第102話 情報収集

――アブリス侯爵家邸宅。


深夜遅く、俺はアブリス侯爵家の持つ屋敷の一つに忍び込んでいた。

その目的は、30年前の事件について記されている様な書物がないかを調べる為だ。


「ここもめぼしい物はなし……と」


屋敷に保管されている資料などに目を通すが、めぼしい物は見当たらない。

今回の結果はハズレである。


アブリス侯爵家は領地内外に数十もの邸宅を所持しており、俺は現在、それら全てを虱潰しにしている最中だ。

情報を得るために。


まあ期待薄ではあるが……


30年も前の事だ。

そもそも、自分達の首を絞めかねない情報を形として残している可能性は低い。

そのため、これは駄目元に近い行動と言っていいだろう。


だが、現在それ以外に打てる手が無いのだから続けるしかないのだ。


「まあ、不正や悪事の情報を入手できれば万歳って所だな」


一族皆殺し以外の手段で、侯爵家を追い込む事は容易ではない。

ジャッカー家はその資産を全て叩き潰す事でほぼ再起不能にまで追い詰める事が出来たが、侯爵家には絶対に叩き潰せない資産があるため同じようにはいかないのだ。


絶対に叩き潰せない資産。

全ての貴族に置ける、心臓部と言える物。


――そう、そうそれは領地であり領民だ。


これらがある以上、侯爵家は何度でも蘇って来る事だろう。

それらを取り上げられてしまったコーガス侯爵家とは違い。


「流石に、領民に手を出す訳にも行かんからな」


聖女でも解けない――建前――呪いを領地じゅうにばら撒けば、アブリス侯爵家の資産を完全に封じ込める事自体は可能だ。

だがそんな真似をすれば、そこに住む領民に甚大な影響を及ぼす事になってしまうだろう。


それなら、資産が復活するたびに叩き潰すのはどうか?

それはそれで借地代――実質の税金――が上がり続け、領民を苦しめる事になってしまう。


通常、貴族は税金を上げる様な事はほとんどしない。

裕福なこの国において、ただ集金するだけの引き上げはみっともない行為として、貴族としての名誉に問題が出る為だ。


だが、理由があるのなら話は変わって来る。


資産を全て破壊され、領地の維持管理にすら問題が出るとなれば、アブリス侯爵家は迷わず増税に踏み切るだろう。

そしてその事で侯爵家の株が下がる事も無い。

何故なら、そうせざる得ない大儀名分があるからだ。


税金上がったら領民は自然と引っ越していくんじゃないか?


今ある生活基盤を捨て、新しい場所でそれを築くというのは想像以上に大変な事だ。

ましてや馬車が主流のこの世界では、家財道具を持って引っ越しするだけでも相当な散財になりかねない。

なので余程酷い状況にならない限り、領民は決して動きはしないだろう。

単に彼らを苦しめるだけである。


色々な制約で物理的に叩き潰すのが難しい現状、アブリス侯爵家への攻撃手段として、悪事や不正の証拠が喉から手が出るほど俺は欲しかった。

それさえ手に入れば、それを元に冤罪を搦めて降爵や、領地の一部取り上げに追い込んでダメージを与える事が出来るから。


え?

冤罪でダメージを与えるのなら、わざわざ証拠はいらないのでは?


そんな事はない。

何もないゼロからでっち上げるというのは、中々に難しい物だ。

しかも相手は侯爵家である。

根拠の薄い、根も葉もない様な物では話にならない。


コーガス侯爵家もネックとなるハミゲルがいたからこそ、当主が無能だったとはいえ、あそこまで盛大に足を掬われたのだ。

もしアイツが居なければ、少なくともああはなっていなかったはず。


そう考えれば、足掛かりの重要性が分かって貰えるだろう。


「何か見つかればいいんだが……」


何も埃が出て来ない可能性も0ではなかった。

仮にあったとしても、それがごくごくくつまらない物だとあまり意味はない。

膨らませるのにも限度があるからな。


……まあその時は大河に期待か。


大河には他人の記憶を消すアイテムや、場所や人を通して過去を覗き見たりできるアイテムなんかの製作を依頼してある。

その目的も――侯爵家没落関連の心臓も含め――話してあるので、きっと頑張ってくれる事だろう。

これまで長く苦しい思いをしてきた、愛するエイミーの為に。


少々無理目な頼み事だが、きっと彼の愛が奇跡を起こしてくれると俺は信じている。

何せチーターだし。


そしてそれらのアイテムさえ完成してくれれば、後はやりたい放題だ。

ずっと俺のターンが出来る事請負である。


「あまり人頼りなのは宜しくはないんだが、まあ使える者は何でも使わんとな」


今居る場所では得られる物が何もないので、俺が屋敷を後にし、次の屋敷へ移動する。

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