第48話 女子トーク

「いい面の皮だな」


コーガス侯爵家が宿泊している王都にある高級ホテル。

私は同性という事で、シンラと同じ二等室に寝泊まりしていた。

この4日間は特に口を利く事もなく就寝していたのだが、シンラが唐突に言葉を投げかけて来る。


「首輪を嵌められているのだから仕方なかろう?」


彼女は私が魔王である事を知っていた。

見た目が似ている事を考慮して、タケルが素直に話したためだ。


「貴様には、世界を征服しようとしていた魔王としての矜持はないのか?」


彼女の言葉は刺々しい。

まあ100年前の事とはいえ、敵味方に分かれて殺し合いをしていたのだから当然である。

むしろまったく気にしていないタケルがおかしいのだ。


「父に操られ、先鋒を務めただけだからな。そんな物はない」


私は殆ど洗脳に近い形で支配されていたのだ。

只の傀儡くぐつだった者に、そんなプライドなどある訳がない。


「自分は被害者だから、悪くないと言いたいのか?あれだけの命を奪っておいて、よくもそんなふざけたことが言える物だな?」


「私が被害者かどうかはこの際置いておいて……生物が生きていく上で、他者の命を奪うのは当然の事だと思うが?エルフとて他者を食べているだろうに?」


食べるという事は、他者を傷つけ殺すという事だ。

虫すら手にかけた事のない無垢な者ならばともかく、他者を喰らって命を繋いでいる者に責められるいわれはない。


「私達は貴様の様に無意味な殺生はしない!」


私の言葉に腹を立てたのか、シンラの声が荒くなる。

しかしその答えは的外れだ。


「私も無意味な殺生はしていないぞ?全ては生きる為に必要な物だった」


精神状態的に逆らえなかったというのもあるが、私が生き残る為には大魔王ちちの命令を聞くしかなかった。

そう、世界征服にあたって人間を殺したのは、全て自分が生きる為に過ぎないのだ。

決してそこに恨みや快楽などという物は含まれていない。


「あれだけ大量の命を奪っておいて、よくもそんな言葉をぬけぬけと吐けるな」


「数に意味はないだろう」


「なんだと!?」


「大量に殺したのが駄目と言うなら、どこまでなら許されるんだ?千か?それとも百か?」


殺す事が罪だというなら、そもそも殺した時点でアウトなはず。

ならばその過多にそこまで大きな意味はない。

いくつまでなら何てのは、しょせん各自の都合の良い尺度でしかないのだから。


「なんにせよ、私は生きたかった。そしてそのチャンスが与えられたから、掴んだまでだ。苦情があるならタケルの方にしてくれ」


私を生かすと決めたのはタケルであり、そして生殺与奪の権利を持つのはあいつだ。

首輪を付けられている私に文句を言った所で何の意味もない。

なので、何とかしたいと思うのならその矛先は奴であるべきだ。


まさか自分の行いを恥じて、私が自害する事を決めるなんて、ありえない期待をしてる訳じゃないだろうしな。


「……」


シンラが黙り込む。


この様子だと、とっくに言っているんだろうな。

ならこのやり取りは只の八つ当たりに過ぎないと言う事だ。


「話がそれだけなら、私はもう寝させて貰うぞ」


「……ふん。おかしな真似をしたら容赦はしないぞ」


「くく……その場合、お前さんより早くタケルが私を始末してる事だろうな」


ある程度自由を与えられてはいるが、だからと言ってタケルは別に私の事を信頼している訳ではない。

この環境は、此方が何をしようとも一瞬で終わらせる自信があっての行動だ。


そこを勘違いして、自分の命を投げ出すほど私も愚かではないさ。

そもそも、あいつに殺される様な――コーガス侯爵家を攻撃したいという願望も特にないしな。


魔人達の生き残りがいたという事実が少々気がかりではあるが……


まあ今の私に出来る事は何もない。

自分で生み出しておいてなんだが、なる様にしかならんだろう。

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