第32話 理解
【Doppelgänger:7】
「ドッペル・ニコルソン。てめえは今日でこのパーティを追放だ。理由はもちろん、わかるよなぁ?」
「そんな……!」
パーティーリーダーのカスマンからの突然の追放宣言、俺は頭が真っ白になった。
「当たり前だろう? なにせお前にはゴミスキルしかないんだからなぁ……!」
「ゴミスキル……か」
俺のスキルは【逃走】
ありとあらゆる場面から逃走することができるという、非常に便利なスキルなのだが……。
「お前は逃げることしかしない! 卑怯者だ! 肝心なときにいないしよう! 戦わずに逃げてばっかのカスじゃねえか! ふざけんな! そんなやつは百害あって一利なし! 俺のパーティーにはいらねえんだよ!」
だが、ちょっと待ってほしい。
俺のスキルはゴミスキルなんかではない。
この逃走を使えば、どんな危険な状況からでも瞬時に離脱できる。
めちゃくちゃ便利なスキルだ。
そして、俺はこのスキルを使って、これまでに何度もパーティーに貢献してきている。
それなのにいきなり追放を言い渡すなんて、ひどいじゃないか。
「ちょっと待て。俺は別に逃げているわけじゃない。この逃走を使って、いろいろとお前らのサポートをしているんだぞ?」
例えば、俺は逃走でいつでも逃げられる。
だから基本的に、俺はモンスターの攻撃なんか怖くないのだ。
おかげで、俺はみんなより先に行って、モンスターの有無を確認したり、罠を解除したりしてやっている。
俺は罠に捕らわれても、逃げることができるからな。
他にも、戦いの途中でいったん戦線離脱して、ポーションを補充しに戻ったりもしている。
俺は逃走スキルのおかげか、めちゃくちゃ早く移動することができる。
俺にかかれば街までいって戻ってくるのなんて秒だ。
「うるせえ! とにかく、逃げてばっかの雑魚はいらねえんだよ! 大人しく消えろ! まあ、お前みたいなやつは人生一生逃げ続けるだけのゴミみたいな暮らしだろうがな。せいぜい俺の見えないところで野垂れ死ね」
「聞く耳持たず……か。まあいい。俺もお前のしりぬぐいはもうこりごりだ」
「ふん、失せろゴミ」
ということで、俺はパーティーを追放された。
言い争いをして理解してもらおうというのも面倒だしな。
俺はこのスキルのせいか、面倒ごとからは逃げる癖がある。
昔から、嫌なことからは逃げてきた。
それはまあ、カスマンの言う通りか……。
まあ、逃げるが勝ちというからな。
俺は逃げ続けて、これまでうまくやってきた。
これからも、うまく人生を逃げ続けるさ。
パーティーから追い出されて、当てもなく街をさまよっていた俺。
すると、急に後ろから何者かに殴られた。
――ドン!
「は…………?」
意味が分からない。
俺はとっさに逃げようと思ったが、すでに殴られた後。
後頭部が熱くなって、頭が真っ白になっていく。
くそ……駄目だ……。
俺は静かに意識を失った。
そして目が覚めると、俺は牢屋にいた。
「これは……どういうことなんだ……?」
そして牢屋には、俺とまったく同じ見た目の人間が3人いた。
俺を含めると、その場には4人のドッペル・ニコルソンが存在していた。
意味が分からないことだらけだ……。
「お前たちはなにものなんだ……?」
「それはこっちがききたいね。俺もわけもわからないままに、ここに連れてこられたんだ」
「そうか……。一応きくが、あんたの名前は?」
「ドッペル・ニコルソンだ。あんたもだよな?」
「あ、ああ……そうだ……」
どうやら、ここにいるのは全員ドッペル・ニコルソンで間違いないらしい。
どこからどうみても、まったく同じ顔と名前。
そんな人物がこの世に4人もいるなんて、にわかには信じられないが、実際にそうなっているのだから信じるしかないだろう。
しばらく4人の俺で喋っていると、俺たちを捕らえた連中がやってきた。
俺たちを捕らえた連中は4人組で、どいつもこいつも人相の悪い男だった。
男たちは俺たちを眺めながら、話をしはじめた。
「しかし、ほんとうにドッペルが何人もいるなんてなぁ。こうして目の前で見ても、信じられねえぜ……」
「ああ、マジで奇妙だ。全員同じ顔をしていやがる……」
「どうやら、この中に俺たちの知ってるドッペルはいないようだな……」
「いったい全部で何人いるってんだ……?」
俺たちの知ってるドッペルだと……?
つまり、こいつらは、いずれかの俺の知り合い?
だが、この中にそのお目当てのドッペルはいない?
今の話からわかることは、つまり――。
この世界にはここにいる4人以外にも、ドッペル・ニコルソンが存在するということか……!?
