第33話 救出


【Doppelgänger:1】



 なるほどな……そういうことか。

 全部理解したぜ。

 発見したドッペルを【融合】で吸収して、その記憶を取り込んだ。

 今の俺の中には、【投石】【拡大】【爆発】【融合】【逃走】の5人のドッペルがいるということになる。

 【逃走】の記憶によると、どうやらバッカスたちが俺を探しているらしい。

 そしてバッカスたちは、3人の俺を捕らえた。

 捕らえられているのは【解呪】【呼び笛】【鑑定】の3人。


 こうしちゃいられないな。

 俺は【逃走】の記憶を頼りに、バッカスたちのアジトを探す。

 しかし、今の俺でバッカスたち4人を倒せるだろうか。

 相手は4人だぞ……?

 いや、こっちは5人分のドッペルを融合しているんだ。

 いざとなれば【逃走】で逃げればいいんだし、とりあえずいってみよう。

 3人の捕らわれた俺のことが心配だ。


 俺はバッカスたちのアジトへやってきた。

 正面から乗り込む。

 バッカスたちは逃げた【逃走】のことを探していたようで、すぐに俺のことを発見すると、目が合った。


「おい! 見つけたぞ! この……! どこいっていやがった! 大人しく捕まれ!」


 バッカスたちはいっせいに俺に襲い掛かってくる。

 しかし、俺はそれを【逃走】で軽く逃げる。


「なに……!? くそ、逃げ足の速いやつめ!」

「今度はこっちからいくぞ……! 【投石】……!!!!」


 俺は投石を繰り出し、石を投げつけた。

 俺の投げつけた石はワルビルに向かって飛んでいく。


「なに!? 投石だと……!? じゃあお前はさっきのドッペルじゃない!? でも、逃走も使ってたよな? どういうことだ……!?」

「さあな。これでも喰らいな」

「ふん、投石なんて雑魚スキル。怖くないぜ。こんなのただの石!」


 ワルビルは俺の攻撃を避ける気もないようだ。

 馬鹿め。


「爆発――!!!!」

「なに……!?」


 俺は投げつけた石を【爆発】させた。

 ――ボン!!!!

 ワルビルの顔面に石がぶつかり、それと同時に爆発する。

 さすがに【拡大】を使って大岩を使うのは、相手が死んでしまうからな。

 人間相手には投石と爆発だけで十分だ。

 ワルビルの顔面は、爆発によって見るも無残な姿になった。


「お前は寝てろ……!」


 立て続けに、俺はさらに投石で石を投げつける。

 今度はそれなりの大きさに【拡大】する。

 死なない程度に大きくした岩が、ワルビルの腹に直撃する。


「ぐぼぁ……!?」

「ふん」


 岩を喰らったワルビルはそのまま気絶して地面に倒れた。

 残りの三人はその様子を助けるでもなく、驚いて唖然とした顔で見つめている。


「ど、どういうことだ……!? どうなってる!? なんでお前はスキルを何個も使えるんだよ……!?」

「さてな。説明する義理はないぜ? まだやるっていうなら、相手になるけどな?」

「っく……。ドッペルのくせに調子にのりやがって! きめえんだよ、何人もいやがって。死ねええええええ!!!!」


 また3人でアホみたいに突っ込んできやがる。

 3人は3方向から、俺に向かって突進。

 俺は捕まる寸前で、逃走を使った。

 3人はその勢いのまま止まれずに、ぶつかり合ってしまう。

 ――ドーン!


「いて……!? くそ! なにやってんだお前ら……!」

「お前こそ……!」

「くそ、ドッペルはあっちだ!」


 いくら攻撃してきても、俺には【逃走】があるから無意味なのにな。

 さて、そろそろ決着といくか。


「投石! 投石! 投石!」


 俺は手の中に石を何個も出現させ、それを一斉に投げつけた。

 小さないしつぶてが3人に襲い掛かる。


「ふん! こんな石ころ怖くないぜ……!」

「学ばない奴らだな……。【拡大】――!」


 俺は石をこぶし大ほどに拡大した。

 石は3人の頭上から降り注ぐ。

 ――ズドドドドドド。

 ただの小石ならダメージはないが、こぶし大もの石がぶつかるとなると、さすがに怪我をするレベルだ。

 3人の頭部に石が当たり、血が出て肉が露出する。


「うお……!? くそ……! ひるむな……!」

「しぶとい連中だ……!」


 俺はやつらの目の前に、また投石で石を投げつけた。

 今度は、壁ほどの大きさに【拡大】してやる。

 ――ズシーン!

 目の前に、壁のような大きな岩が出現した。


「なんだ……!? 防御壁のつもりか……!?」

「まだまだこれからだ」


 そして俺は、やつらの四方を取り囲むように、他の方向にも投石。

 そして拡大。

 やつらを4つの壁で取り囲んだ。

 3人は巨大な岩壁で囲まれて、身動きがとれなくなる。


「くそ……! こっから出せ……! 卑怯だぞ……!」

「お前らは一生そこでそうしてろ」

「くそ……!」


 まあ、運がよければ誰かが気づいて助けてもらえるだろう。

 いや、ここはけっこう街外れだから、それはないか?

 まあ、せいぜい岩の中で野垂れ死ねばいいさ。

 また付きまとわれたら面倒だしな。

 街には他の俺もいるわけだし、そいつらを守るためにも、この馬鹿どもにはここで眠っていてもらおう。

 天井は塞いでないから、時間をかければ、岩壁をのぼって上から脱出もできるかもな。

 ついでに、気絶していたワルビルも岩壁の中に放り投げておく。

 

「さて、じゃあ3人の俺を助けにいくか」


 俺は洞窟の中に入り、牢屋を目指した。

 牢屋にたどり着くと、そこには3人の俺がいた。


「おお……! 助けに来てくれたのか……! さすがは俺だ……!」

「ああ、今出す」

「って、鍵は……?」

「そんなのいらないよ」


 俺は牢屋の中に手をかざして、【融合】を発動させた。

 牢屋の中にいた3人の俺がまるで吸い込まれるようにして、俺と融合する。

 これで脱出完了。

 ついでに、スキル3つと、3人分の俺の記憶を回収してっと……。

 これで合計で、8人分のスキルと記憶を持ったドッペルニコルソンになったわけだ。


 いよいよ俺も人外じみてきたな……。

 一人で8つもスキルを使える人間なんて、この世に他にいないだろう。


 いったい俺は全部で何人いるんだろうな……?

 

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