第78話 一筋縄でいくわけないよね

 レオンから緊急招集を受けた。

 もう夜更けだというのに、何があったのだろうか。


 「失礼します」

 部屋に入るとすでに全員が揃っていた。


 「全員揃いましたね」

 いつも飄々としたレオンだが、眉間にシワを寄せて険しい顔をしている。

 さらに部屋の空気は重い。


 「たった今、緊急の連絡が届きました。テンダール魔法国と戦っているロア王国軍……大将であるシャイデン・クロウが討たれたそうです」


 (シャイデン・クロウってレオンの父親だよな?)

 (そうだよ……)


 「それ本当に言ってるの?」

 真っ先に口を開いたのはロベルタだった。


 「冗談でこんな事を言うとでも?」

 レオンは冷静を装っているが、内心は穏やかではないだろう。


 「そ、そんな……シャイデン様が……」


 「そのせいで戦場は大混乱、大変な状況になっているという事です。それで殆ど無傷である私達に援軍要請が入りました……」


 「援軍には、ジャン子爵とゲルテ伯爵に行ってもらおうと思っています」

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ゲルテ伯爵が騒ぎ出した。それでも淡々とレオンは話を続ける。


 「私の父上からの指名ですジャン」

 「それはどういう……」


 「自分が戦死するような事態が起こったら、ジャン・アウル子爵を後釜にして欲しいとルイス国王に頼んでいました。まさか本当にそんな事になるなんて……朝一でテンダール魔法国との戦場に向かって下さい」

 

 「分かりました」

 「ロベルタや私達の今後は、バルナ様と合流しダル公国を攻めます。それぞれ準備をお願いします」


 「ジャンとゲルテは気をつけて下さい。父上が討たれるような事態です。普通ではない状況である事は明白です。テンダール魔法国は私達の知らない魔法や武器、戦術を使ってくるに違いありません!」

 レオンが下を向き、沈黙の時間が流れる。


 テーブル上に置かれたレオンの手が、拳を握った。

 それも強く。爪が食い込み血が出るほどに。


 「本当ならジャンにこんな事を言ってはいけないのは分かっています。ですが……私は現地に行けません。これは私怨です。仇を討ってください」

 

 「任せて下さい」

 話は終わり、部屋を後にするジャン。

 レオンが居た部屋から、すすり泣く声が聴こえた。


 (自信満々に言うのはいいけど、いい作戦でもあんのか?)

 (分からない。だけど、僕も父上が戦死したからレオンの気持ちも、仇を討ちたい気持ちも分かる。僕はユウタ達と一緒に自分の手で仇を討てたけど、レオンはそうじゃない……)



 「ジャンくーん! ジャンくーん!」

 「なんだよしつこいなー!」

 ゲルテ伯爵に抱きつかれた。


 「お願いだよ〜! レオン様説得してよ〜! ゲルテが来ても意味ないから違う人にしてってお願いしてよ〜。僕よりロベルタ様の方が役に立つよ絶対」


 「どっちみち戦うんだからいいだろ!!」


 「全然ちがうよ! レオン様達が向かうのはバルナ様いる戦場でしょ? ほとんど何もする事がないから命の危険もないよ。でも僕らが向かうのは、シャイデン様がやられた戦場に向かうんでしょ? 命がいくつあっても絶対足りないよ〜」


 あまりのもしつこいゲルテ伯爵に、俺は嫌気が差した。

 それに正直言ってウザい!


 「ああ〜じゃあいいよゲルテ伯爵来なくて。明日朝一番に俺らは戦場に向かうけど、来なくていいよ。ここに残ってレオンに何か言われたら全部俺のせいにしていいから!」

 「え??」

 巻き付かれていた腕の力が緩む。


 「じゃあそういう事だから、じゃあな」

 倒れ込んだゲルテ伯爵をその場に置いて、俺は自分の部屋に戻った。


 爆睡している隊長達を無理やり起こし、朝一で出発する事を話す。

 向かう戦場は、壮絶でかなり危険な場所である事も伝えた。


 ジェイドは冷静に、リリアは闘志を燃やした。

 シャオはいつもと変わらない。

 エルガルドとテディは、遠足に行く前日の子供のようにはしゃいでいた。


 準備をしているうちに朝になり、ジャン達が出発しようとした時だった。


 「ジャン君」

 声に振り返ると、ゲルテ伯爵だった。


 「どうしたんですか?」

 「僕も行くよ」


 「急にどうしたんですか? あれだけ行きたくないって言っていたのに」

 「今でも行きたくない……でも年下のジャン君だけを行かせたら、伯爵家として名が廃る」

 「ゲルテ伯爵……では行きましょうか」


 テンダール魔法国との戦場へと向かう。

 戦場に到着し、そこで目にしたのは、想像以上の凄惨さだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る