②バイト

「は?」

大学の昼休み、一緒に昼食を取っていたイケメンの言葉に、間抜けな声が出た。イケメンの名前は、新山朱夏。中学からの友達だ。

「食事係?」

「うん」

朱夏が、俺に向かって両手を合わせる。

「侑李にお願いできないかな~?と思って…どう?」

「どうって…」

急な話しに俺はまた困惑する。

「親父はハナからお袋連れてく気だし…。お袋も『パパ一人で、送り出せない』とかなんとか…」

「変わんないね、お前ん家」

仲睦まじいおじさんとおばさんの様子を思い出し、苦笑いする。

「…見せつけられる息子の身になれ。それはともかく…問題は、飯なわけよ」

「ああ~、まあ…」

朱夏が料理をするとか、聞いたことはない。一方、俺は料理が趣味で、一人暮らしになった今もほぼ毎日自炊している。今日の昼食も、手作り弁当だ。

「で、どうすっか話してるときに、おふくろがさ『あんたが侑李くんだったらねぇ…』って…。で、『あ、いっそ侑李に飯作ってもらったらいんじゃね?』って…」

「…おい…」

自分の家の事情に、俺を巻き込むな、と思ったが、

「家政婦ってのも考えたんだけど…蒼生がさ…」

(あ…)

ふと、朱夏の顔が曇る。

(蒼生、か…)

俺は人間不信気味の、友人の弟、蒼生の顔が思い浮かんだ。

「侑李がOKなら、親父が『バイト代出す』って言ってた」

「え、マジか…?」

「バイト代」という言葉に心が揺れる。


「新山兄弟」は、ちょっとした有名人だ。俺と同い年の兄、朱夏と、二歳下の弟、蒼生。この兄弟は、それぞれ中学に入学してから始めたバスケットボールでメキメキと頭角を表し、どちらも「将来プロ入り確実」と噂されるほどの花形選手となった。

プレーも去ることながら、二人とも背が高く、顔が良い。…そう、兄弟揃ってものすごいイケメンなのだ。

朱夏が高校生になると、行く先々で声を掛けられたり、騒がれたりすることが増えた。そうなると弟の、蒼生にも注目が集まるわけで。人付き合いの得意な朱夏はそれらを上手くあしらってたけど、中学生だった蒼生は、もともと人見知りだったから、それに拍車をかけた。

高校生になってからはましになったけど、自分から関わったり、愛想よくしたり、ということはほぼない。

「そこがいいよね~」

というファンもいるにはいるらしいが。

そんな蒼生のことを考えれば、気心の知れた自分を頼りたくなるのも無理はない…のかもしれない。

(蒼生……よし)

「…わかった、やるよ、食事係」

「侑李~~~っ!そう言ってくれると思った!マジ感謝!ありがとう!」

「大袈裟だな」

朱夏の頼みだし、おじさんとおばさんからの期待も感じる。…蒼生のことは、心配だし。俺は、新山家の食事係を引き受けることにした。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る