第52話 話
「なんですって!?」
齎された報告に私は戦慄する。
嫌な予感は確かにしていた。
してはいたが、まさかそれが本当になるとは私自身本気で考えていた訳ではなかった。
心のどこかで、そんな事は起こりえないだろうという気持ちがあったのだ。
だが……
「呪いが解呪されるなんて……」
しかも聖女はかの地に留まり、監視を続けると言っている。
ただ呪いが解除されただけならば、緊急事態と言う程ではない。
問題は魔王様だ。
「……」
魔王様は地中深くで眠っており、特殊な封印によってその存在を感知する事は出来ない様になっている。
なので解呪されたとしても、聖女があの方の存在に気付く可能性は低いと言えるだろう。
だが、解呪というありえない事態が起こった。
なら、もう一度そのありえない事態が起こらないとは限らない。
「バグリッチ様に連絡を!」
私は報告を持ってきた配下にそう命じる。
暗殺の失敗によって優秀な同族を死なせてしまっている以上、私は自分の勘に頼ってこれ以上自分勝手に動く訳にはいかない。
もし次も同じ失態を犯せば、最悪処刑もあり得るからだ。
なので、まずはバグリッチ様に相談し話を通す必要があった。
その行動は拙速を欠くがやむを得ない。
今は聖女タケコが魔王様の事に気付かない事を祈るばかりだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「やはり、退職の意思は変わらないのですね」
「ああ。悪いね。もう年だから体がきつくてね。貯えもあるし、これからは余生をのんびり暮らすさ」
解呪がすみ、屋敷へと帰還した数日後に俺は使用人であるバー・グランと面談していた。
内容は勿論彼女の退職についてである。
バーさんの退職理由は、調べた限りでは不明で、本人の口にした理由が真っ赤な嘘だという事も分かっていた。
だが俺としては深く追求するのもアレだと思い、本人の意思を尊重する形で送り出そうと思っていたのだが……
『お前は冷たい奴だな。コーガス家の人間以外の事はどうでもいいのか?』
バーさんの話をした際に、シンラにそう言われてしまったのだ。
『お前にとって、大切な者を長年支えてくれていた女性だろうに。そんな相手が何か悩みを抱えて退職するというのに、それを当たり前の様に放置しようとは……いや、私との約束を忘れていた薄情な勇者様らしいと言うべきか』
しかも嫌味付きで。
コーガス家の事があったとはいえ、大事な友との約束を忘れていたのは紛れもな事実だ。
なのでそう言われると返す言葉も無かった。
友人に薄情な奴と、思われたままだってのはあまり楽しくはないからな……
だからそれを払拭すべく、行動に移したという訳だ。
バーさんの憂いを取り除くために。
まあ個人的に気になっていたってのもあるしな。
「僭越ながら、体調は魔法で調べさせていただきました。重い病気の可能性もあると思いまして。今なら聖女様に治癒して頂く事も出来ますので」
体調のチェックはさせていただいた。
そう俺は真っすぐに放り込む。
「ですが、健康状態は至って良好でした。ですので……退職の理由は他にあるのではございませんか?」
相手は弁の立つ老齢の女性だ。
回りくどいやり取りで引き出すのは難しい。
ここは正面突破で行かせて貰う。
「……」
バーさんが俺の言葉に、困った様な顔で黙り込んでしまう。
これで素直に話してくれると有難いのだが。
まあそうはいかんよな。
簡単に話せる程度の事なら、そもそも隠して退職などしなかった筈だろうし。
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