貴女のねこの躾け方

@kurakusyun

英国貴族

私の自慢の白磁のような肢体が見る間もなく散り去ってしまった山桜のようにさぁっと色づいた。


 全身に走る快感に思わず眉を顰めて唇をかみしめる。つい先ほどまで同じようにお尻をぶたれる苦痛に眉を顰めて唇をかみしめていたというのに。


 快感と苦痛。全く同じ耐え方をするのは何故だろうか。


 海原に浮かぶ頼りない小舟のように、激しい官能の波に揺らされながら頭のどこかでぼんやりとそんなことが浮かんでいた。


 


 ご主人様はケインで打った私の丸い白桃のようなお尻に舌を這わせた。


 そうなるだろうことは分かっていたが、鋭い痛みと生暖かい刺激にベッドに預けた私の身体は跳ねるようにびくりと震えた。羞恥と快楽で薄紅色になっているであろう、背中が自分でも押さえられずにびくびくと波打つ。




「あっ、くぅ、痛ぃ、いやぁ…お尻痛いぃ…あ、あ…ゆるして…」 




 苦痛と官能の声を上げてさらにご主人様を喜ばせる。嫌よ嫌よも、好きの内。


 弱々しく許しを乞う声はお客様を燃え上がらせるキーワードの中でも断トツの効果がある。しかし困ったことは、上手すぎるご主人様のせいで私は真っ白になりそうなのほど感じてしまっていることだ。




「粗相をするからでしょ?悪い子ね。ほらお尻」 




 ほら、案の定腰を抱えられた。四つん這いに無理やりさせられてお仕置きの痕が生々しいお尻を突き出させられる。羞恥と痛みで目尻から涙が零れた。


 ご主人様の膝の上に乗せられて平手でお尻をぶたれ後にケインでも叩かれたのだ。紅く腫れ上がったお尻に蚯蚓腫れが重なっているだろう。


 ズキズキとする熱を持ったお尻に指と舌を這わされる度に、背が弓なりにしなり、私の下半身がそれ以上の熱で潤っていくのが恥ずかしい程に分かった。 


 


「ゆるしてください…ひっ…そこ…いたいの…」




 私はお客様に仕えること、叱られることに悦びを覚える体質らしい。まぁ、だからこそこの仕事が務まるのだけれど。


 Mかと言われれば限りなくMだが、でもM嬢ではない。大事なのは怒られること、冷たくされる事ではない。愛情を持って叱られることだ。


 私は72時間「お買い上げ」のご主人様に悪い子だと粗相を叱られて、お仕置きをされて、そして存在の全てを許され愛されることに激しい官能を覚えていた。仕事でもダメなときは、ダメ。イイときは、イイ。


 それでも私もプロなのでお客様が誰であろうとも喜びそうな粗相を冷めないように、わざとらしくならないようにする。お客様も私を大事なペットとして扱うので叱りはすれども虐待はしない。許しが出たらひたすら甘える。


 


 お客様が欲しがっているのは軽い共依存だ。一方向にしか向かない絶対的愛情(時間限定、有料だけど)と、甘えられることで自分がいないとだめだと思える。最強の癒しを貴方に、ペットセラピー(人型)という訳だ。


 イタズラ仔猫にツンデレにゃんこ、天然野良猫か、それとも素直だけど気弱な血統書付き?


 叱られたらしょんぼりして涙目で上目遣い。どれでも私はなれますけどね。


 だって、私は「ねこ屋」だから。






 ねこ屋の朝は早い…わけはなく、だらだらごそごそと与えられたベッドでゆっくりと惰眠を貪る。ご主人様はお仕事中のはず。いくらねこ屋でもペットになりきって邪魔などしない。さすがに空気は読む。ご奉仕こそ我が使命、疲れに気付かない時こそ少し邪魔をして優しく叱られるのがお仕事だ。


 


