第77話 好きこそものの上手なれ

 何だこれは?


 距離を取って再び斬りかかる。

 アダムスが持つ杖が反応し、自動的に魔法のバリアが張られ、アダムスを守っている。


 「馬鹿な人。今まで何人の暗殺者が私を狙ってきたと思っているの? それでも全員が私を殺す事が出来なかった! この聖女の杖がある限り私への物理、魔法攻撃は効かないわ」

 杖の先が光り出して、俺に向かって光線が放たれた。


 俺はギリギリで避ける。

 光線は床を一瞬で溶かし、マンホール程の穴が出来上がった。

 

 喰らったら一発でゲームオーバーだな……。

 だが、避けられない訳じゃない。


 「この攻撃を避けるなんて、中々やるわね! これはどうかしら?」

 アダムスが杖を掲げると、杖の周りに眩い光が何十個と現れ、鉄砲玉のように俺に向かって発射された。


 俺は自分の感覚に従ってギリギリで避けていく。

 一つの光が、脇腹をかする。


 服と表面の皮が溶けた。

 「これも避けきるなんて、大したものよ。褒めてあげる!」


 肉をムシャムシャと食べながら、ギリギリ人間の形をしたアダムスが喋る。

 壁に飾られた剣を手に取り、アダムスに投げつけた。


 ガキン!

 やはり阻まれる。


 「そんな事をしても無駄よ。私が杖を持っている限り攻撃を当てる事は出来ないわ」


 (ユウタどうするんだ? 思ったよりも厄介な相手だよ? それに攻撃も油断出来ない……)

 (一つ分かった事がある)


 (なに?)

 (あの魔法、バリアが張られるまで僅かだけど時間がある。どういう条件で張られるのか分からないけど、常に張られている訳じゃない。今は張られてないだろ?)


 (それがどうしたって言うのさ)

 (つまり、杖が反応して魔法が張られる前に攻撃を届かせりゃあ良いって事)


 (そんな、むちゃくちゃな!)

 「脳筋上等ーー!!」

 俺は、さっきよりも力を入れて斬りかかった。


 攻撃は阻まれる。

 しかし、やっぱりタイムラグがある。本当に一瞬だが!


 暗殺で殺すつもりだったから、時間をかけていられない。

 いくら周りの兵士達を倒したと言っても、これだけ派手に暴れたのだから、もう少ししたらきっと街に居る警備兵などが集まるに違いない。


 ワンチャンスといったところか……。

 中々どうして楽しい。緊張感とヒリつく感じがたまらない!


 「ふぅー。スゥーッ」

 俺は深く息を吐き、息を吸った。


 アダムスが放つ魔法を、俺は避けていく。

 見てから避けるのでは遅い。


 あえて攻撃出来るタイミングを与え、それを予測して俺は避けていた。

 部屋を時計回りに周りながら、壁まで使って。


 このままだとジリ貧だな。俺は覚悟を決めた。


 俺は進む! アダムスに向かって!

 的を絞らせない為に、ジグザグに動きながら。

 

 避けきれない攻撃は、ギリギリで擦めさせる。

 深い傷は、強引に回復魔法で回復させながら突っ込む。


 俺の間合いまで距離を詰めた。

 そして俺は、その場でしゃがみ、天井に向かって真上に全力で跳んだ。


 「こっちだ!!」

 声に反応したアダムスは、天井を見上げる。


 ボールを強くドリブルした時、手に引っ付いている時間が長いように、天井に足が付いている時間が一瞬長い。

 天井がぶっ壊れる程強く、アダムスに向かって俺は再び跳んだ!

 その瞬間、右手に持っているダガーをアダムスの顔、目を狙って投げつけた。


 同時に空中で高速前宙し、ダガーの柄頭つかがしらにかかと落としをブチ込み、ダガーの勢いをさらに加速させた。

 

 これ以上加速させた攻撃は、俺の手札にはない!


 「ビギョエァァァァァ」

 人間の悲鳴とは思えない、怪物の断末魔のような叫び声を上げ、アダムスは杖を床に落とした。

 手から離れた瞬間、さっきまで感じていた魔力の気配が無くなる。


 バリアに阻まれる事なくアダムスの身体に着地する事が出来た。

 胸よりも出ている腹を足場にし、胸ぐらを右手で掴み、左手に持っているダガーを、もう一方の目に差し込んだ。


 「バギャァァァァァァァァァァァ」

 アダムスは、ヨダレを撒き散らしながら叫ぶ。


 俺は刺さった二本のダガーを抜き取り一言。

 「残念ながらお前は、この世界ではここで退場だ!」


 そして首を斬り落とした。

 スプリンクラーのように噴き出すはずの血が、アダムスの血はドロドロと溢れ出てきた。

 一つも美味しそうに感じない。


 聖女と呼ばれるような人間だから俺は期待していた。

 極上の女をこの手で殺せるのではないかと……。

 現実はこんなものか。


 外が何やら騒がしくなってきた。

 (ユウタ早く逃げよう)

 「ああ、分かってる」


 その場からすぐに撤収し、聖都を後にした。

 二日かけて自軍の陣地まで戻った。


 「失礼します!」

 「ジャンですか? 入って下さい」


 「事情は聞きました。仕事は上手くいったんですか?」

 「滞りなく……終わらせてきました」


 「後はテレジア様待ちという事ですか?」

 「全てが順調に上手くいけば、無血でミリア聖国を手に入れる事が出来るでしょう」


 「お手柄ですジャン! 後はゆっくり休んで下さい!」



 それから五日後。

 ミリア聖国の新しい代表者テレジアによって、正式に国をロア王国に明け渡した。


 この時をもって、ミリア聖国という国は無くなった。

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