いったいどうなっているのかは全く分からないが……。
こいつらはどういうわけか、ドッペルを集めて捕らえているわけか。
そして俺もこうして捕まってしまった。
今すぐに逃走スキルで逃げてもいいが、こいつらの情報が欲しい。
なにかわかるかもしれない。
とにかく今はわからないことだらけだ。
おかしなことが起こりすぎている。
「なあ、ちょっと待ってくれ。これはどういうことなんだ……!? 僕たちにもまったくもって不明なんだが……?」
すると、ドッペルのうちの一人がそう言った。
たしかに、俺にもまったく不明だ。
そういいたい気持ちはよくわかる。
「そんなの、こっちが知りたいくらいだ。全員ドッペルなんじゃねえのか? なんでお前自身が知らねえんだよ? まあ、いいぜ。とにかく俺たちはドッペル・ニコルソンに恨みがある。だから、お前らドッペルは全員同罪だ」
「そんな……めちゃくちゃな……。僕はなにも知らない……! 他のドッペルになにかされたっていうなら、そいつに言ってくれ……」
「うるせえ! お前らは人質なんだよ! 本物のドッペルが現れるまで、おとなしくしてろ!」
「ほ、本物って……。僕だって本物なのに……」
それを言うなら、俺だって本物だ。
こいつら全員、自分が本物のドッペルだって思っているのか……?
だが、今のでようやく話が見えてきたな。
どうやら俺たちを捕らえたこの4人は、あるドッペルに対して恨みを持っている。
そして、手当たり次第にドッペルを捕まえたってわけか。
なんでドッペルがそんなに何人もいるのかはわからないが……。
俺は、ドッペルと同じ顔ってだけで、そいつのとばっちりを受けたってわけか。
まったく、面倒なことをしてくれた……。
「なあ、ところでだが。こいつらのスキル、一応確認しておいたほうがよくないか?」
「どういうことだ?」
「どうやらドッペルはそれぞれ別のスキルを持ってるみたいだからな。こいつらがもし厄介なスキルを持ってたら面倒だ。まあ、しょせんはドッペルだからゴミスキルだろうが……。豪運みてえなやつもいるかもしれねえ」
「ああ、そうだな。おい、お前ら。右から順にスキルを言っていけ」
男たちは俺たちにそう促す。
言われた通り、ドッペルたちは答えた。
「ぼ、僕は……【鑑定】だ」
「俺は【解呪】」
「俺は【呼び笛】というスキルだ」
どうやら、他のドッペルはみんなそれぞれに違うスキルを持っているらしい。
よし、これで知りたい情報はだいたい知れたな。
そろそろ潮時だ。
「ほう、どいつもこいつも、戦闘向けのスキルではないな。こりゃあじっくりいたぶれそうだぜ。で、最後のお前は?」
「俺は――【逃走】だよ」
「なに……!?」
俺はそう答えると同時に、スキルを発動させ、その場から逃げた。
牢屋を出て、街へ戻ってくる。
俺にこれからできることは、いくつかある。
まず、あのまま他のドッペルを見捨てるわけにはいかない。
だって、あいつらも俺と同じドッペルだからな。
自分を見捨てるわけにはいかないだろう。
あいつらはあのままだと、最悪殺されるだろうからな。
別の俺が殺された場合に、俺になにか影響がないとも限らない。
それに、自分と同じ顔のやつが殺されるのは、なんか嫌だ。
あいつらから得た情報を使って、俺にできること……それは。
俺はまず、他のドッペルを探そうと思う。
あいつらの話によると、街にはまだまだ他のドッペルがいるようだしな。
俺にはこれといった戦闘能力はない。
だが、ドッペルはそれぞれ違ったスキルを持っているようだ。
だったら、他のドッペルは有用な戦闘スキルを持っているかもしれない。
俺一人ではどうしようもないからな。
捕らわれた3人のドッペルを助けるために、他のドッペルを探し、協力してもらう。
さすがに何人かは戦闘で役に立つスキルを持っているといいが……。
とにかく、複数人の俺が力を合わせれば、なんとかなるはずだ。
警察にいくことも考えたが、同じ顔の人間が捕らわれているなんて言ったら、俺が捕まる。
ドッペルが複数人いるという事実は、なるべく警察なんかには知られないほうがいいだろう。
きっと面倒なことになる。
ということで、俺は他のドッペルを探すことにした。
しばらく街で探してみると、そいつはすぐに見つかった。
「おい、あんた。ドッペルニコルソン……?」
俺は同じ顔の人間に話しかけた。
「そういうお前も。ドッペルニコルソンだな」
「なんだ……? 驚かないのか?」
同じ顔の人間が現れたら、もっと驚いてもいいだろうに。
やけに冷静だな。
俺は最初めちゃくちゃ驚いたぞ。
まさか、こいつは前にも他のドッペルに会っているのか?
「初めてじゃないからな」
やっぱりか……。
なら話が早い。
「説明させてくれ! 大変なんだ! お前の力が借りたい!」
俺は本題に入る。
しかし、もう一人の俺は、俺の言葉を静止した。
「待て。説明はいい。こっちのほうが早い」
「え……?」
すると、そいつは俺の顔に手をかざして、こう言った。
「【融合】――発動」
次の瞬間、すべてを理解した。
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