第25話 勧誘
「貴方と同じでね。御子柴大河さん」
三年ほど前。
大魔王軍との戦いのさなか、100年以上ぶりに神からメッセージが俺の下に届いた。
それはとても簡潔で――
『エデンに日本人一人送ったから、余裕があったら面倒見てやってくれ』
――という物だった。
いや、魔界で生きるか死ぬかの戦いしてる最中にそんな事言われたって……
まあ無理。
が、俺の出した答えである。
そして大魔王を倒したころには、その神のメッセージは俺の頭から綺麗さっぱり消え去っていた。
なにせ本当にきつい戦いだったからな。
そんな戦いの最中に送られて来た軽いメッセージを覚えている訳もない。
そしてエデンに帰還し。
コーガス侯爵家の現状を知って。
立て直そうと動き出した時になって彼の――御子柴大河の存在に気付く。
別に異世界人同士のシンパシーを受けた訳でも、秘められた強大な力を感じ取った訳でもない。
単にレイミーの身辺調査をしていて、偶々その中に不自然な人物――異世界人っぽい奴がいたからだ。
三年以上前の過去が分からず。
統一言語を用いるエデンで、当初言葉が理解できていなかった事――実は俺もだが、言語チートは貰えていない。
そして極めつけは名前――御子柴大河である。
そりゃ気づくわな。
三年前に神から連絡のあった同郷人だって。
俺といい。
こいつといい。
その事に気づいた時には、異世界人と関わるのはコーガス侯爵家の因果なのだろうかと思った物だ。
因みに、気づいてからこれまで彼を放置していた訳ではない。
ずっと様子見していたのだ。
信頼できるどうか。
そして取り込むに値するか人間かどうかを。
それを見極めるために。
同郷ってだけで、無条件で信じる様な年齢でもないからな。
「あの……本当に……その……タケルさんは……」
「ええ。地球にいた頃の名前は
「ああ……僕だけじゃなかったんだ。僕だけじゃ……」
御子柴大河が涙ぐむ。
彼も俺と同じで、神によって適当にこの世界に放り込まれた系っぽいので、苦労して来たのだろう――コーガス侯爵家に拾われた俺の方は最初以外そうでもなかったが。
同郷の人間に会えたのが、嬉しくて仕方がないって感じだ。
「ああ、君は一人じゃない」
俺は御子柴の肩に手を置き、優しくそう言ってやる。
彼の苦労をねぎらう様に。
そして――
上手く利用する為の好感度を上げておくために。
「タケルさん……」
彼の潜在的チート能力は戦闘向けではない。
製造関連の物だ。
もし上手く雇用して利用できれば、コーガス侯爵家復興に一役買ってくれる事だろう。
そのためには、同郷の先輩として優しくしてやる必要がある。
好感度を上げるために。
まあ御子柴はレイミーに惚れている様なので、そっち方面を利用するだけだけでも十分な気もするが……
恋心なんて物は、フワフワしていつ心変わりするか分からない物だからな。
そう考えると、それのみに頼って長期間利用するのはリスクが高すぎるのだ。
……まあ勿論、その感情も利用させては貰うが。
「御子柴君。もしよかったらだが、この屋敷で働く気はないかい?」
「え?」
「レイミー様から聞いているとは思うが、今コーガス侯爵家は再興を目指している。だがその為には、信頼できる人材が必要だ。だから同郷であり、信頼できる君に私の下で働いて欲しいんだ。そう、レイミー様の為にも」
レイミーの為である事を強調しておく。
「僕が信頼できる……それに、レイミーの為に?」
「レイミー様は現在、当主代理として頑張っている。だが彼女はまだ16歳の少女でしかない。信頼でき、支えてくれる人間が必要不可欠なんだ。だから君の力を貸してくれないか?」
「レイミーの支えに……でも、僕は貴方と違って何の力もないんです。そんな僕が本当に役に立てるでしょうか?」
御子柴が自信なさげにそう言う。
その言葉に俺は眉根を顰めた。
確かにまだ覚醒前で力は使えない様だが、力自体は確かに彼の中に存在しているからだ。
ひょっとして、御子柴は自分の中に特殊な能力が眠っている事を知らないのか?
「御子柴君。君には神から与えられた力があるんだが……ひょっとして知らないのかい?」
「ぼ、僕にですか!?」
御子柴が俺の言葉に驚く。
どうやら本当に知らない様だ。
彼の中で眠っている能力は、普通では絶対に手に入らない力。
神から与えられたチート能力で間違いない。
にも拘らず、彼が知らないって事は……
神は御子柴にその事を伝えていない?
なぜ?
まさか伝え忘れたとか?
そんな馬鹿なと思う反面。
いい加減な神なので、絶対ないとは言い切れない物がある。
「この世界に来る時、神様から何も聞いていないのかい?」
「神様ですか?えと……僕、神様とか知らないんですけど」
「……」
いや神自体知らないのかよ!
どうやら潜在能力以前に、彼は何も伝えられずこの世界に放り込まれた様だ。
滅茶苦茶しやがるな。
因みに、神が関わっていないという可能性はない。
彼の中で眠る能力はどう考えても神由来の物だし、なにより、御子柴の事を神は俺に頼むって言って来てるからだ。
関わっていない訳がない。
「ふむ、まあその話は後でするとして……端的に言うと、君の中には特殊な能力が眠っているんだ」
「僕の……中にですか?」
「ああ、転生チート――いや、君の場合は転移かな?とにかく、制作関係のチート能力が君の中では眠ってる」
制作関係とふわっと言ったのは、覚醒前だとそれがどういった方向性か分からないからだ。
薬なのか、武具や錬金術といった細かいジャンルが。
「ほ、本当に僕の中にそんな力があるんですか!?」
座っていた御子柴が目を輝かせ、興奮気味に立ち上がる。
まあ何もないって思ってた自分にチートがあるって分かれば、そりゃ興奮するよな。
「ああ。そして私なら、君のその潜在能力を引き出す事も可能だ」
引き出してやるから、コーガス侯爵家の為に馬車馬の様に働いてくれ。
とは思っていても、もちろん直には口に出さないぞ。
大人だからちゃんとマイルドに伝える。
「出来ればその君の力で、コーガス侯爵家復興の手伝いをして貰えると有難いんだが……レイミー様の為にも、どうか引き受けてくれないか?」
「僕に本当にそんな力があって、それがレイミーの役に立つんなら……喜んで」
「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」
制作チートゲットだぜ!
という心の叫びをおくびにも出さず、俺は笑顔で御子柴に向かって握手の為の左手を差し出した。
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