 外は深夜未明からの豪雨だ。


 ノアさん、ノアさん。全てを洗い流してくれませんかね?原罪も業も。


 白い霧に包まれたような街を窓から見下ろす。せっかくの高層階もこれじゃあもったいない。


 もっとも、叩きつけるような雨が降っていてもそれほど寒さは感じない。季節が春から夏へと変わり始めているのが分かる。ほとんど外に出ない生活を始めてるうちにいつの間にか立夏になっていた。


 ご主人様にぽいぽいと脱がされたブラとTシャツをのろのろと身に着ける。


 昨日来ていた服は剥ぎ取られてキングサイズのベッドの下に散乱しているので、ベッドの横のクローゼットから新しい服を出した。クローゼットの中には全く同じメイド服がびっしりと十着並んでいる。


 何故かお尻がギリギリ出ないくらいのミニスカートの恐ろしく生地の良いオーダーメイドのクラシカルメイド服。しかも、ショーツは用意されていない。フェチが過ぎますよ、ご主人様。


 その服しか着ることを許されていないのだけど、特に寒かったり暑かったりすることはない。部屋の中は何月であろうとも快適に過ごせる温度になるようにAI管理されていた。


 




 私の今回の「ねこ小屋」は40階建て高級タワーマンションの最上階ワンフロアぶち抜きのワンルーム。


 大昔の漫画かドラマでこんな部屋があったような気がするけど、一体どれだけお金が掛かっているのか分からない。多分馬鹿げた分厚さの見たこともないような札束が使われているのだろう。


 大きな一枚窓の横にキングサイズのベッドがあり、部屋の真ん中に一番大きなソファセットがあり、壁際にカウンターバーがあり、仕事用の大きな執務机がある。その他にも書棚のスペース、畳を敷いたスペース、シアタースペース、トレーニングスペースなどここだけ昭和バブルのような錯覚を覚えるくらい。


 


 私は着替えを済ますと少し伸びをして残りそれくらいだろうと理解しながらも、確認の為に左腕のお気に入りのスマートウォッチを見た。残り時間が08:14と出ている。


 アナログ風の皮ベルトなのにデジタル表記というのが最高のギャップの一品。リンゴのメーカーよりは高くないし、デザインが一目で気に入ってここにお仕事に来る前に店頭で購入してきた。


 まぁ、仕事開始の挨拶をしたとたんにご主人様にこれを見咎められて「私のプレゼントは受け取らないくせにと」ちょっぴり理不尽なお尻叩きを受ける羽目になったのは、私の考えがそこまでが及ばなかったのが悪い。


 恐ろしいくらいの超お金持ちで、常連さんのご主人様は時計やバッグや車や果ては家までくれようとするが、それを私は一切受け取らない。たった一人のお客様を特別扱いするのはマズいから。かといって全部を貰うのも違う。


   


 もう少し詳しくご主人様の話をしよう。


 何がそんなに好きだったのか知らないが、私が知り合いの店長にヘルプを頼まれて数週間だけ勤務した、とっても(裏)な女性会員限定のメイド喫茶。


 そこに足繁く通っていた金髪碧眼の小説の登場人物のような美貌の如何にもといった超セレブの外人さん。日本語は帰化した人よりもよほど流暢なほど。


 ヘルプの初日から毎回指名されていたので気にいってはもらえていたのだろうが、ヘルプもそろそろ終わろうかというとある日、官憲の諸事情によりメイド喫茶が潰れた。


 私の本業も限りなく、いろんな意味でブラックな為お上の手入れには慣れていた。


 素早くトイレの窓からパンツ丸見えなメイド服を翻し大ジャンプ&猛ダッシュで逃走した私と彼女が二度と合うはずもなく、私は「監視カメラに映らないオンライン地図」を駆使して着替えながら徒歩で自宅へと帰り着いた。




 違法風俗店摘発というオンライン新聞の隅に乗る程度の小さな出来事だったが、次の日一見さんお断りの高級ねこ屋の私に一体どういうネットワークを使って辿り着いたのか、常連さんになった今でもわからないが直接私のスマホにメッセージを送ってきた。


