ファシストとの戦い

「色んな意味でやばそうなのが出た……」


 図書館の玄関ホールに現れたファシストは――見える範囲で2人。

 その手にはもちろん銃がある。


 銃にはバナナみたいな形をした弾倉がついてる。

 アレはゲームでよく見てたので知ってる。アサルトライフルだ。


 ……いや、未来とはいえ、なんで日本にそんなガチの銃があるんだよ!!!


「えーっと……」


「撃て!」


「わひぃ!?」


<タタタッ! タタンッ!!>


 ファシストはこちらを見るなり銃を撃つ。

 僕たちは慌てて後退し、図書室まで引っ込んだ。


 短い破裂音がして、廊下が途切れ途切れの閃光で照らされる。

 銃弾は空気を切って飛び、廊下の壁と床の間を跳ね回っていた。


「あちゃー! もう見つかっちまったなー!」


「ど、どうしよう……」


「ふたりとも、アレと戦える?」


「ん~ぼちぼちかなぁ?」


「に、逃げたほうが……」


 ティムールは難しそうな顔をして、リカルダさんは怯えてる。

 無理もない。僕から見ても分が悪く見える。


 ホールから廊下の間には、わずかな遮蔽物しか無い。


 そもそも隠れたとしても、とても銃弾を防ぎきれるもんじゃない。

 バリケードに使われていたのは木やプラスチックの家具だ。

 身を隠しても、そのまま穴だらけになるのがオチだろう。


「一応聞きますけど、降参っていうのは?」


「射的の的にされるだけだと思うぜー」


「だめかぁ……じゃあ選択肢はひとつしか無いですね」


「おう、逃げるぜ!」


 図書室は、ホールから真っ直ぐ歩いて右手にある。

 ホール側、南には窓も扉もない。

 となると、逃げ道はホールの反対側の奥と窓側の2方向になる。

 だが、窓から逃げるのは危ないな。


 廊下側から入口までの間には、本棚みたいな視界を塞ぐものがない。

 つまり、そっちに逃げると撃たれ放題になる。


 ってことは……逃げる方向は必然的に奥になる!


「奥に逃げよう、窓からだと身を隠す場所がない」


「おっけー! リカルダとフユは先にいきな!」


「え、え? でも……」


「へーきへーき! ちょっと時間稼ぐだけ!」


「う、うん……」


「――行こう、リカルダさん」


 僕らがいてもティムールの戦いの邪魔になる。

 先に退避しておくのが彼女的にも楽なんだろう。


☆☆☆


「おい、向こうから反撃がないぞ」


「油断するな、グレネードで制圧してから突入をかける」


「おいおい、そんなことしたら戦利品が消し飛ぶぞ」


「お前さぁ……間抜け顔の小僧の奥にいたやつを見たか?」


「いや、何かいたのは見えたが……」


「OZの人食いだよ」


「ゲッ、異能持ちかよ……」


「そうビビるな。対策してれば問題ない」


「対策って?」


「簡単だ。腕が届く距離まで近づかれるな。食われるぞ」


「軽くいうね……やるよ」

「3,2,1」「「それっ」」


☆☆☆


 図書室の奥に向かって走る僕の背中の方で、何かが落ちる金属音がした。

 直後、爆音がして熱っぽい空気に僕は押し倒された。


<ズガンッ!!!>


「――ッ?! 手榴弾か!」


「ティムールッ!!」


 不運なことに爆発はティム―ルの近くで起きた。

 彼女の下半身が吹き飛んで、鮮やかな断面が明らかになっている。


「うっ……」


 知り合いの身に起きた、普通なら死んでてもおかしくない惨事。

 しかし、彼女は血溜まりの中でまだ動いている。


 ああ、マズイ。絶対マズイ。

 取り返しのつかないことが起きた。いやでも、彼女はまだ動いてる。

 だけど、僕に何ができる?

 心が後悔と焦りでいっぱいになっている。


 手榴弾が破裂した後、ファシストは入口から銃だけを突き出して射撃してきた。

 銃弾が本棚を貫き、図書室の中を木くずが舞う。

 ティムールはべっとりと血にまみれたショットガンを取り上げ撃ち返す。


「そのきったねー頭さげな!!」


<ズドン!! カシャッ、ドンッ!!!>


 ティムールは下半身を失っているのに、ショットガンの反動をものともしない。

 入口の壁にむかって、大口径のバックショットを連射した。

 図書館の壁は大口径のショットガンに耐えられるように作られてない。

 たちまち内壁のボードが剥がれ落ち、廊下の向こう側が明らかになった。


「うぉっ?!」

「KS-23じゃねぇか!!」

「うち返せ!!」


 ファシストの黒い服が煙状になったセメントで真っ白になる。

 輝く銃火と耳を打つ爆発の音。飛散する破片。

 眼前で繰り広げられるのは、なんとも凄まじい光景だ。


 戦争映画はしょせんただの映像に過ぎない。

 ここで起きていることは全て現実だ。

 熱も、音も、光も、すべて触れることが出来る。


 緊張と恐怖で脳がしびれる。

 僕は知らず知らずのうちに叫んでいた。


「やめて! 降参します!! もうやめてくれ!!」


「ティムール、も、もうやめようよ!」


「~ッ!!」


「おい! お前のお友達はああ言ってるぞ!?」


「さぁどうするッ? 今ならバラさずにおいてやるッ!」


「……チッ!」


 3対2に見えるが、僕とリカルダには戦意がない。

 実質的には2対1だ。

 いや、ティムールは下半身を失ってる。もっと分が悪い。


 もうどうにもならない。

 ティムールは構えていたショットガンを下ろした。


 するとファシストは即座に図書室に突入し、ティムールの右手を撃ち飛ばした。

 彼女の小さな手がショットガンを握ったまま千切れ、血溜まりに転がった。


「う、うぇっ……」


 血と肉片が飛び散り、本棚や紙クズにこびりつく。

 凄惨な光景に吐き気を感じる。

 胃の中には吐くものなんて何もないのに。


「……もうやる気のあるやつはいないな?」


「おい相棒、迂闊うかつに近づくなよ」


「わかってるよ。見張ってるから通信頼む」


「CP、こちらアイゼン1、制圧完了。捕虜を3名を確保した。車を回してくれ」


「ご、ごめんティムール、ごめん……」


 無線で何かを話しているファシスト。

 ボロボロのティムールにすがりつき、ぐずって泣くリカルダさん。

 僕には全てが遠い世界のことのように思えた。




※作者コメント※

OH……さすがに初っ端でプロの戦争屋相手は辛かった様子

さて、ここからどうなるか

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