初めての依頼④

 あ、れ?

 まだ…生きてる…


 私は辛うじて生きているようだった。

 でも、もうHPは1桁となり、風前の灯だ。

 ああ…わたしはここで死ぬのか…



「エレノアさん!」


 大きな声がして、私は目を開ける。

 ラフィーが目に涙をためてわたしに近寄ってきていた。


 そうか…いつの間にかラフィーの方に飛ばされていたんだ。


「ごめん、ラフィー。私が、ちゃんと注意していれば、こんなことにならなかったのに…」

「ラフィーだけでも、逃げて…」


 私は必死で声を上げる。

 もしここでラフィーに逃げてもらえば、最悪蘇生処理は間に合うだろう。

 まだ希望はある。

 蘇生によって穢れが溜まるかもしれないけど仕方ない。

 ライフォスの声が聞こえるジークは嫌がるだろうなぁ…


「嫌です!私だけ皆さんを置いて逃げるなんて、そんなことできませんよ!」

「今日も、進級試験の時も私は役立たずだった!エレノアさんやみんなの役に、何にも立てなかった!」

「私悔しいんです。なんで私は肝心な時に何もできないんだろうって…」

「お願いです神様…私たちを助けて…」


 ラフィーは必死で懇願する。


「神様、神様…お願いです。どうか私たちを、皆を救う力をください!」


 ラフィーの叫びが森いっぱいに響き渡る。

 この森には私たち以外には誰もいないだろう。

 この叫びが誰かに届くことはない。

 そう思っていた。


 しかし、次の瞬間、ラフィーの身体が温かい光に包まれ、輝きだす。

 ラフィーは自らの身体に起きた変化に戸惑いながらもすぐに何かを理解したような表情になった。


「ありがとうございます。神様!これで、皆を助けられます!」


 ラフィーはそう言うと、祈りをささげた。

 その直後、ラフィーの身体から私たちに向けて暖かな光が飛んできた。

 光は私たちの負った怪我を癒していく。


 これは…まさか…


「ラフィー、キュアを、覚えたの?」

「はい!祈りが届いて、使えるようになりました。」

「これで、やっと皆さんのお役に立てます!」

「ありがとうラフィー。これで存分に戦える!」

「はい!回復は任せてください!」


 ラフィーの祈りが、神に届いたのだ。

 私は神ってやつを信じていなかったけど、案外本当にいるのかもしれないな…


 私は立ち上がり、斧に魔力を込めて駆け出した。

 回復魔法を使えるようになったからといっても、4人分のHPを一気に回復させたんだ。

 かなりのMPを使ってしまったはず。

 だとすれば長期戦は不利だ。

 なら、短期決戦で行くしかない!

 幸いにもあいつは回避能力は低い。

 私の攻撃は十分に通用する!


 私は魔力を込めた斧を、一気にダンシングソーンめがけてふるった。


 くらえ、魔力撃!


 私の斧は、ダンシングソーンの身体を真っ二つに切り裂いた。

 ダンシングソーンのHPは0になり、ダンシングソーンは動かなくなった。


 やった…勝てた…

 生き残ったんだ…私たちは…


 命を実感したことで、私はどうしようもないほどの形容しがたい感情に包まれた。


「エレノアさん!」


 すると、ラフィーが私に抱き着いてきた。


「やったんですね…私たち、生きてるんですね!」

「うん。ラフィーのおかげだよ。ラフィーがいなかったら絶対に死んでた。」

「ありがとう。」

「いえ!ようやくお役に立てて、嬉しいです!」

「っ!そうだ!ジークたちは!?」


 私たちは慌ててジークたちの様子を確認しに行く。

 様子を見ると、意識を失っているだけで命に別状はなさそうだった。


 よかった…きっとラフィーの回復が効いているんだろう。

 すぐに皆を起こして、こんな危ない森は早く出ないと!

 私たちは急いで3人を叩き起こして森を出た。



 私たちは森をでて安全な区域に戻ってきた。


 イゴール「すげえなラフィー!回復魔法を覚えたって。」

 イゴール「ラフィーのおかげでこうして生き残れた。サンキューな!」


 ジーク「ああ。ありがとうラフィー。助かったよ。」


 マノン「ホントにね。なんだか分からない間に死んじゃったかと思った。」

 マノン「ありがとねラフィー。」


 ラフィー「いえ。こうして無事で帰れてよかったです。」


 イゴール「そうだな!とはいえラフィーもレベル2か。先を越されちまったな!」


 そうか、神聖魔法プリーストの第二階梯【キュア・ウーンズ】を覚えたってことはラフィーはレベル2になったってことか…

 私も、負けてられないな!


 そうして、私たちは冒険者ギルドに戻り、救命草を納品した。

 もちろん、ダンシングソーンの一件は秘密だ。

 私たちが無事に帰ってきたことを確認した受付のお姉さんはかなり安心していた。

 私たちはそんなに不安そうに見えたのだろうか?


 まあいいや、次はあんな植物なんかに負けないくらい強くなってやる!

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