演舞祭準備期間①

 ダンシングソーンによってあわや全滅という憂き目にあってから約半年が経過した。

 学生生活も早いもので、残すところあと半年だ。


 この半年で私はたゆまぬ努力を続けてきた。

 戦士としての技量を伸ばすことはもちろんのこと、召異魔法デーモンルーラーの研鑽や知識を深めたりなどだ。


 特に意識して特訓していたのが、早く動けるようになることだ。

 戦いの中で先手を取る動きを学んでも、肝心の行動が遅ければそれは意味をなくしてしまうし、早く動けるようになればその分被弾も減っていくだろう。

 だから私は、アルバイトをして稼いだお金で、金属鎧を購入した。

 これを重り代わりにしてしばらくは特訓を続けている。

 この鎧を脱ぐころには、私は早く動けるようになっているだろう。

 肝心のレベルだが、私はいまだにレベル1だ。

 かなり頑張っているのだが、まったく上がる気配すら感じない。

 もっと早くレベルを上げたいのにもどかしい気持ちだ。


 それに、成績順位も落ちて、ミルトとリンダに抜かれてしまった。

 これも結構悔しい。


 竜の力に関しては今のところ、これと言って成果はない。

 もはや、ただ図書室に本を読みに行っているだけの時間になっている。

 そんな焦りの中、朝のホームルームでマークから演舞祭が始まる旨を伝えられた。



「お前ら、そろそろ演舞祭の時期がやってくる。」

「去年は俺たち講師が演目を務めたが、今年はお前たち生徒たちに取り組んでもらう。」

「これは毎度の恒例行事となっていて、地元の住民だけでなく、観光客や多くの来賓が来ることにもなっている。」

「オリエント傘下の冒険者ギルドのギルドマスターも来るからな。」

「お前たちにはこの演舞祭の場をスカウトの場と、考えてもらいたい。」

「ここで大きな活躍をすれば多くのギルドから勧誘をうけることができるだろうな。」


 そこで私は一つの疑問を覚えた。

 そこで大活躍をして勧誘を受けたとして、残りの学生生活でミスをして退学になったらどうなるのだろうか?


「先生、一つ質問してもいいですか?」


「エレノアか、どうした?」


「勧誘を受けた生徒がそのあとの生活で退学した場合は冒険者になれないってことですか?」


「いいや、そんなことはないぞ。」

「もしかしてオリヴィアからこの学校の卒業特典の話を聞いていなかったのか?」


「え?そんなのあるんですか?」


「やれやれ、相変わらず肝心なところが抜けているな、あいつは。」

「ちょっと待っていろ!」


 マークはそう言って教室を出ていき、しばらくすると戻ってきた。


「この学校を卒業した生徒にはオリエントへの参加を認められる。」

「俺たちのギルドは精鋭の集まりだからな。」

「それから卒業の証として、冒険者になった者にはこのダガー級のライセンスが与えられる。」


 マークは持ってきた箱から黒い板のようなものを取り出した。


「ダガー級の冒険者はこの黒曜石でできたプレートライセンスが渡される。」

「本来なりたての冒険者はランクなし、すなわち馬の骨として扱われ、こっちの石英でつくられたプレートが渡される。」

「ランクが上がるほどにプレートの素材は高価なものなっていって、最終的にはミスリルなどの希少な鉱石のプレートになる。」

「ミスリルのプレートを付けたものは、始まりの剣と呼ばれる最高ランクを示す冒険者だ。」

「これがその証だ。」


 マークは自身の首から下げたプレートを見せびらかした。


「ちなみに最後のプレートの素材は、ミスリル、イグニタイト、マナタイトから選べるようになっている。」

「これは神話の存在である始まりの剣にあやかっている。」

「まあイグニタイトは第二剣を示すから、これを選ぶようなのは、よほどのもの好きくらいだがな。」


 始まりの剣というのは、この世界を創造したとされる3本の剣のことで、剣は人に力を与えて神を生み出したとされている。

 特に第二の剣は戦いを好み、強さを追い求めた。

 それに影響され異形の力を手に入れたものたちこそが、この世界では蛮族と呼ばれ、人族の敵とされている。


「さて、話が逸れたな。」

「このように我が校を卒業するということは大変な名誉であると周知されている。」

「先に言った特典を得んがために入学を希望する者は多い。」

「だからこそ、我が校のカリキュラムは厳しく、生徒たちを丁寧に育成、選定しているんだ。」

「そのおかげか、この学校で基礎を叩き込まれて卒業した冒険者たちの成長速度は異様に早い。」

「お前たちも今や伸び悩んでいることだろうが、卒業し、実際に活動を始めればぐんぐん成長していくはずだ。」

「もちろん退学になったとしても、冒険者生命を断たれるわけじゃない。」

「退学判定になったとしても、それなり活躍できそうなやつは、傘下のギルドに斡旋したりもしているからな。」


 そうだったんだ…

 ってことは冒険者ギルドオリエントに所属している冒険者は、かなりの精鋭ぞろいっていうことか。


「先生、ありがとうございます。」


「おう。んでどこまで話したか…」

「そう、演舞祭についてだったな。」

「演舞祭は生徒同士で5人1組のチームを組んでもらう。」

「そして、それぞれのチームが順にチーム戦を行っていくという内容だ。」


 チーム戦!

 それも5対5か!

 今までで一番の規模だ。


「お前たちには演舞祭開催までの期間で、それぞれで好きにチームを組んでもらう。」

「パーティを組んだら俺のもとに報告に来てくれ。」

「もし期間内にチームを組めなかったやつは、適当にこっちで組み合わせて挑んでもらうことになってるから気をつけろよ。」

「対戦相手のチームは当日実際に当たるまでは内緒だ。」


「それから、演舞祭当日の詳細なルールは追って通達するが、チーム選びで重要な一点だけ先に伝えておく。」

「消耗品の持ち込みは禁止だ。アイテムに頼って戦ってるやつはこの申請書に記載のルールを読んで、アイテム申請を行ってくれ。」

「とりあえず話は以上だ。頑張れよ。」


 マークが出ていくと、生徒たちは騒めき始める。

 最初の集団戦闘訓練の授業みたいに苦労したくないから、私もチーム選びはちゃんとやろうと思った。

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