第28話 魔王様様
強烈な呪いにさらされる中、俺は目の前の城を眺めて呟く。
「魔王城はそのままで残ってるな……」
王家に魔王城跡一帯を買い取りたいと打診をしたら、交渉が難航するどころか、逆に無償で供与するという返事が返って来た。
その意図が分からず、手放したい理由でもあるのかと現地に確認しに来た訳だが、特にその原因の様な物は見当たらない。
「どうやら、単純にコーガス侯爵家の復興を支援してくれるつもりの様だな」
大した支援ではないので感謝感激とまではいかないが、王家にちょっとした借りが出来た形にはなる。
「しかし、懐かしいな……」
100年前、この城で俺と魔王は激戦を繰り広げた。
相棒と共に。
「あいつはエルフだし、まだ生きてるんだろうな」
――共に魔王を倒した相棒はエルフだった。
基本的にエルフは大陸北部にある世界樹周りから出て来る事はないのだが、流石に魔王討伐の時だけは、引きこもりのエルフ達も戦いに参加している。
人類が負ければ、次は彼らの番なのだから当然だ。
「一応帰還の挨拶でも……ま、いらないか」
そこそこ仲良くやっていたつもりではあるが、所詮森に引き籠るエルフと人間とではお互い生きる世界が違う。
100年ぶりに帰還の報告とかしにいっても、下手したら『勝手に聖域に入って来るな』とか言って怒られそうだし。
「中も変わりなし、と」
魔王城の中へと進む。
特に用がある訳ではないが、昔の事を思い出したら懐かしくなって……まあ何となく。
「ま、当たり前か。こんな呪いまみれの場所に入って来れる奴はいないだろうからな」
呪いに汚染されたこの一帯は、当時の俺ですら長時間留まるのが危険な場所だった。
勇者の俺がそうだったのに、誰がこの城にまでやって来れるというのか?
まあ今なら、鼻歌を歌いながら小一時間スキップする事も楽勝だが。
いやー、ほんと強くなったわ俺。
「ここで魔王を倒して……」
魔王と最終決戦を行った場所。
魔王城の大ホール。
周囲には、激戦を物語る傷跡が当時のまま深く刻み込まれている。
俺はその時の事を思い出す。
本当に激しい戦いだったのだ。
「魔王には苦労させられたが……まあでも、魔王には感謝しないとな」
魔王は死の間際、自らの命と引き換えに呪いをばら撒いた。
その結果、この辺り一帯は生物の立ち入れない禁忌の地と化したのだ。
――そしてだからこそ、こうして容易く手に入れる事が出来ている。
コーガス侯爵家復興の足掛かりとなる領地を。
「いやホントグッジョブだぞ。魔王」
この辺りは、オリハルコンなんかの超希少な鉱物が取れる地域となっている。
呪いのせいで手つかずのままだったその場所が、こうやって丸々コーガス侯爵家に入って来るのだ。
正に魔王様様である。
「その功を以て、お前のエデン侵略の罪を全て赦そう!なんてな」
世界を救った勇者とは言え、流石にそんな権利は俺にはない。
そもそも、もう100年も経っているのだ。
今更罪も糞もないだろう。
「……ん?」
ホールのど真ん中。
魔王が自爆した辺りまで歩いた時、微かだが俺は違和感を感じた。
「足元になんか……」
足元から来る違和感を調べる為、俺は神経を集中させる。
「いや、もっとずっと下か」
そして違和感の原因とも言える何らかの力が、この地下にある事に気付く。
「調べてみた方が良さそうだな」
何だかよく分からない力。
それが有害かどうかをハッキリさせる必要がある。
「もしやばそうなら、ちゃちゃっと処分せんと」
これからコーガス侯爵家の領地として発展させる地に、危険物は不要だ。
俺は地面に手を付き、そして地下に向かって探索魔法を発動させる。
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