第63話 打ち出の小槌
「まあまあ、そう興奮なさらずに。ここは私にお任せください」
使者に同行して来た、王家から出されたちょび髭の随行員が口を挟んで来る。
「我々は遊びでここへやってきた訳ではない。ミドルズ公国の使者殿は、国王陛下の許可を受けてここへやって来ているのだ。その意味、貴様にも分かるな?」
王様が許可したんだから融通を利かせて通せと言いたい様だが、というかほぼ言ってる訳だが――
当然そんな融通を利かせる気など更々ない。
「申し訳ありませんが決まり事ですので、通過は確認後になります」
「やれやれ……陛下が許可を出したのだぞ?貴様にはその意味が分からんのか?」
俺の言葉に、ちょび髭がむっとした顔になる。
融通が通らず、貴族である自分の面子を平民が潰したとでも思ったんだろうな。
厚かましい思考の持ち主だ。
「ここに顔を出したのも、コーガス侯爵家の顔を立ててやっているにすぎんというのに」
顔を立てるも糞も、国のルールだろうが。
まあコーガス侯爵家の許可を取らずに、領地に入る正当な方法がない訳でもないが……
「顔を立てた、ですか?お尋ねしますが……通せというのは、王命という事でよろしいか?」
俺はそれが王命かを確認する。
王命は余程の事がない限り、拒否の許されない最優先強制命令だ。
もしこれを出されていたなら、侯爵家に確認する事無く通さなければならなくなってしまう。
優先順位がそちらの方が高いからだ。
ま、絶対ないだろうけど……
そんな物があるなら、余計な事は言わずにさっさと出していたはず。
そもそも、王命はそんな気軽に出せる物でもないしな。
「む。そう言う訳ではないが……」
俺に確認され、ちょび髭が口籠った。
調子に乗ってそうだと答えてくれたら面白かったのだが、流石にそこまで軽率ではなかった様だ。
まあ騙りがバレればほぼ死罪だからな。
当たり前か。
「であれば、確認なしで皆さんの領地入り許可する事は出来ません。確認の間、この砦に滞在して頂くか、もしくはどこかで宿を取ってお待ちください」
「くっ……話の分からん男だ。こんな粗末な場所で寝泊まりする気はない!失礼する!」
「この事はきちんと陛下に報告させて貰うぞ」
怒った使者と、ちょび髭が捨て台詞を吐いて勝手に部屋から出て行ってしまう。
短気な奴らである。
「しかし……堂々と口にするとはな。舐められたもんだ」
砦と言えば聞こえはいいが、急造でこしらえた物であるため簡易的な造りでしかない。
なので、確かに貴族が好んで寝泊まりしたくなる様な場所でない事は事実だ。
だが思うだけではなく口に出したのは、此方を侮っていますと公言したに等しい。
その事からも、コーガス侯爵家の置かれた状況が良く分かるだろう。
「さっさと復興を進めんとな。じゃないと、いつまでたってもあんな屑共に舐められたままだ」
とはいえ、領地発展の為の募集人員は全く足りていない。
人件費を二倍に吊り上げたにもかかわらず。
「まさか国の豊かさに足を引っ張られる事になるとはな」
エンデル王国は豊かな国であるため、貧困層や浮浪者の数が他国に比べて極端に少ない。
そのためか、多少金を積んだ程度で呪いのあった旧魔王領に進んで移住したがる者は皆無だ。
「更に賃金を吊り上げるか。もしくは何か他の対策を……」
ふと、思いつく。
この国が豊かで貧困層が居ないのなら、他所の国から引っ張ってくればいいのではないか、と。
「悪くないな。そのための伝手もわざわざ向こうからやって来てくれたわけだし」
ミドルズ公国にどうやって意趣返しをしてやろうかと考えていたが、ちょうどいい。
奴らには打ち出の小槌になってもらう事にする。
ま、出て来るのは金ではなく人だがな。
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