第29話 ウェイクアップ

「……ふ……あはははははははははは!マジかよ!完全にしてやられたぜ!」


かつて魔王と決戦した魔王城の大ホール。

その地下から微かな謎の力を感じ取った俺は、探索魔法でその根源を見つけ出す。


発生源は地下にあった大きな空洞。

俺は転移魔法でそこへ移動して、そしてあるものを目にして思わず大笑いしてしまう。


――それは人がすっぽりと入れてしまうサイズの黒い球体だった。


黒い球体からは微かに、本当に微かな魔力が漏れ出ており、俺でなければ恐らく気づけなかっただろう。

そしてその黒い球体の中には、額から二本の角を生やし、竜の様な尻尾と羽を持った女性の姿があった。


「まさか自爆したふりして、こんな所で密かに復活を企んでたなんてな……魔王アスラス」


その球体の中で眠る異形の女性こそ、かつて俺を苦しめた強敵。

魔王アスラスである。


――魔王アスラス。


大魔王コリポレの娘であり、このエデン侵略の尖兵として送られて来た魔王。

その力は強大で、当時の俺では奴を単独で倒す事が出来なかった程の強者だ。


「しかも、随分とパワーアップしてるじゃねぇか」


球体に手を当て、正確に相手の魔力を測定する。

するとそこから感じる魔王の魔力は、以前の倍以上に膨れ上がっていた。

流石に大魔王程ではないとはいえ、これは相当な魔力量と言えるだろう。


「ま、でも俺の方がもっと強くなってるけどな」


なんなら目覚めるまで待って――


『ざーんねん、勇者君の方がもっと強くなってました!』


――とかやったら面白そうだなと思ったが、まあ止めておく。


仮にも勇者だからな。

そんな悪趣味な真似はしない。


「さっさと始末するのが順当なんだろうが……そうだ、あれをしよう!」


そのまま処分するのはもったいない。

そう思い、その豊富な魔力を利用して生贄炉サクリファーネス化する事を俺は考えつく。


生贄炉サクリファーネス

それは魔族を封じ込め、魔力を生み出すエネルギー源にする大魔王の生み出した外法だ。


魔界はこのエデンより、科学技術が相当発展していた。

そしてそのエネルギー源となっていたのが、大魔王によって用意された無数の生贄炉サクリファーネスである。


「魔王は並の魔族とは比較にならない程の魔力を持ってるからな。利用すれば、このコーガス侯爵領の発展に大いに役立ってくれる筈だ」


なにせこっちには、制作チート持ちの転移者がいる訳だからな。

そのエネルギーを使ってこの辺り一帯が、エンデル王国最大の繁栄を誇る日が目に浮かぶ様だ。


因みに、最初は俺の魔力でって考えていたのだが、こんな所に野生の魔王が落っこちてたんだから利用しない手はないよな?

魔力を余計な事に裂かなければ、それだけ分身の質や数を増やせる訳だし。


「とは言え、流石にそれは哀れか……」


生贄炉にされた者は生ける屍として、命尽きるまでただひたすら魔力を吸い上げられるだけの状態になる。

その行為は残酷そのもので、だから外法と呼ばれているのだ。


「別段、こいつに恨みがある訳じゃないし」


魔王は侵略当時、大量の人間を殺している。

だがその中に俺の友人知人は元より、コーガス侯爵領の領地民も含まれていない。

戦場から離れてたからな。


え?

知り合いさえ殺されてなかったらいいのか?


いやまあ、当時はなんてひどい真似をしやがると憤りは確かにしたけど……


ぶっちゃけ、所詮顔も知らない赤の他人だしなぁ。

100年も経ったら、流石にそのテンションは霧散するって。

だから今更そいつらの仇として、魔王を苦しめてやろうって気にはなれない。


なにより――


「こいつは魔族として、大魔王の命令を実行していただけだからな」


魔王は確かに強敵ではあったが、戦いの最中に邪悪さみたいな物は一切感じなかった。


寧ろ、感情のない人形の様な感じの……


今考えると、アレは精神支配されていたんだろうと思う。

大魔王の側近――奴の血を引く子供や孫――なんかも全部、似た様な感じだったし。


大魔王おやに操られて人間界に攻め込んで。100年かけてやっと復活しようとしたら、生贄炉サクリファーネスとして死ぬまで利用される」


そんな人生、俺なら発狂物だ。


まあ側近共は大魔王との戦いのさなかで余裕がなかったから問答無用でぶち殺してはいるが、今の状況なら、魔王一人程度どうとでもなる。


そう考えると――


「コーガス侯爵家復興に一役買ってくれてる訳だし、自由にしてや……いやでもそれは流石に不味いか。何かあっても処理できるとは言え、今の魔王の力で隙を突いて暴れられたら周囲に被害が出かねないからな。んー……よし!ここは折衷案で行こう!」


俺は魔王の眠る球体に手を当て、その中に魔力を送った。


眠り姫ならぬ、眠り魔王を叩き起こすために。

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