 最初は警察かと怪しんだが、証拠になるようなものは残していなかったし、何回となく私とシていたのだからそれはないかと思い、誰のご紹介も無い方はお断りしておりますと返事だけはしておいた。  


 


 そうするとさらに次の日、なんと私の家にやってきたのだ。直接。掛けたはずの扉の三重ロックを開けて。


 危なくヤクザの女組長に護身用にと買い取った22口径をぶっぱなすところだった。


 クレイジー・サイコ…なんとやらと口に出かけたがそれはやめておこう。


 しかも、彼女はぷりぷりと酷くお冠で。一見とは何事なのと。何度となく会って身体を交わしたはずでしょうと。


 そうだけども、違うそうじゃない。こちらが起こるタイミングをすべてすかされた。何というほにゃららサイコ・レズ。これも止めておいた。


 結局根負けした私が彼女、ご主人様を新しい顧客に加えることを同意して、契約書と誓約書にサインと拇印をお互いに交わした。しかし、親指をかみ切って血判を押された時はそれなりにこの街で違法な仕事をしている私でも引いた。日本の勉強しすぎでしょう、間違った方向に。




 


 それでも文句を言いにくかったのは、相手は背中にこれまた美人のボディガードを引き連れた正真正銘のセレブだったからだ。


 世界長者番付にのるくらいの資産を今も有している英国の世襲貴族の生き残りで、英国内の不動産取引と世界中のホテル経営でその名前を私でも知っていた。


 ここまでして私が断ったとしたら身の危険とまではいかないまでも、死ぬほどめんどくさいことになるだろう。受けたとしても墓場まで持っていかなければならない秘密が増えるだけなのだが。 


 まぁ、もっとも。


 ご主人様は生半可な芸能人など歯牙にも掛けない美貌の持ち主で、金糸のような髪の毛をなびかせながら、ディープサファイアみたいな瞳で強気に言い寄られて誰が断れるのか知りたいものだ。


 それが例え、ドSで躾に厳しくてお仕置きが好きで毎日のようにお尻がヒリヒリと痛くなっていたとしても。愛情深いことは間違いなく、契約もルールも守っているし、理不尽なことは言わない。いや、とても意地悪ではあるんだけど。エロいし。






 「コウーッ!」


おっと、ご主人様がお呼びだ。本当は私の下の名前は紅くれないだけど、外人さんには難しいようで。


 少し言うことを聞かない子が好きなお客様の場合は何回か無視するのだけど、ご主人様はどちらかといえば従順な子がお好き。素直に御前に飛んでいくのが正解だ。


 はぁいと返事をして足首の沈みそうな絨毯を踏みしめて仕切られた仕事用のスペースへと向かおうとすると、玄関でピピッというドアのロックが解除された音がした。


 ドアを解除できるのはご主人様と管理会社だけ。恐らくご主人様がリモートで解除したのだろう。


 察しが悪いようでは癒しと愛をお届けする人型ペットは務まらない。このパターンはブランチにはまだ早いので注文したお茶を受け取っても持ってこいということだ。


 読みが外れたら少し怖いので足早にインターホンのモニターを見てみると、私と同じようなクラシカルなメイドがお茶を手にじっと微動だにせずに佇んでいた。ただし、スカートは普通のロングだ。


 最上階は全てご主人様の自宅。そして下の階の内、二部屋もお買い上げ。私も料理や身の回りのお世話はそれなりに出来るのだが、貴女は私の言うことだけをしなさいと言い渡され、コックとメイドを待機させて必要なものは電話かメールでご注文というわけだ。


 正解を導き出した自分を自分で褒めてやりながら、急いで玄関へと急行する。


 タッチパネルでスライド式の自動ドアを開けると、ご主人様が好きそうな褐色金髪のメイドさんが目の前でカートの上でポットにお湯を注いでいた。


 この人はお茶用のメイドさん。一番紅茶を入れるのが上手い。褐色メイドさんは一滴も零すことなくお湯を注ぎ終えるとタイマーのスイッチを3分にセットした。紅茶は少し蒸らすのが美味しく飲むコツ。


