第103話 栄養補給

僕の名は御子柴大河。

今居るエデンの世界視点で言うなら、僕は異世界人だ。


ある日気づいたらこの世界にいて。

そして言葉が通じず悲嘆にくれている所をレイミーに救われ。


そして同じ異世界人であるタケルさんの誘いで、今はレイミーが当主代理を務めるこのコーガス侯爵家に研究員として身を寄せさせて貰っている。


現在はコーガス侯爵領、旧魔王城の一角に僕の研究室がある感じだ。

ここなら魔王――エーツーさんの体から抽出したエネルギーが使い放題だから、研究には都合がいい。


「過去を覗き見たり、人の記憶を消すアイテムかぁ……」


人の記憶を何とかするアイテム。

正直、倫理的には絶対アウトだと思う。


けど……


作られたコーガス侯爵家の没落劇。

その事件は30年も前の事であるため、証拠集めは難しいと言わざる得ない。

科学の発達した日本でだって、30年後に事件が発覚なんてなったら相当難しい筈だ。


タケルさんもそう判断したからこそ、僕にこんな無茶なアイテムの依頼をしたんだと思う。


『犯人を見つけ出すのは、その気になれば実は簡単です。怪しい人間を片っ端から誘拐し、拷問で知っている情報を吐かせればいいだけですから。一般的な貴族の連中に、私の拷問に耐える事など出来はしません。しかし……出来ればそれはしたくない。何故ならそれは……コーガス侯爵家の一員として恥ずべき行為だからです。ですからお願いします。どうか私の、いえ、レイミーとコーガス侯爵家の為に力を貸してください』


そんな風にタケルさんに頭を下げて頼まれたら断れないよな。


それに、コーガス侯爵家が没落させられたせいでレイミーは苦労して来たんだ。

その敵討ちと考えれば、協力するのは当然の事である。


まあ没落してくれたおかげで、僕が彼女と出会えた訳だけど……


それはそれ。

これはこれだよな。


「けど過去を見るのはともかく……記憶を消すのって結局拷問する用じゃ……」


記憶を消すアイテムって、拷問で情報を引き出した後に口封じとして使うって事だよね?

結局一緒じゃ……いや、口封じに殺してしまわない分だけマシではあるのか?


「うーん。そう言う形の協力は出来たら避けたいよな……」


となると、作るのは過去を覗き見る系かな。

もしくは、そもそも拷問なんかしなくても相手から情報をこっそり引き出せる系とか。


「まあ現実的に考えるのなら、幻覚をみせて相手から情報を引き出す敵なのがいいのかな。出来ればその際の記憶が残らない的な効果付きの」


刻まれてしまった記憶を消すより、幻覚を見せつつ記憶に残らない様にする方が確実に難易度は低い。

これなら拷問みたいな酷い真似をせずに済むし、我ながら名案である。


「さて、そのためには」


その時、扉がノックされる。


「はい。どうぞ」


「ふふ、頑張ってるね」


「あ、レイミー」


扉を開けて入って来たのは、レイミーとそのお供のバーさんとコサインさんだ。


「食事の用意が出来てるんだけど、皆と一緒にどうかしら?」


どうやらもうそんな時間の様だ。


レイバン君が聖女さんの元で神聖魔法を習ってる事もあって、レイミーもこうして頻繁に魔王城へとやって来ていた。

お陰でこうやって一緒に彼女と昼食を摂れるのだから、ほんと有難い話である。


「うん。僕も頂くよ」


まあ難しい事は後回しにして、今はレイミー達との昼食を楽しむとしよう。

心の栄養補給無くして、いい結果なんて得られる訳もないからね。

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