第8話 モゴ爺


 

 「えぇ…改めてヨシト殿には感謝を」

 「うぃ、適度にね。あと殿は要らないぞ」

 「性分ですので」

 「あっそ」



 性分なら仕方ないね。

 


 ─────!



 ─────!



 おや?外が騒がしくなって来たな?

 それに良い匂いもするなぁ。

 さては我慢出来なくて魔物の肉食うつもりだな〜。



 「あいつら!私の指示もなしにっ!?」

 「良いって、落ち着いてエリシア。元々渡すつもりだったし」

 「ですがっ…」

 「飢えるってのは辛いからな、下手な痛みよりよっぽど堪える」

 「………………。」



 一度でも戦争を経験すれば嫌でも分かるからなぁ。

 エリシアもそこら辺は理解してるだろうし。



 ぐ〜ぎゅるるるっ。



 「おや?エリシアさんお腹空いてるのかい?」

 「……お恥ずかしいぃ」



 顔真っ赤にしちゃってまぁ可愛いじゃん。



 「よし、俺も頂こうかな。行こうぜ!」


 「面目ない…何から何まで」

 「た、隊長。行きましょう…私もこんな良い匂い嗅いだら我慢できないですぅ」



 メルティも涎まで垂らして、卑しぃ。

 ささっ、話は飯食ってからにしようぜ!



 「少し良いかのぅ?」



 ズォ



 天幕に誰かが入って来た、何奴!?



 「モゴ爺!?怪我は大丈夫なの!?」

 「なぁに、これくらいで…鍛え方が違うからのぅ!」



 おぉ、見事な力こぶ。

 上半身裸で腹に血の滲んだ包帯を巻いてる老人……。

 老人だよな?筋骨隆々の身体に……つーかデケェ!?



 「無理をするなモゴル、軽口を叩ける怪我じゃ無いだろう」

 「ほぅ、また泣いてるかと思ったが元気そうで良かったわい」

 「な!?うるさい!誰が泣くか!!!」

 「昔は、あんなに小さくて可愛かったのにのぅ〜」



 モゴルって言ったか。 

 へぇ~エリシアとは昔からの知り合いみたいだな。


 

 「ほれ、もう魔物の肉が焼き上がっておるぞ。早く行かねば無くなってしまうかものぅ」


 「っ…!?失礼する!」

 「た、隊長!私も行きます〜」



 「ほっほっほっ、良く噛んで食べるんじゃぞ」



 あっ、エリシアとメルティが行ってしまった。

 俺も行くよ〜って言えたらどんなに楽か…。

 はぁ…何かこっち来てから飯食うの邪魔されてばっかだな。



 「で、わざわざ二人を行かせて俺と二人っきりになりたかったのか爺さん」

 「おや?バレてたか…思ったよりやるのぅ」

 「爺さんも…その怪我なけりゃ、あれくらいの魔物…造作もねぇだろ?」



 間違い無く今ここに居る奴等の中で1番強いな、この爺さん。



 「買いかぶり過ぎじゃ。儂はモゴル、親しき者からはモゴ爺と呼ばれとる」

 「そりゃ、ご丁寧に…俺はタナカヨシト、ヨシトって呼んでくれ」

 「うむ、では…ヨシト、まずは…」



 その大きな身体を小さくしモゴ爺は頭を地面に付ける。




 「助かった…正直、儂が動けぬ今。お主があれを倒してくれた事、心から感謝しておる」

 「感謝ならさっきエリシアが沢山してくれたよ。それに筋肉モリモリの爺さんに言われるよりエリシアから言われたほうが嬉しいよ」

 「ガッハッハ!こりゃ一本取られたわい!」



 ハッハッハ!俺も爺さん気に入ったよ。

 


 「俺と雑談でもしに来たのか?」

 「いかんか?」

 「いんや別にぃ〜でも」



 さっきから肌にピリピリ来るんだよなぁ。 

 漏れてるぞ…爺さん。



 「話に来た割には………爺さんよぅ」

 「……………。」



 好々爺とした雰囲気…でも隠し切れてねぇなぁ?

 その人の良さそうな面で放っていい威圧じゃねぇぞ…。



 「………感謝はしとる。本当じゃ…しかしのぅ」

 「ハッキリ言ってくれるか?老人の長話に付き合うのは苦手なんだ」

 「それもそうじゃの…………」








 「ヨシト……お主は、



 …………………………。





 「そう言われてもなぁ…」

 「すまんのぅ…儂も上手く説明が出来ん」

 「俺ってそんなに怪しいか?あっ、待って普通に考えたら怪しいな今の無しで」




 そうだよ俺ってエリシアとかメルティから見れば突然現れた謎に強い、しかもこんな人が居ないような所に何故か居る奴だもんな…うわっ、怪しい〜。



 「怪しいが…それよりも儂が感じたのは不気味…かの?」

 「手厳しいね」

 「本当にすまんのぅ…しかし昔から勘が良くての、それのお陰で今日まで生きてこれた。その儂の勘が、お主を見てから儂に伝えるんじゃ」




 ふ~ん、どんな風に伝えてるんだろうねぇ。



 「儂が過去に相対した者を遥かに凌ぐ程、"危険"じゃとのぅ」

 「褒め言葉として受け取っとくよ……俺は合格かな?」

 「そうじゃの、今のところは…」



 見定めに来たわけね。

 うん、良いと思うぞ得体が知れない、正体が分からないってのは怖いからな。








 「どうする?俺の気が変わってここに居る奴等…全員殺すかも知れないぞ」

 「短い会話だけじゃが、お主が外道かどうか位は分かる…出来ぬよ、お主には……しかしのぅ、舐めるなよ貴様っ」



 良いねぇ…その殺気。

 ただでさえデカイ身体が血管が浮き出るほど膨張する。



 「儂の大切な者達に傷一つ付けてみろ…この命に代えても貴様を殺すぞ」




 








 怖ァ……。



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