 真面目な表情で鳴り終わるまで少々お待ちくださいというとクラシカルなメイド服の裾を少しつまんで見事なカーテシーをして去っていった。


 ご主人様のお手付きであることは間違いなく、それでも私に嫉妬や敵意を一切見せない辺り、超一流のメイドさんとして感情のコントロールが完璧なのだろう。さすがだなぁ、と私はドアの外へ首を伸ばして彼女の左右揺れるお尻をじっと眺めた。




「撫でたいお尻…まんまる」




 タイマーの時間が残り1分半になるまでじっと彼女の後姿を見送っていた。




















「鞭打ち1ダース」




お待たせしました~と笑顔でカートから引き揚げてきた純銀製のトレイを持ってご主人様の仕事部屋に入っていった。そんな私を待っていたのは不機嫌と顔に大きく書いてそう告げる私の現在のご主人様が、最高級バロンチェアにギシギシと身体を預けて横目でこちらを睨みつけていた。




「な、何故!?」




「遅い…玄関で受け取ってから1分半は早く持ってこれたでしょう。怠けていたわね?」




 なんて鋭いお方。褐色のお尻がとは言えない。本気で我がご主人様がお望みならそれも仕方なのだけど、これは私に意地悪をしてストレス発散をしているだけ。仕事用の机の上がちらりと見えた書類がぐしゃぐしゃに握り潰されているところを見るとオンライン会議は腹に据えかねることがあったのだろう。こういう時こそ私の出番である。


 


 「私は貴女の可愛いねこですよ?ペットが何でもこなせたら可愛げがないでしょう?」


 


 「あら、私は完璧に言うことを聞く従順な子が好きよ?知っているでしょう?」


  


 執務机を半円状に囲む英国製ソファセットに怒りを含んだご主人様の豊満なお尻がどっかと下ろされる。私はそんなご主人様を刺激しないようにゆっくりとローテーブルにトレイを置くと丁度タイマーが鳴った。


 本当にケインを持ってこられては困るのでいそいそとポットからカップへと王室御用達のブランドの最高級ダージリンを注いだ。どちらかといえば砂糖たっぷりのコーヒー派の私でもこれだけの芳醇な香りを漂わされては紅茶派に鞍替えしそうになる。


 もっとも、身体を張った高給取りの私でもこれだけの高級茶葉を惜しげもなく毎日のようには飲めない。


 私のお客様は大体そうだが色んなものを犠牲にしてそれをお金に変換している。その隙間を埋めるのが私の役目。




「酷いですね、私は従順じゃないですか。この身体も心も貴女のもの。厳しく躾けるも甘やかすもご主人様の思いのままです…」




 言いながら砂糖を少しだけ入れたカップを出来るだけ音を立てないようにご主人様の左側に置く。そのまま自分の頬をご主人様の頬へ擦るつけるように近づけた。


 眉間の皴が消えることはなかったが、跳ねのけられなかったところを見るとセーフだったみたい。


 好みやしてはいけないことはとうに頭に入っている。距離感もお客様によって様々。ご主人様には叱られる口実を与えつつも、甘えるのが正解のはず。私がわざとやっていることはご主人様だってうすうすは分かっている。ええ、大人ですから。




「ああ、美味しい…。ふぅ…コウ、そこに跪いて。猫みたいに」




「はい」




 お気に入りの紅茶を摂取して先ほどまでの仕事のストレスが幾分薄れたのか、口元には僅かに笑みが零れてた。意地悪そうなやつだけど。


 私は言われたとおりにソファに腰かけるご主人様の足元に丸くなった猫のように跪いた。微かに怯えを含ませた上目遣いで見上げることは忘れない。




 「…何て深い黒瞳。ダークネスね…夜の闇みたいな色。美しい猫のようなしなやかな身体に黄金律に整った美しい顔。こんな主の造りたもうた至高の美に極東で出会えるなんて…」




