第51話 順調
アクレインは癒しと浄化能力を持つ水の精霊だ。
100年前は力不足で真面に召喚出来なかったが、依り代を用意さえすれば今は限りなく100%の状態で召喚する事が出来ている。
そして今の彼女なら、魔王の張った呪いの解呪など容易い物だ。
「フロソフ、ローセキ、ソウクルーダ……」
「凄い……」
「綺麗」
呪いに入ったアクレイン扮する聖女タケコ・セージョーが神聖魔法を詠唱する。
それに伴い彼女の体から清浄な眩い青い光が放たれ、その美しさからレイミーやタケルが感嘆の言葉をもらした。
「エンデル!」
叫びと共に聖女の解呪魔法が発動し、アクレインから放たれた青い光線が上空へと伸びた。
「あれは……」
晴天だった空が、急速に広がる雨雲に包まれていく。
「世界よ!あるべき姿に!」
そしてその雨雲から青い光の雫が、まるで豪雨の様に旧魔王領に降り注いだ。
その光景に圧巻されてか、レイミーと大河が息を飲む。
『この演出に何の意味があるんだ?』
魔王が俺にそう尋ねて来た。
実は、この光の雨は只の演出である。
解呪とは全然関係ない。
俺が派手にやれと頼んでおいたので、アクレインは演出込みの解除を行ってくれているのだ。
『聖女の凄さを見せつける為さ』
地味に解呪するより、こういうド派手な方が力の強弱は一般人には伝わりやすい。
もちろん一般人というのは、後方にいる王家の騎士共。
そして比較的魔王領近くの村に住む住人達である。
聖女はこの後、万一の呪いの再発がないかを見張るという理由でコーガス侯爵領に留まる――侯爵家に身を寄せる予定だからな。
だから聖女の力を可能な限り喧伝しておく。
最強の騎士に。
超越的力を持った聖女。
そしてそれらを抱えるコーガス侯爵家。
正に最高の構図だろ?
王家から騎士達の宣伝しだいでは、そこに執事がかなり優秀な魔術師というのも加わる可能性もあるな。
まあ何にせよ、コーガス侯爵家再出発の狼煙としては上々と言えるだろう。
光る青い雫の雨が止み、天を覆う雲が晴れていく。
解呪終了だ。
「解呪が終了しました」
「ありがとうございます。聖女タケコ・セージョー様」
此方へと振り返り、アクレイアが笑顔でそう告げる。
俺は無駄に壮大だった光景にぼーっとしているレイミーに変わり、感謝の言葉を伝えて頭を深く下げた。
その行動に、アクレイアが少しだけ困った顔になる。
まあ演技とは言え俺は彼女の主になる訳だからな。
召喚者に深くお辞儀されたら、まあ反応にも困るだろう。
「あ、ありがとうございます聖女様!なんてお礼を言ったらいい事か」
俺の行動で意識が現実に引き戻されたレイミーが、慌てた様にアクレイアに向かって礼を言う。
「お気になさらずに。それよりも……この地の解呪が終わったとはいえ、それだけでは不安に思われる方も多いと思うのです。ですので、私が暫くこの地に留まる許可を頂きたいのですが」
「こ、ここにですか?」
「はい。ないとは思いますが、それなら何かあった時にも素早く対処できますから」
聖女の申し出に驚いたレイミーが此方を見てくる。
俺は小さく頷き、彼女の目による問いに答えた。
「宜しいでしょうか?」
「も、もちろんです。聖女様にそう言って頂けるのなら、コーガス侯爵家としては大歓迎です」
「ありがとうございます。レイミー様」
「ではまず、聖女様の生活環境を急いで用意する必要がありますね」
「お気遣いありがとうございます。ですが魔法である程度自力で用意できますので、お気になさらなくとも大丈夫ですので」
「そ、そういう訳にも行きません!」
「ええ、レイミー様のおっしゃる通りです。コーガス侯爵家の名に懸けて、タケコ様には快適な空間を提供させていただきます」
『茶番をしているところ悪いが、一つ思い出した事がある』
茶番をしていたらエーツーが伝音で語り掛けて来た。
『なんだ?』
『魔王城の西側に金の鉱脈があるぞ』
『マジで!?冗談じゃなくてか?嘘だったらぶん殴るぞ』
『そんな無意味な嘘などつかんよ。侵略には必要ない物で放置していたからさっきまで忘れていたが、金は人間の世界では富を生む物のなのだろう?』
エーツーが殴られてまで嘘を吐くとは思えないので、事実なのだろう。
100年前には発見されていなかった金脈があるというのは、死ぬほどうれしい誤算だ。
これでコーガス侯爵家の復興もさらに加速すること間違いないし。
『ああ。大金星だ』
金だけに。
『ポイントは稼いでおかないとな。何せ、いつ落とされるか分からん首に輪っかが付けられている身だ』
エーツーが悪戯っぽい笑顔を俺に向けた。
100年前は知り様のなかった事だが、一緒にいると、案外ユニークな奴だという事が分かる。
シンラはそこが余計に腹が立つと言っているが、俺としては陰気臭い奴よりかはよっぽど好感が持てて望ましい。
さて、ここから忙しくなるな……
希少金属と金の鉱脈の発掘の準備に、聖女の住処にコーガス侯爵邸や居住区の建設。
それに移住民の手配等々。
やる事はくっそ多い。
まあその辺りは十二家筆頭のケリュム・バルバレーに任せる予定ではあるが、流石に丸投げという訳にはいかない。
ので、俺も色々と動く必要が出て来る。
ま、多忙なのは良い事だ。
トラブル対応ならともかく、忙しければ忙しいほど進展していく訳だからな。
嬉しい忙しさって奴だ。
――コーガス侯爵家の復興が順調に進んで行く。
――その事で俺は非常に機嫌が良かった。
――だがこの数日後、俺はある事実を知って激怒する事になる。
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