第10話

車が到着した場所は夢でミたあの場所だった。


人ごみに紛れて

搭乗口へと消えていく両親を見て

私は急に不安に駆られた。

二人の後姿が

あの日見た夢とそっくりだったからだ。

この後、私は秋好さんと

空港のロビーから飛行機を見送るのだ。


私を大きな窓の前に立たせると、

秋好さんは

「飲み物を買ってくるわね」

と言い残して消えた。


何から何まであの夢と同じだった。


嫌な予感がした。


しかし私はどうすればいいのかわからず、

その場でただオロオロとしていた。

周りの大人達が今にも泣き出しそうな私を

チラチラと窺っていた。

迷子の子供と思ったのかもしれない。


秋好さんはすぐに戻ってきた。

「ごめんね。一人で寂しかったのね」


私は首を振った。


「はい。コーラ。好きでしょ」

そう言って秋好さんは

ペットボトルの蓋を開けて、

私の前に差し出した。

私はそれを一口だけ飲んだ。

ピリピリとした刺激が喉を通り抜けた。

続けて飲もうと口を付けたところで、

私は飲むのをやめた。


「ほら。

 お父さんとお母さんをお見送りしましょうね」

と秋好さんが私を窓の方へと誘った。

そこから見た光景は

夢で見たそれとまったく同じだった。

私は手に持ったペットボトルを

力強く握りしめていた。



この日から私は孤児となった。


あの日、

母を前に瞑想状態に入った私がミたのは、

私自身の未来ではなく、

母の未来だったのだ。


『ビジョン』は将来の奇禍をミせる。


この事故がきっかけで

一つわかったことがある。

両親と父の実家との間には

想像以上に深い確執があるということ。

両親の葬式にも

父方の人間は誰も来てなかった。

さらに一人になった私を引き取ることもせず、

知らぬ存ぜぬを決めこんだ。

そのことからも父の実家の人間は

相当歪んだ人格の持ち主ばかりと言える。



そしてもう一つ。

腑に落ちないことがある。

ビジョンの中の私が手にしていたのは

缶のコーラだった。

しかし

実際に秋好さんが私に渡したのは

ペットボトルに入ったコーラだった。


これは些細なことだ。

それでもなぜか私は気になった。

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