 まぁ、身体と顔だけが自慢ですから。


 じっと私を見下ろしていたご主人様がさらりと金糸の髪をかき上げた。三日月みたいに開いた紅い口。蒼の瞳が煌々としていた…嗜虐心が身体から溢れている。うん、機嫌が戻ったようで何よりです。


 ゆっくりと足先で私の太腿が擦られる。それが上に登り、ただでさえ短いスカートが腰まで捲り上げられた。


 というか、私は伏せの状態になっている。私はショーツを履くことを許されてない。もう、最初からお尻もアソコも後ろから全部丸見えだ。誰にも見られることがないのが救いだが。




「私は従順な子が好きだって言ったのに口答えしたわね?貴女が言って良いのは、イエスのみじゃないの?」




「はい、ごめんなさい…」




 顔の横のご主人様のふくらはぎに頭を寄せながら弱々しく怯えるように謝罪する。それがご主人様を燃え上がらせることは分かっていながら。




「何て悪い子なの。お膝に来なさい」




 ご主人様は足を組むと膝をポンポンと叩いて私を呼んだ。


 先ほどと決定的に違うのは怒りのままお仕置きされるか、躾とプレイ半分半分でお仕置きされるかの違い。こちらの方がよほど健全だ。怒りは何も生まない。




「はぃ…」




 ご主人様の組まれた膝の上に乗せられるとお尻が強制的に高く突き出されて 


、丸出しのお尻がすっかりご主人様に見られてしまっている。


 いまさらだが、それでもセックスで裸になるのとは訳が違う。お尻を叩かれるためだけに剥き足のお尻を晒しているのだから。何千回、何万回とお仕置きをされてきていても、この瞬間だけはなれることはなくどうにも恥ずかしい。


 ご主人様より頭一つ分小柄な私は不安定な体勢になってしまい、どうにかご主人様の足に掴まりどうにかお仕置きに姿勢を崩さずに済んでいる。




「ふふっ、まだ昨日のケインの痕がしっかり残っているわね。でも躾は必要だもの。終わったら可愛がってあげるからね」




 鏡で見たら私のお尻にケイン打ちの蚯蚓腫れが薄く残っていた。打たれた直後の鋭い痛みは消えていたが、手で触ればまだ鈍く痛みがある。でも今からその上から痛みを重ねられて、お尻が腫れ上がるのだと思うと重低音の自分の心臓の音が耳元で鳴っている気がした。


 


「いくわよ」


  


 高く掲げられたご主人様の平手が振り下ろされて私の尻肉を潰す。渾身の力が込められていたのかびりびりとした痛みを発している。お尻には紅い手の平の痕がしっかりとついたはずだ。




「…んっ!」




 ゆっくり力を思い切り入れてお尻を打っている。今度は左半球が弾けた。右尻、左尻にくっきりとした手形が浮かんでいるだろう。




「あっ…!」


 


 お尻の割れ目に強い一打が降り下ろされる。お尻に紅いまだらの紅葉が幾つも付いているに違いない。


 鞭打ちのようにゆっくりと聞こえていたご主人様の平手の音が、徐々に乾いた音を立ててリズミカルになっていく。




「あっ…!いぃっ…!いたっ…!」


 


 私の柔らかなお尻を叩く乾いた音と私が上げるくぐもった悲鳴、打つたびに波打ち蠢く丸い尻肉。それらのコントラストがご主人様を興奮させだしているのが熱く燃えるような膝から伝わってくる。


 そして、私もジンジンとするお尻から伝わる熱が下半身を疼かせた。




「あっ…あっ、くぅ…痛ぁいっ…」




 交互に打たれていたかと思えば連続で同じ場所を打たれる。お尻にじんっとした痛みが残って消える前に同じ場所を打たれる辛さは私はしだいに身を捩ってしまう。




「こら、じっとしていなさい」




 バチィンッ!と甲高い音ともに打たれた一打に私の身体はびくりと震えて全身を強張らせた。涙が目尻に溢れて鼻の奥がつんとした。




「ひっ…!ごめんなさいぃ…」 


 


 憐れっぽく鳴いてみせる。でも痛いのは本当。次々に加えられる打擲に私のお尻は紅く染まっているだろう。これは百叩きコースですね?


