第93話 家宝

「と、その前に。まだもう一つ知らせる事がある」


「なんですか?」


「もう気づいてるかもしれないが……先代夫妻の件だけではなく、私はレイミー様とレイバン様も暗殺しようとしていた」


どうやらあの時の暗殺の依頼は彼が出し物の様だ。

まあある程度想定はしていたし、先代夫妻の暗殺に闇蠍を使ったと告白された時点で俺の中では黒に確定していたので、確かに今更の告白と言える。


まあテライルからすれば、黙っていて後々その事を指摘されると不味いと判断して告白したって所だとろうな。


「ええ、もちろん気づいていましたよ」


「では、私が提供できる情報は三つある。そのうちの一つは――コーガス侯爵家の家宝の在りかだ」


「家宝……ですか?」


……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………何それ?


家宝ってなんだ?


もし今は亡き義父にコーガス侯爵家の宝は何かと問えば、まず間違いなく民と返って来た事だろう。

それぐらい人を大事にしていた訳だが、特にこれと言ったお宝という様な――金銭的価値の高い物は勿論大量にあったが、宝と言う程の――物はない。


少なくとも俺の知る限りでは。


俺が魔界に旅立った後に、何かとんでもない物を手に入れたって事だろうか?


「あれの在りかを知っているのですか?」


取り敢えず知ったかで返しておく。

執事である俺が、コーガス侯爵家の家宝を知らないと罪人に白状するのは余りにも屈辱的だから。


『お前の言葉は嘘だな』


『俺の言葉のウソ判定は一々報告しなくていい』


エーツーめ。

お茶目のつもりかは知らないが、空気を読めよ。


「うむ。かつて勇者が残したとされる四つのタリスマン。財産没収の際に、王家に接収され保管されている事になっているが……」


勇者が残した四つのタリスマン。

そう聞かされ、それが何か気づく。


はは、そうか。

あれを家宝に……


かつて魔王との戦のさい、俺は自らの精髄を込めて護符タリスマンを生み出している。

その効果は身に着けた者を一度だけ死の淵から回復させるという物で、当時俺と共に戦に参加したコーガス侯爵家の家族に、俺はそれを渡していた。

家族を死なせない為に。


結局その効果は発揮される事無く戦争は終結した訳だが、義父達はそれを家宝にしてくれていた様だ。


「アレは全て裏取引で他国に流されており……そして私はその在りかを知っている」


説明口調で説明された事から分かる。

どうやら、俺の知ったかには気づいている様だ。


まあ最初に怪訝な反応を示してしまったからな。

老獪な人物がそれを見逃す訳もないか。

その事をエーツーの様に一々指摘しないのは、此方の機嫌をこそねると理解しているからだろう。


しかし国外に流した……か。


仮にも世界を救った勇者が残し、コーガス侯爵家が家宝に指定していた物だぞ。

普通に考えれば有難く取っておくだろうに。

それを裏で他国に流すとか、王家は一体何を考えているのやら。


「なるほど……面白い情報ではあります。ですが、正直重要とは言い難いですね。どんな形にせよ、国外に渡ったのなら回収は難しいでしょうから」


まあそれ以前の問題ではあるが。

護符はコーガス侯爵家を守る為の物だ。


――だが、今は俺がいる。


俺が侯爵家を守る限り、今更昔作ったチンケな護符にこだわる意味はない。

よって、この情報に価値は無かった。


「ですがまあ、一応聞いておきましょう。回収の機会もあるかもしれませんからね」


ま、まあそれでも一応聞いておく。

引き出せる物を敢えて無視する意味はないし、家族との思い出がある物だから、可能なら回収したいという思いもあるからな。


まあ個人的な事情って奴だ。

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