第79話 頼まれて

転移でその場の全員を移動させる。

侯爵領に飛ぶ事も出来たが、流石に了承も無く引っ張って来るのもあれなので、転移先はミドルズ公国の僻地にしておいた。


そこには事前に用意しておいた建物ゲストハウスがあるので、話し合いはそこでだ。


因みにこれは大河産のマジックアイテムで、拡大縮小が可能で簡単に持ち運ぶ事が可能なゲストハウスとなっている。

但し重量はそのままなので、一般人が持ち運んだりできないのが玉に瑕だが……まあ、俺やエーツーが使う分には全く問題ないから構わないが。


「あの一瞬で複数人を転移させるなんて……先程の魔法といい……間違いなく賢者レベル――いえ、賢者にだってここまでの事は出来ないはず。貴方は一体……」


ローラが驚きに目を見開き、俺を見る。

魔法使いだからこそ、俺の転移がどういったレベルなのか理解できたのだろう。


「私はコーガス侯爵家に仕える、ただの執事ですよ」


それに対する答えがこれだ。

100年前の勇者とかは、当然名乗ったりしない。

一気に胡散臭くなるから。


まあ俺の力を感じ取ってるアークとニンジャマン辺りは信じるかもしれないが……


「なぜ……なぜ貴方ほどの魔法使いが、執事なんてされているのですか?貴方ならもっと高い地位に就く事も簡単に出来るはず」


確かに、国に一人いるか居ないかレベルの転移魔法使いを超える存在なら、魔法関係のトップに立つ事も容易いだろう。

だがその質問は、俺にとっては愚問極まりない物でしかない。


「コーガス侯爵家が偉大な家門だからです。私の一生を捧げるだけの価値のある」


これに尽きる。

俺の人生はコーガス侯爵家と共にある。

それ以外の選択肢などあろうはずもない。


「こ、コーガス侯爵家はそれだけ素晴らしい家門なのですね……」


俺にとってはベストな回答だったが、ローラにはどうもピンとこなかった様だ。

明らかに困惑顔である。

まあ感覚の共有を行う気は特にないので、理解できなければ理解できないままで構わない。


「ええ、それはもう。さ、では中へどうぞ」


立ち話を続けても仕方がないので、ゲストハウスへと案内する。

未だ意識不明の第三王子を席に着かせる訳にも行かないので、まずは彼を休ませるため別室のベッドへ。


「王子様は私が見ておくわ」


「頼む」


付き添いにはミルラスが残る事になり――信頼関係が構築されていないのだから、お守をつけるのは当然だ――それ以外の四人を俺は会議室へと案内する。


「どうぞお召し上がりください」


全員が席に着き、事前にスタンバイさせていたエーツーに彼らの飲み物を配らせる。

彼女がこの場にいるのは給仕もあるが、それ以上に嘘発見器をやって貰うのが目的だ。


まあ特に嘘を警戒している訳ではないんだが、見抜けるなら見抜けた方がお得だからな。


「……」


出された紅茶に手を出す者はいない。

毒物でも警戒しているのだろう。


助けて貰っておいて?


なんて思うかもしれないが、恩を売って油断させておいて、その隙を突くなんてのは昔からよくある話だからな。

警戒するのは至極正しい行動と言えるだろう。


まあもちろん、俺は毒など入れてはいないが。

簡単に制圧できる相手に、そんなまどろっこしい真似は必要ないし。


「喉が渇いてたので助かります」


とか思ってたら、アークが紅茶に口を付けた。


思い切りが良い。

というより、毒なんて小細工を弄す意味がないって事に気付いての行動ってのが正解か。

俺の力を感じ取っている訳だしな。


「さて、では先程の話の続きと致しましょうか」


「コーガス侯爵家が第三王子を保護する、との事ですが……正直その意図が……」


「親交が深い訳でもない他国の貴族が、何故そんな申し出を?そう疑問に思われるのは尤もです」


条約でのやり取りはあるが、それは過去の貸しを清算しているだけに過ぎない。

なので、決して公国と侯爵家は親交が深い訳ではなかった。


「実際……コーガス侯爵家としては、積極的に公国の王位継承問題に首を突っ込むつもりはありませんでした」


他国の王家の匿いなど、リスクの高い行動を好んでする馬鹿はいないだろう。

そのため、侯爵家が積極的に動くのは理にかなっていない。

だから俺は別の理由を用意ししておいた。


それは――


「でしたらなぜ?」


「端的に申しますと……第三王子様の保護の申し出は、聖女であるタケコ・セージョー様の希望だからです」


――聖女タケコだ。


理由は聖女の良心って事にするのが一番丸い。

タケコは公王の治療のため公国へ行った際、第三王子と懇意にしていた様なので――こちらが意図してそうさせた訳ではなく、公王がそうなるよう誘導していたっぽい――そこを利用させて貰う。


そしてコーガス侯爵家は、領地の事で大きな借りのある聖女に頼まれて動いたって体だ。

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