 身を縮め、膝をこすり合わせてどうにか必死にお尻に与えられる痛みを我慢した。


 ご主人様はお尻の叩き方を十分に心得ていて、同じ場所を正確に連続で打ちつけてくる。どれだけ慣れていてもその厳しい打ち方に私は、紅く染まった双丘をくねらせ、蠢き、身を捩ってしまう。


 小さく悲鳴を上げながらご主人様の膝の上で跳ね馬のようにお腹を膝に打ちつけて踊る。 




「あぁ…ごめんなさいぃ…ゆるしてください…ひぃ…」




 真っ赤に腫れあがったお尻をくねらせながら泣いて許しを乞う私の姿にご主人様の下半身が熱く甘く痺れているのが、熱を持って伝わってきている。


 同時にじんじんとしたお尻の痛みとご主人様のお叱りの声に、私も切ない想いが全身を駆け巡りだしていた。


 


「…雪の肌に紅い華が咲いたわ。道具は使ってないからそこまでズキズキはしていないでしょう?さぁ、ソファに膝をついてお尻を見せなさい」




 手を止めたご主人様は赤く腫れあがった私のお尻を楽しむべくそう命令した。


 平手とはいえ百叩きは辛い。道具みたいに残り続けるような痛みではないけれど、打たれている間は本気で涙が出てくる程度には。


 指で涙を拭きながらソファに膝立ちになる。勿論、ミニスカートの裾を持って、お仕置きの痕を良く見て頂けるようにしなければならない。


 


「良く、反省できたかしら?」




「はい、口答えのお仕置きありがとうございます…」




 明るい照明の下で私のお尻が晒される。恥ずかしさが消えることはないが、じっとしていることがご主人様の望みだ。


 




「ふふ、良い子ね。従順な子は大好きよ。その為に私もこんなに手を腫らしたのだから」




 実際問題、手の平と尻肉では尻肉が勝つ。百回もお尻を叩けば手の平の痛みはお尻の比ではない。慣れないものなら百は無理だろう。


 だから平手のお尻叩きには愛情があると私は思うのだ。自らの苦痛に耐えても躾をするのだから。 


 


「申し訳ありません…あぁっ!」




 首を捻って謝罪の言葉を言い終わると同時に、ご主人様の片方の手が私の頭を撫でながら、もう片方の手の指が私のお尻の割れ目で蠢いた。


 その様子が執務机の上にある三つの大画面ディスプレイに映り込んでいるのが横目に見えた。自らお尻を差し出してご主人様に恥ずかしい部分を弄ばれているところが。さすがに羞恥の熱が体中を駆け巡り、頬、耳へと上がってきて涙がじわりと溢れた。




「今度はご褒美ね。頭撫でられるの好きだものね」


 


 痛みの残滓の残る双丘とその奥を少し乱暴に指先が這う。その一方で頭を優しく慈しむように撫でられて、私は仕事も忘れて本気で快感に身を委ねていた。 




「あ、あ、いやぁ…」




 耐えられずにソファの背もたれに身体を預けると、ご主人様は本格的に私を責め始めた。紅く染まり腫れ上がったお尻と、その割れ目から見えている繊毛で覆われた柔らかな媚肉の奥を両手を這わせる。




「はっ、ん、痛い、だめ、だめです…いたいぃ」 




「叱られて、頭を撫でられて、こんなに濡れてしまったのね。ふふ、可愛いわ」


 


 苦痛と快楽は表裏一体。痛みも快楽も眉を顰め、叫び、悶え、止めて欲しいと懇願してしまう。


 


