第94話 血縁
「それで二つ目はなんです?」
一つ目の情報を聞き終えた俺は、二つ目を尋ねた。
「二つ目は……コーガス侯爵家の傍系の情報だ」
「傍系……ですか?」
コーガス侯爵家は基本的に妾を取らない。
そのため、大貴族にも拘らずその傍系はかなり少ない。
しかも先々代は一人っ子だった事もあり、血の近しい傍系は現在皆無と言える。
だとしたら遠い親戚の話か?
なら何の意味もないな。
ちょっと血が入ってる程度の相手を、俺は一々気にかけるつもりはないからだ。
それを気にしだしたら、洒落にならない数の人間を気にかけなければならなくなってしまう。
それは勇者でも流石に無理である。
だが、テライルも馬鹿ではない。
流石に薄い血縁の話を持ち出すとは思えないので、何かあるはず。
取り敢えず、話の続きを聞いてみよう。
「うむ。先々代侯爵、つまり――クラーボン・コーガス侯爵には隠し子がおった」
『事実だ』
「……」
先々代に隠し子が居た。
その言葉に俺は眉根を顰める。
エーツーが肯定しているので、それは真実なのだろう。
先々代侯爵クラーボン・コーガスは一言で言うなら……まあ無能だ。
息子の教育や管理を失敗している事からなんとなく分かってはいた事だったが、三十年前の事件を調べる内にその無能ぶりが明らかになる。
コーガス侯爵家というどでかい屋台骨があったがために問題にはならなかったが、彼が無能だったのは疑いようがない事実だった。
そしてそんな無能が当主だったからこそ、周りの人間に付け込まれてしまう結果になったのだ。
最初侯爵家の
因みに、没落後十二家からせしめた金はこいつが短期間で使い切ってしまっている。
侯爵家の借金の原因も、その大半がこいつが原因だ。
無能な上に隠し子まで作ってるとか………
生きてたら迷わずぶん殴ってやった所なんだがな。
死んでいるのが本当に悔やまれる。
「先々代の隠し子。、昔からその噂はあったが、没落した家の隠し子を気にする者はいない。だが……先代侯爵夫妻を手にかけた私は、先の事を考えてその血筋を追った」
「レイミー様やレイバン様も始末する事も想定していた訳ですか……」
「……そうなる」
その時点で殺す気は微塵も無かっただろう。
だが先の事は分からない物だ。
侯爵家に100年ぶりに勇者が帰って来るとか、誰にも想像できなかった様に。
だからテライルは、二人を手にかける時用に保険を求めたのだ。
先代の兄弟なら、家を継ぐ事は可能だからな。
まあ借金まみれで名だけの侯爵家を誰が噤んだって話ではあるが、その辺りは色を付けて何とかするつもりだったのだろう。
何故その心づけを早い段階でレイミー達にしようとは考えなかったのか?
少なくとも生活に支障が出ない範囲で援助していれば、先代も爵位の返上なんて事を考える必要はなかったはずである。
それが謎だ。
ちょっくら聞いてみるか。
「暗殺や後継者探し。そんな手間をかけるぐらいならば、素直に侯爵家に多少のお金を入れた方が余程賢いでしょうに。何故そうしなかったのです?」
「そうだな。だが、それは相手が受け取った場合の話だ」
「受け取らなかったと?」
「ああ。私達十二家は、爵位をいい様に買い叩いているからな。先代だってそれは理解している。言ってみれば、我々はハイエナだ。そんな私達が援助を申し出ても、彼らがそれを素直に好意として受け取る訳もない。何かの罠かと警戒するのも当たり前だろう」
まあ確かに。
ハイエナ相手に警戒するのは当然か。
「まあそれとは別に、こうも言っていたよ。『誰かの施しを受けるつもりはない。自分達は誇り高きコーガス侯爵家の人間だから』とな」
『嘘は言っていない』
『そうか……』
先代侯爵は、家門が没落し苦しい中、決してコーガス侯爵家としての誇りを捨てなかった。
もし彼に、無能だった父親や屑だった兄の様な自分勝手さが少しでもあれば、きっと命を落とす事はなかっただろう。
コーガス侯爵家としての高潔さが、首を絞める事になるなんてな……
やるせない気持ちでいっぱいになる。
そして目の前の男は、そんな誇り高き人物を殺したのだ。
自らの欲望の為だけに。
「うっ……」
テライルが胸を押さえその場に蹲る。
俺の剥き出しの殺気にあてられて。
このまま奴を……
「落ち着け。情報を聞くのが先だろう」
その時、肩に手を置かれる。
エーツーだ。
「煮るなり焼くなりはその後でいいだろう」
「ああ、そうだな」
殺すのはいつでもできる。
まずは話をすべて聞いてからだ。
「少し興奮してしましたね。それで……その隠し子は見つかったのですか?」
まあ見つかっているのだろう。
出なければ、この場で口にはしないだとうから。
「む……く……ああ……」
殺気が収まり、テライルが青い顔で立ち上がる。
「結論から言えば……隠し子は亡くなっていた。だが、その男には子供が二人いた。双子だ」
「双子ですか……」
レイミーとレイバンのイトコいあたるので、一応、いつらでも家を継げなくは無い。
勿論、嫡流が途絶えたら、の話ではあるが。
「ああ、だが……その二人は後継者足りえなかった」
「どういう事です」
「娼婦の子だったからだ」
「……」
血筋的には問題ない。
だが娼婦の様な、下賤扱いされる者の血を引ているとなると話は変わって来る。
恐らく王家は、そう言った人間の継承を決して認めはしないだろう。
まあバレなければいいと言えなくもないが、バレた際責任を問われるのは連れて来た人間だ。
没落状態の家門だったとは言え、万一の事を考えたらそんな馬鹿な選択肢は選ばないだろう。
「しかもその双子は、娼婦が妊娠中に重い病気を患ってしまった為に、重度のの障害を患って生まれて来ていた」
障害持ちか。
先天性の遺伝疾患は、この世界の一般的な魔法では治せない。
そのため、障害を持って生まれて来たものは基本的に死ぬまでそのままである。
ま、俺や聖女なら簡単に治せるが。
「なるほど。それで?今その二人はどこに?」
「30年前にコーガス侯爵家の屋敷があった場所のスラムだ。母親は出産後子を捨て消え、二人は物乞いとして生活しておった。二年前の事だ……年齢的にまだ成人しておらんし、生きているのならばまだあそこにおる筈だ」
二年前か……
安否の確認としては少々心もとないが、放っておくつもりはない。
「正確な場所を……」
「上がって来た報告書には――」
正確な場所を聞き出した俺は、分身を使ってその場に確認に向かう。
生きていてくれるといいんだが……
「さて、今のは有益な情報と言えますね。ただ、まだ一族を許す程ではありません」
「分かっておる。最後の情報が尤も重要な物だ。きっとお気に召す事だろう」
テライルが自信気にそう答える。
さて、どんな情報が聞けるのか……
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