第70話 sideテオ
〈テオ視点〉
「私には出来なかった事よ」
と言った彼女の顔が寂しそうに見えて、胸が苦しくなった。
ステラ様は何だかんだと言いながら、あの男の事が好きだったんじゃないのか……そう考える度に、嫉妬で胸の中が黒く染まっていくような感覚に襲われる。
「でも俺って……道具だったんじゃないんですかね、あの人にとって。公爵様から金を引き出す為の」
と俺が口にした言葉にステラ様はとても辛そうな顔をした。
あの人との話し合いで、俺を部屋の外へ出したステラ様の気持ちは分かってるつもりだが、つい口に出してしまった。……少し卑屈過ぎたかな。
すると彼女は立ち上がって俺の方へやって来ると、座っている俺の頭を優しく抱きしめた。
「少なくとも公爵様は貴方を愛していたわ。不器用だから表現は出来ていなかったでしょうけど。公爵様の気持ちまで無かった事にしないでね」
と言うステラ様に複雑な気持ちになる。
俺は思わず彼女の腕の中から逃れる様に頭を離して、
「ステラ様、俺は貴女の息子じゃありません。確かに自分はまだ未熟ですが、子ども扱いされるのは腑に落ちません。失礼します」
と言って立ち上がった。
俺はただ、嫉妬していた。公爵様の事を話す時のステラ様の優しい声に。
そして全く男として意識して貰えない自分に失望していた。
いたたまれない気持ちになった俺はそのままステラ様を振り返る事なく、部屋を出た。
俺は早足で離れの自分の部屋に戻ると、そのまま寝台へと体を投げ出して仰向けに寝転んだ。
天井を見ながら大きなため息をつく。
「あ~あ……」
イライラして、言っちゃダメな事を言ってしまった。こんな自分だから、子ども扱いされるのだろう。自分でもわかっているのに。
領地に居た時はこんな風に自分の気持ちをぶちまける事なんて、なかった。自分の変化に自分でも戸惑ってしまう。
でも、俺はステラ様に認めてもらいたいのだ。
男として。
ステラ様、あの時どんな顔をしていたのかな?
申し訳ないと思いつつも、もし、俺の言葉に少しでも胸を痛めてくれていたら、ちょっぴり嬉しいと思ってしまう自分がいる。
「そうとう拗らせてんな……」
と俺は呟いて、そんな自分にまたため息をついた。
「明日……謝ろう」
誰にも言えない気持ちを抱えて、俺はまたそう呟いた。
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