「んん、あ、あ、ご、しゅじんさま」


 


 感じ過ぎては駄目だと思いながらも、お仕置きの時のようにソファの上で無理やりお尻を突き出させれられると、この先のことに期待に胸が高まってしまう。


 腫れた両の尻肉に爪を立てられて思わずひいっと声を上げた。


 ご主人様はそれを意に介さずお尻を両手でしっかりと掴むと生暖かい舌が這いまわった。




「痛かったわね、いい子、いい子ねコウ」




 わざと言っている。私がそうやって許されることに快感を覚えることを常連さんともなれば知っている。私は羞恥に身悶えしながらも交互にやってくる痛みと快感に腰を振りくねらせた。お尻の生暖かい刺激が女性部分を溢れるほどに濡らした。


 お尻の割れ目から濡れた媚肉の粘膜に舌を差し込みながら、ご主人様のしなやかな指先は私の一番感じやすい女の肉芽を転がすように刺激を与えた。


 その刺激に背中がうねり、お尻が蠢く。




「んぅ、あっ、あっ、やっ」




 キュキュと私の爪を立てられた牛革が音を立てた。羞恥も忘れてソファの背もたれに顔を埋めながらも捧げるようにその双尻を高く晒した。


 ご主人様は両手の指を使い、溢れ出すほど濡れた私の女性器官と肉芽をさらに刺激を強くしたとき、私は苦しむように身体を震わせながら絶頂を迎えた。








 そのまま、ベッドまで抱えられて色々な物で色々なことをされてしまった。さっきみたいにされるがままでは私のプロとしての信条にかかわるので、丁寧に攻守交代を申し出て、ご主人様が心の底から止めてと泣くまでご奉仕させて頂いたのだが。


 




 合間で軽食を取ってご主人様は私を抱きしめたまま、すぅすぅと少女のように残酷で無垢な顔のまま眠った。


 丸く飛び出した豊満な胸に顔を埋めながら、ご主人様の背中を出来るだけ優しく一定のリズムでぽんぽんと叩く。


 お金で買われた私が特別だとは思わないが、あまり眠れないご主人様が私といるときは熟睡できるらしい。ボディガードのお姉さんに、だから指名を断らないで上げてね、そう囁かれたことがある。 


 無茶を言う。完全予約制の上に身体が資本のこの仕事だ。空いていれば断らないが、当然空いていなければ断るしかないのだ。


 契約上そこまで無茶をするお客様はいないが、二、三日はお尻とアソコがひりひりとしてしまうことは日常茶飯事なので、予約と予約の間は中三日は頂いている。


 ふすふすと鼻で息をしながら、それでも日々神経を尖らせて生きているこの人を癒してあげたいと心底思う。それが、プロ根性から出たものなのか私の女の部分がそう思わせているのか分からなかった。


 私は自分の意思で小屋から小屋へと移動しているが、ご主人様の方が広く見えても鳥籠の中で羽ばたいているだけなのかもしれない。




 ふいにスマートウォッチの液晶パネルがふわりと淡く光った。残時間が00:00になっていた。72時間経過。今回の契約はここで終了だ。


 隣で眠るご主人様、いや彼女は私を責め過ぎたせいか、仕事の疲れか知らないが白い顔に血の気が少ないように見えた。


 契約時間は終わったが、あと数分だけ寝かせてあげることにした。そのご褒美として勝手にぷっくりとした紅い唇を盗んだ。












 豪雨が嘘のように止んで、寝室の半分を占める一枚の窓からの景色がペントハウスを夕方の世界に浮かぶ箱舟のように見せている。


 彼女の美しい裸体の向こう側に白い月が薄く浮かんでいた。




「コウ、貴女年がら年中それじゃないの。凄く似合っているけれど、もっと綺麗な恰好したらどうかしら?」




 白いノースリーブのニットと黒いミニスカートが私のトレードマーク。別にこれだって安くはない。全部高級ブランド品だし、一点ものばかりだし。ただ、全部同じ白のノースリーブと黒のミニスカートというだけだ。




