達が、家庭を守ることと社交に必要な教養を身に付けることが大切だということになっている。

 貴族や資産家の娘が多いのが特徴だ。

 私自身、この時点ではトリソニク子爵家の令嬢なのだ。


「うわあ! マーシュ綺麗!」


 そしてやってきた友人達。

 マーシュリアは腰をくっと締めたドレスを身に付けていた。

 しっとりとした藍色を次第に淡くしていくグラデーションに、淡い紅色の大きな薔薇の花が、華やかに、でも今にもこぼれそうに一輪飾られたそれは、彼女にとても似合っている。


「貴女はコルセット派なのね」


 そう言うスノウリーは淡い紫と銀を重ねた、どちらかというとすとん、としたライン。

 張りのある生地で作られたそれは最新型と言っていい。


「そうなの。さすがにまだ、ちょっとあれは気恥ずかしいし、それにお父様が見たら卒倒しちゃうから……」

「貴女にはそれが似合うんだから、いいと思うわ。私なんて、妹がこれを着て欲しいってもう……」


 スノウリーにはフワルカという母親が違う妹がいる。

 これがまた、実にお姉様お姉様と懐いている明るい子で、以前に家に遊びにいった時には、焼き餅か、ぷうと頬をふくらめていた。


「それは貴女があんまりにも着飾ることに興味がないのが悪いのよ。この第二女学校一の才女は!」

「だって、本当にどっちでもいいし…… でも、私はコルセット好きじゃないから、今の流行り自体はありがたいわ」

「そうよねえ!」

 私は、と言えば、夢?の記憶の時代にずっとコルセットをしてこなかったから、着けることなんて、もう考えられないのだけど。


「でもマーシュ、この後すぐに結婚式って、急ぎすぎじゃない?」

「え? 結婚式?」

「やだ! 忘れてたの? マーシュの結婚式、謝恩会の後じゃない!」


 まずい、忘れてた!

 そして、やばい!

 何とかして、この結婚式、阻止しないと!

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