Time After Time

🌳三杉令

第1話 End of Life

 音の無い世界。

 外では雪が降っている。

 家には僕の他に誰もいない。

 ずっといないんだ。


 思えば最悪の人生だった。

 数年おきに不幸が訪れてくる。


 ある年、

「あなたとはもう付き合えない」

 そう言って大学生の時の彼女は去って行った。

 僕はテーブルの上のナプキンをしばらくじっと見続けた。


 ある年、

「残念だが、会社は倒産した」

 そう言われ僕は公園でハトを見る日が続いた。


 またある年、

 家の机の上に置手紙があった。

「さようなら。離婚届は市役所に提出しておいてください」

 僕はごはんから立ち昇る湯気を一人で見つめる毎日を過ごした。

 食欲が全くない。体はやせ細っていった。


 そして最後の年、

「言いにくいのですが、末期のがんです。治療の施しようがありません」

 病院でのとどめの一言だった。

 僕は公園で空を見上げ、流れる雲をずっと見ていた。もう涙も出ない。


 僕は治療をあきらめ、強い鎮痛剤を処方してもらい、自宅で残りの時を過ごすことにした。


 1日に2回、遠方に住む兄に空メールを送る。

 メールが届かなくなったら、兄が救急車を呼んでくれる。

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