「あのメイド服くらいにはいい生地使ってるんですよ?それに昔から日本では、野良猫といえばシロとかクロと相場決まっているんですよ。…たまにミケもいますけど」




「ふぅん、どうせ私が買ってあげようとしても受け取らないし。……そうね、友人として誕生日にプレゼントするとしたらどうかしら?」




 悪戯気にプレゼントを渡す方がおねだりをする顔をした。まるで昔の大名が花魁のご機嫌を取ろうとするように。


 しかし、友人て…貴女は友人をお金で買うのかい。そう思ったが、私の口から出たのは否定でも拒絶でもなくこらえ切れない笑いだった。




「く、ふ、あははははっ。もう、ズルいし、卑怯だし、友達は友達でもそりゃセックスフレンドでしょう?あはははっ」




 仕事中にこんな気の緩ませ方は絶対しないが、危ない危ない。自分の言葉で余計ツボにはいってしまった。




「あら、なんて失礼な子なのかしら。時間内ならケイン打ち2ダースよ。まったく…ね、特別な日ならいいでしょう?」




「あー、ふー、ふぅ。了解です。ファンからのプレゼントということでしたら。あくまでも私が買うレベルの物ですよ?」




 分かったわ、と恋する少女のような桜色に彩られたとてもいい笑顔を彼女はした。私より五個は上のはずだがその微笑みはとても可愛らしく見えた。




「それでは毎度ありがとうございました。またのご指名お待ちしております」




 私は練習したカーテシーを優雅に決める。あの褐色メイドさんレベルに少し足りない程度の。当然、相手によって礼は変える。相手が純和風の奥様なら三つ指をつくところ。




「夕食はどうかしら?」




「ありがとうございます。ですが、またの機会に」


 


「本当に、つれないわね」




 上半身を起こす。腰のあたりに掛かっていたシーツがするりと滑らかな肌を滑り落ちる。たおやかな手が延ばされて私のセミロングの髪に触れた。


 私は彼女の蒼天の瞳を見つめたまま微動だにしなかった。そうする理由は一つもなかったが、窓の外の世界よりもよほど綺麗に見えたからかもしれない。




「クロウの色。貴女みたいな艶やかな髪のことを烏色とか、濡れ羽色っていうのよ?しってた?」




 貴女は本当に外人さんですか?英国貴族って平安貴族の末裔なの?




「ええ、聞いたことがありますよ。ありがとうございます」




 優し気な手つきが少しくすぐったい。自然と甘えるようにその手に頬ずりをしてしまう。


 


 「来月にならないと時間が取れないの。少しのお別れね。また悪い子で待っていてね?」




 彼女は前半を寂し気に、後半を嬉し気にそう言った。どんな台詞だろうか?


いい子で待っていなさいとは聞いたことがあるが。




「貴女のお仕置きが待ち遠しいです。いい子になれるように躾けてください」




 愛おし気に手の甲ではなく手の平にキスを落とす。営業、営業。半分本気の。






 彼女の視線を背中に感じながら寝室を後にすると、先ほどまで白く薄かった月がほんの僅かな時間の間に彼女の瞳のように煌々とした輝きを放っていた。


 玄関へ向かい、既にロックの解除されている自動ドアをタッチパネルで操作して開けようとしたとき、ふいにスマートウォッチが着信を知らせた。


 ミニスカートのポケットにねじ込んでいたスマホを見ると暗記しているお得意様の番号だった。


 私はドアが猫が歩く速度で開くのに少し焦れながら通話ボタンを押した。半ばまで開いたドアの隙間に身体を滑り込ませると、広大過ぎるワンルームの外へと足を踏み出す。それと同時に気持ちを切り替えて電話に向かってそのお得意様用の声を作り出した。ほら、もう違う私。




「毎度ありがとうございます、癒しと愛をお届けするねこ屋、紅です」

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