あーあー、食べ逃した

そうつぶやいて、わたしはバーのカウンターに突っ伏した。失恋したの? そう問いかけてくる声に、まあねと返す。有り体に言えば友達と友達がくっついた、という話だ。片方が忘れられない失恋をしていたからないと思ってたのに、とカクテルをあおる。そんなわたしを格好の餌だと思ったのか、声の主はおごるよ、と酒を差し出してきた。どれも甘くて強いものばかり。魂胆が見え見えだったから、逆に笑えてしまった。わたしはザルだった。声の主は酔いつぶれ、わたしはすぐ近くの家に連れ帰る。ソファに座らせて水を飲ませ、左手に持った濡れタオルで顔を拭いてやってから後ろから甘えるように首に腕を絡ませてそのまま頸動脈を塞いで絞め落とした。さて、どんな味がするだろう。風呂場に運び込んで、解体の準備をする。あのこのこともこんな風に食べられたらよかったのに。まあいいや、思わぬご馳走が手に入ったし、と鼻歌交じりに浴室のドアを閉める。

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